第30話 歌声がする方へ

 リリが慌てて家に帰ろうとしていた時には、もうサクラは部屋の扉を開けていた

「モモ、いる……?」

 声をかけながら部屋の中を覗くと、目の前には見たことのない空間か広がっていた

「何ここ……」

 開けた部屋の中はベットやクローゼットがある部屋ではなく、音もなく何も無い真っ暗な空間が広がっていた

「モモ、いるの?」

 サクラの声が暗闇の中へとすぐに消え、モモも現れず、目の前は真っ暗な空間が広がったまま。暗い空間を見つめ続け怖くなったサクラが扉を閉めようとしたその時、部屋の中からブワッと強い風が吹き、ドアノブを持ちながら踏ん張ろうとするが、体が部屋の中へとじわりじわりと風に動かされ、ガタガタと風に揺れる扉も部屋の中へと開いていき、その扉に引っ張られるように、サクラの体は真っ暗な空間に入ってしまった









「サクラ!」

 真っ暗な部屋の中に入ってすぐ家に戻ってきたリリが大声でサクラの名前を呼ぶ。だが、返事はなく、サクラが寝ていた部屋の扉をバタンと音をたてて入り、ベットを見るがサクラの姿はなく、慌てて廊下に出て辺りを見渡した

「誰かいないの?!」

 叫んでみても返事もなければ誰も来ず、グッと歯を食い縛っていると、一緒に来ていたリディがサクラの部屋から出てきた

「あれ?家政婦達は?」

 リディとミクもいつも騒がしいノイズの家が静かなことに少し不安を感じ、他の部屋を勝手に開けて