井戸の底に童貞を捨てれば

いまりょう

第1話 ファーストオーダー1

ぼくは童貞を捨てたい。

小学6年になってオナニーを覚えたぼくは次の人生目標を童貞卒業に決めた。

これしかない。今のぼくにはとにかくわかりやすい目標が必要だった。

ぼくの名前は守本すい。11歳の小学6年生。見た目は自分で言うのもなんだけれど、まあまあ整った顔立ちをしていてる。たまに知らない女の子に写真を一緒に撮ってほしいなんて声を掛けられるから結構イケてるとはず。髪の毛が天然パーマなので雨の日にやたらうねるのがコンプレックス。スポーツや勉強だって得意だからクラスの女子には人気がある方だ。

けれどもぼくは同じクラスの女子とヤッて童貞を捨てるなんて考えられなかった。

だって童貞の卒業は男にとっての一大セレモニーだ。初めて女の子にちんちんを挿入する時、少年は大人に生まれ変わる。きっとぼくは初めてちんちんを入れた相手を一生忘れないし、その相手がどんな人物なのかで、ぼくのその後の人生は大きく変わってくるはずだ。その大切な相手を近場でテキトーに選んでしまったら、その後の人生だって近場でテキトーに済ます安易な人生になってしまうに決まっている。

だからぼくは童貞を捨てるべき相手を慎重に検討する。

出来れば少し年上で、性についてある程度の知識があった方が望ましい。だってお互いが初めて同士だったら、たとえばキスする時に前歯がぶつかったり、ちんちんを入れる穴がわからなかったりして、せっかくのレジェンドが台無しになってしまうかも知れない。

かといって、ヤりまくっているビッチは嫌だ。そんな相手に初めてを捧げたって、その人は僕のことなんてろくに覚えていやしないだろうから。それに色々な男とセックスの技術や、ちんちんの大きさを比べられるなんてうんざりだった。やっぱり初めての相手はお互いが大切な思い出となる事が重要だ。

それらの条件を踏まえ、童貞卒業に適した理想の相手とは……。年の頃は中学生から高校生くらいのぼくより少しお姉さんで、今まで付き合った人数が1人か、多くても2人くらい。もし経験人数が0人だったとしても、年上のお姉さんならきっとちゃんとリードしてくれるはずだからアリ寄りのアリ。いや、むしろ処女のお姉さんぼくの童貞を貰ってくれるなんて最高やないか! そして顔が好みのタイプで、尚且つ、ある程度おっぱいのサイズが無ければいけない。

ここは絶対譲れない!

だって初めて見て触れるおっぱいが貧乳だったら、その後のぼくのおっぱいライフに多大な影響を及ぼしてしまうに違いないから。つまり、初おっぱいがペチャパイだった場合、少しでも膨らんでいれば巨乳であるという、ひどく誤ったおっぱい認識を持ってしまうに決まってる。外の世界にはまだ見ぬ(と言うかぼくはまだ生おっぱいを見た事も触った事も無いけれど)魅力的なおっぱいが沢山あるはずなんだ。そんなおっぱいに出会う旅こそ男の夢! グランドラインに漕ぎ出す前に、最弱の海である地元の村あたりで満足してしまうなんて勿体無い! 広い世界を旅して理想のおっぱいを手に入れる事こそ男の浪漫だ。

だからこそファーストコンタクトおっぱいの品質は、男にとってその後のおっぱい人生を左右する重要なファクター。ハリ。弾力。大きさ。形。乳首の造形と色。おっぱいは様々な要因で形作られる夢の膨らみ。そして何より、初めてのエッチでおっぱいを思う存分揉めないなんてあり得ない。あってはいけない! 揉んでこそのおっぱいだ。そこに魅力的なおっぱいがあれば、揉んでみるのが漢(できるおとこ)というものだ。

かといって、ぽっちゃりは嫌だ。

そう! おっぱいとは、おっぱいだけが膨らんでいるからこそ価値があるんだ。おっぱい以上に腹が出ていたら、それはおっぱいじゃなくて、ただの脂肪に過ぎない!

ということは、ベースの体型としては痩せ型か、或いはちょっぴりふくよかなくらいがちょうどいいはず。理想はこの間、初めて見たAVのお姉さんみたいに細くてくびれが合りながらも、おっぱい自体はD〜Eカップくらいのボリョームがあり、なおかつ垂れておらず、形の良い綺麗な胸がいい。そしてさらに、乳首は控えめな大きさでピンク色なら申し分なし!

もしもそんなおっぱいを心ゆくまで揉むことができたなら、それはきっと素敵な童貞卒業になる。

まさにレガシー! おっぱい万歳!!

ついでに言わせて貰えれば、顔についても派手なギャル系ではなく清楚なタイプがぼくの好みだ。

明るい金髪だったり、髪の毛がやけに盛られていたり、つけまつ毛がバサバサしていたり、目元がメイクでパンダみたいになっていたり、カラコンで捕獲された宇宙人みたいな黒目になっている人は苦手だ。もっと言えばタトゥーが入っているとか、コンドームを常備しているとかは論外。逆にキャラクターもののグッズを目立つところに装備していたり、「ググれカス! 」とか「オワタ」とか「キンキンに冷えたドクターペッパーをキボンヌ」なんてネットスラングを平気で日常会話に使うコミュ障や、語尾に「何々にゃん」みたいな変な言い回しをするメンヘラオタクも要注意だ。腕にリスカ痕があるとか地雷100%だ。

これらの条件を多角的かつ総合的に踏まえて弾き出される童貞を捧げるに相応しい人物像とは、13歳から18歳までの見た目は清楚でかわいくて、それなりにおっぱいがありながらも太っておらず、一般教養を身につけていてTPOに合った言葉遣いができ、上品で可憐なおとなし目の女の子。こんな人物がぼくが童貞を捧げるのに適していると結論付けられる。

うん……、我ながら完璧だ。

後から思えば、そんな身勝手で自分に都合のいい理想の女の子に出会うなんてある訳が無いし、そもそもそんな女の子なんてこの世に存在しないかも知れないし、さらに万が一、地球上にそんな素敵すぎるお姉さんがいたとしても、その子がぼくの筆下ろしを快く請け負ってくれるなんて、宝くじに当たるよりも低い確率なのだけど……。何故だかその頃のぼくは、不思議と必ず理想の女の子と初めてのエッチができると信じ込んでいた。それがきっと童貞マインドなんだろう。だから人生というゲームをロマンプレイしていた。それでうまくやっていけると信じていた。

とにかく……、その頃のぼくには一刻も早く童貞を捨てて大人にならなければいけない理由があった。

だって、ぼくのお父さんとお母さんはもうすぐ離婚してしまうのだ。

ぼくのお父さんとお母さんには随分前からそれぞれ秘密の彼女と彼氏がいた。つまりダブル不倫だ。そしてお互いの彼女と彼氏を小学校低学年の幼いぼくにこっそり引き合わせたりしていた。ぼくとしてはお父さんやお母さんの秘密のパートナーになんか、全然、全く、これっぽっちも会いたくなかったけれど、そうする事で、両親は2人とも、何かがクリアされて先のステージに進めると信じているみたいだった。

そこら辺の大人の仕組みはとっても複雑で、学校の勉強がいくら得意なぼくだって、不倫時の恋愛感情と行動原理なんてピンとこなかったけど……。ただ、結婚していたって他の誰かを好きになることがあるんだ……、と単純に理解した。

幸いにして、と言うか不幸中の幸いにして、ぼくは両親の不仲から離婚という割と発生しがちな人生イベントに、そこまでショックを受けてはいなかった。ぼくはひとりっ子だし、両親は2人とも仕事が忙しかったので、小さな頃から一人で過ごすのに慣れていた。本やマンガを読んだり、ゲームをしたりして、1人で自分の世界にドップリハマるのが好きだった。物心ついた時から親に甘えた記憶もほとんどない。簡単な料理くらいなら1人で作れるし、洗濯だってできる。家族3人揃ってご飯を食べたり、何かを話して笑い合ったりする事も、ここ最近は……、と言うより僕の記憶の限り、そんな事は今まで一度も無かった。つまりぼくの家庭は冷めていたし、そんなことは割とよくある話だとも思う。

けれど……。それでも、やっぱり自分の両親が別れてしまうのはショックだった。

小さな時からお父さんとお母さんが仲良くしているのを見た事がなかったから、遊びに行った友達の親が仲良さそうに笑い合っていたりすると、自分の家との違いにがっかりしたりもした。うちの親はきっといつか離婚するだろうと、なんとなく覚悟もしていた。

それでも……、やっぱり離婚して欲しくなかった。

お父さんとお母さん、それぞれの不倫相手を紹介され、どちらについて行くのかを遠回しに聞かれたりすると、嫌でも決定的な何かの終わりを感じた。当たり前に3人家族だったぼくは、離婚後、どちらについていったとしても家族は1人失ってしまう。血の繋がったお父さんかお母さんのどちらかが居なくなる。嫌な2択だ。出来ればそんな選択肢、どちらも選びたくないに決まってる。

それにお父さんかお母さんのどちらについていっても、2人とも仕事が忙しい人だから、ぼくに構っている暇なんてないはずだ。お金を稼ぐのって大変だし、ぼくは養われているんだから、寂しくたって文句は言えないのも分かってる。

なによりも……。もしぼくが2人に別れないでと頼んだところで、お父さんとお母さんの気持ちが変わるわけじゃない。人の気持ちは誰かに言われたからって簡単に変わるモノじゃない。特に誰かを好きだって思う気持ちは、たとえ血の繋がったお父さんやお母さんであっても、とやかく言う事じゃないとぼくは思う。たくさんの本や映画を見ているから、11歳のぼくにだってそれくらいの事は何となく分かっていた。

結局、ぼくの両親は離婚する。嫌だけどそれは変えられない事実。3人家族の生活はそこで終わり、ゲームの分岐点みたいにぼくの人生はそこで枝分かれする。そして新しいステージに進む。お父さんについて行くか、お母さんについて行くか。今、ぼくの目の前には2つの選択肢が浮かんでいた。

どっちが正解かは選択してみないと分からない。このゲームに攻略本や攻略サイトは無いのだから、少ないヒントを頼りにしてぼくは自分だけでそれを選ばなければいけなかった。

決断の時だ。

そしてそれは……、もう誰かに守って貰う時期の終わりが近づいているって事だった。

ぼくは早く一人前になって一人で生きていかなくちゃいけない。これからは答えのわからない選択肢を自分だけで選んで行かなくちゃいけない。

でも今のぼくにはそんな強さや自信は無い。これっぽっちも無い。だってぼくのもっぱらの関心事と言ったら、来月発売予定のゲームと、もうすぐ完結してしまいそうな連載中のバトルマンガの続きだけだ。

けれど……、それじゃいけないんだ。早く大人にならなくちゃ……。

だからぼくには何かわかりやすい成長のしるしが必要だった。

これからも人生のところどころに出現するはずの難しい2択や3択を、しっかりと選んでいける強さが必要だった。

つまり童貞卒業はぼくにとって、そういう意味があった。

理想の女の子をゲットしてセックスする。セックスって要は子作りだ。そして子作りができるってことは動物として一人前に成長した証拠。

ぼくは素敵な女の子を抱いて童貞を卒業したという人生のトロフィーを手に入れなくちゃいけない。そのトロフィーがあれば……、きっと大人になれるんだ。

だからぼくは脱童貞に向けて毎日、念密なプランニングを繰り返す。入念なプランニング無くして、成功はありえない。

それは、ぼくの人生哲学だ。

なんて……、偉そうに言い切ったけど、本当は担任のひなの先生の受け売りだ。ひなの先生はテスト勉強はもちろん、仕事だって、料理や洗濯だって、結婚するのや離婚でさえ、全ては事前の準備が大切なんだって言っていた。ちなみにひなの先生はバツイチだ。

ひなの先生は頭が良くって、綺麗で、信頼できる。なんならぼくの童貞はひなの先生に捧げたいくらいだ。それくらいぼくは担任のひなの先生を信頼しているし、尊敬していた。

まあ……、ちょっと歳は離れているけど、ひなの先生も選択肢に入れておこうかな……。

そんな事を考えながら理想の相手を探していたある日、まさかの奇跡が起こった。起こってしまった。青天の霹靂。ひょうたんから駒。チート能力を持って異世界転生。

それはまさに、空からとんでもない美少女が自分めがけて一直線ひ降っきたような超神展開!

その時のぼくは、人生って意外にヌルゲーかも知れないと思った。

もちろんこのゲームがそんなに甘くない事は後で嫌と言うほど思い知らされる事になるけれど……。

とにかく、ぼくはこの時点ではこのゲームを作った神様に心から感謝した。

神様っていたんだ。いや、ぼくは女神に遭遇してしまった。

その奇跡のエンカウントは、お父さんの再婚相手との食事イベントで訪れた。

ぼくのお父さんとお母さんは、春には正式に離婚する予定だった。その頃の2人は、新しいパートナーにぼくがうまく懐くように必死だった。夫婦の愛情は冷めてしまったけど、息子に対する愛情は残っていたみたいで少しホッとした。

けれど正直、血の繋がらない新しいお母さんやお父さんに会うのは、いつも気が重かった。

それにお父さんもお母さんもキッパリと人生の選択肢を選んでいて、ぼくの気持ちなんて関係なく次のステージに進む準備を着々と進めているのが気に食わなかった。

それでも目の前の選択肢を選ばない訳にはいかない。そうしないと人生という名のこのゲームは進まない。

お父さんとお母さん、どちらを選ぶべきか。

お母さんの浮気相手は海外出張が多い人で、お父さんと離婚したら、お母さんはその人と一緒に海外へ移住する計画だった。

けれど、ぼくは今住んでいる町、東京の東の端っこの葛西を気に入っていたし、海外に引っ越すなんて面倒くさかった。それに英語なんて喋れない(実際の行き先はスウェーデンだから、必要なのは英語じゃないのかもしれないけれど、日本……、というより葛西以外をよく知らないぼくにとっては、ロシアでもアフリカでも、たとえ南極だったとしても同じようなものだ)。

第一、ぼくの筆下ろしをしてくれるのが外人になるなんてなんだかしっくりこない。おまけに海外で理想の女の子を探すなんてハードルが高すぎる。お母さんについて行ったら、このゲームの難易度が一気にハードモードに跳ね上がりそうだった。

一方、お父さんの方は葛西に残るみたいだ。どうやらお父さんの浮気相手は同じ大学の研究室に勤めている人らしく、近々、この町の中にある戸建ての家に引っ越して一緒に暮らすと聞いていた。要するに職場内の同僚と付き合っていた訳だ。まあ、よくある不倫だった。ちなみに不倫相手との出会いは、職場がダントツトップらしい。これもひなの先生に教えて貰った豆知識だ。

そう言えばお父さんの彼女という人は、もう何度か会ったことがあるはずなのに不思議と印象に残らない人だった。その人は何年か前に離婚していて今はフリーだそうだ。とりあえず印象に残らないって事は、逆に言えばそんなに嫌な人ではないはず。

そんな理由から、ぼくはお父さんの不倫相手にもう一度会ってみる事にした。

その事を伝えるとお父さんはすごく喜んで、すぐに食事会をセッティングしてくれた。お父さんの彼女にも連れ子がいるらしいので、ぼくらは4人で顔合わせにする事になった。

連れ子の事は後から聞かされた。後出しでそんな大事な事を伝えるなんてズルい……。全然知らない子と兄弟になるなんて気が重かった。もしかしたら選択を間違えたかも……。

けれど、お父さんの嬉しそうな顔を見ていたら今更、断れなくなってしまった。

顔合わせはなぜか、隣町にあるディズニーランドの中にあるレストランで行われる事になった。当然、その前後はアトラクションに乗る流れだ。再婚予定のカップルとその連れ子という気まずい組み合わせの4人組で、いきなりのディズニーランドはかなりきつい。待ち時間の長い遊園地と言いうものはある程度、気心の知れた人達が楽しむ場所だ。

お父さんは温厚で良い人なのだけれど、人間関係に合わせた場を設けるとか、その人の好みに合ったプレゼントを選ぶとか、そういった配慮やセンスみたいなものが決定的に欠けている人だった。

この間もお父さんは彼女、っていうか新しいお母さんに結婚指輪を買ったのだけれど、そのリングが指輪物語にでてくるような金色のぶっといリングだった。マフィアのボスが着けていそうなゴツくて成金趣味なデザインにぼくはかなりひいた。あれは無い。

これから新しく人生をやり直すしるしに、一体どういう意図でそんなゴツくて可愛くない指輪を贈るのか、ぼくにはさっぱりわからなかった。

よくよく考えてみれば、ぼくのお父さんは大学で研究ばかりしている人だった。きっとお父さんはずっと好きな事をしてお金を貰っているから、常識とか空気を読む能力とかが決定的に欠けているんだ。恐らく前のお母さんもお父さんのそういうところが気に入らなかったのかな、とぼくはこの時に気がついた。

まあ、お父さんのセンスの無さは一旦置いておいて、すっかり憂鬱な気分でぼくは待ち合わせ場所へ向かった。

お父さんとぼくが待ち合わせの舞浜駅に着くと、そこにはすでにお父さんの彼女が待っていた。その人はショートカットにメガネの悪くない顔立ちの人だった。顔を見たら、ああ、この人だ、と思い出す。しかしぼくはお母さんになる予定のその人と話したことなんて全然覚えていない。だってその時、それどころでは無い衝撃があったから。

新しいお母さんの隣には、連れ子でぼくの姉になる人がいた。そう、その子は女の子だった。

ぼくはその子に会った瞬間、雷に撃たれ放心した。彼女は16歳の高校1年生で、母親と同じようにメガネを掛けていた。ほっそりとした体つきにダークブラウンのサラサラのロングヘア。まるでアイドルがお忍びでメガネを掛けて変装している時のような……、隠しても溢れ出る透明感と全然隠しきれていない美人オーラ。制服の胸元は程よく膨らみ優雅な曲線を描いていた。スカートからチラチラ見える太ももは適度に細くてすごく柔らかそうだった。肌は透き通るように白い。おっとりと喋るその声は柔らかい鈴の音みたいだった。

天使だった。

一言でいうなら、めちゃくちゃかわいかった。なにしろかわいかった。かつて無いほどにかわいかった。ぼくが11年の人生に於いて、この肉眼で確認したどんな女の人よりも彼女はかわいい。とにかくかわいい。そのかわいさはとてもぼくの幼い表現力では表しきれなかった。その時、ぼくはかわいいに理由がない事を知った。どうというのではなく、とにかくその子は、すごくかわいかった!

すっかり舞い上がったぼくの頭に、ひなの先生の言葉が福音のようにサッとよぎった。

勝負は事前準備で決まる!

ぼくはなんとか冷静さを取り戻して、たくさん考えた『童貞を捧げるにふさわしい女の子の条件』を思い出す。そして一つ一つ確認していく。

とりあえず胸の大きさは問題無し。全く問題無し! スタイルも抜群……、って、そんな事よりまずは名前だ。

彼女は夢見(ゆめみ)と言った。素敵な名前だった。そのミステリアスな響きにぼくは運命を感じてしまう。特別な人に出会ったのだと確信しかける。けれどすぐに条件を思い出して頭を振った。名前は選考基準に入ってないじゃないか。落ち着け、自分……。次回は名前も選考基準に入れておこう。

ん!? 次回……? まあ、細かいことはいいや。

それにしてもお父さん、グッジョブ!

ぼくは出会いの場所をディズニーランドに設定してくれたお父さんに心から感謝した。

だってこの場所なら好きなだけ夢見さんとお話ができる。長話をするのにディズニーランドはまさに最適の場所だった。

少し前までお父さんに腹を立てていたけれど、ぼくはすっかりお父さんを見直していた。ぼくは子供なのですぐに考えを改められる。それは子供の特権だ。

それからアトラクションに乗るための長い待ち時間の間、ぼくは夢見さんにあれこれ質問して夢見情報を仕入れた。

夢見さんは、ぼくが通う大学付属の小学校と同じ系列の高等部に所属していた。生徒会に入って書記をしているそうだ。ぼくのお父さんと夢見さんのお母さんが同じ大学の研究室で働いているのだから、その子供同士が同じ大学の付属学校に入っていても不思議はない。そんな事よりも大切なのは、ぼくと夢見さんは同じ敷地内の学校に通っているという事実だ。つまりぼくと夢見さんは大半の時間を近距離で過ごせるということだった。

残念ながら、夢見さんの趣味については、何故かすごく恥ずかしがって教えてくれなかったけど、今、付き合っている彼氏はいないと言っていた。そのかわり憧れている人がいるみたいだった。その人は会話の端々から同じ高校の生徒会長らしいことがわかった。どうやら生徒会にもその会長目当てで入ったみたいだ。憧れの人の話をする時、夢見さんはキラキラしていた。今度、クラスの友達に高校の生徒会長について聞いてみようと思った。ちょうど1人、その手の噂に詳しい子がいる。

大丈夫、ライバルがいる事は想定済みだ。敵の情報も集めなきゃ。

また夢見さんの今までに付き合った人数は上手く聞き出せなかったけれど、会話の中にはこれまで彼氏がいた気配がなかった。そして今現在も付き合ってる人はいない……という事は……、もしかしたら処女!? ぼくが初めての相手!? キタコレー!!

いやいや、落ち着け自分……。このゲームはやり直しが効かないから冷静に進めないと……。

まあ、処女じゃなくても16歳現在で彼氏無しなら、今まで付き合った男の数は多くても1人か2人だろうとぼくは当たりをつけた。

そしてふと、重要な事に気づいてしまった。ぼくが事前に考えていた条件はおっぱい関連がめちゃくちゃ多い事に……。そしてそのほとんどは、実際に見るまで分からないということに……。さらに実際にブラジャーを外して現品を確認する段階にまで事が進んでいたら……、例え理想と違っても、やっぱりご遠慮致します、なんてとても言えないことに!!

所詮童貞の浅知恵。ぼくはまだまだ精進が足りなかった……。

まあ、おっぱい案件はペンディングにしておこう。とりあえずこの時点で、それ以外の条件はほぼクリアしていた。夢見さんはかわいくて上品で優しくて理知的でスタイルも抜群!

しばらく話すうちにぼくは彼女のことを「ゆめちゃん」と呼び、彼女はぼくの事を「すい君」と呼んでくれるようになった。

そしてディズニーランドを出て別れる時、彼女は笑顔で言った。

「またね! すい君」

その後しばらくの間、ぼくの頭の中でその言葉がずっとこだましていた。

「またね、すい君……。またね、すい君……。またね、すい君……。またね、今度はもっとイチャイチャしようね……」

神の声が聞こえて心を決めた。

ぼくの童貞はゆめちゃんに貰ってもらおう!

両親の離婚が決まってから、ずっとモヤモヤしていた気持ちが久しぶりに晴々とした。

ゆめちゃんとセックスする!

それがぼくの目標になった。相手が決まった事で体の奥から力が湧いてくる。

ぼくはやる! 必ずゆめちゃんにちんちんを入れて大人になるんだ!!

……なんだか、とても大事なことを見落としている気がしたけれど、その時のぼくはすっかりゆめちゃんに夢中だったので、細かい事は気にしなかった。

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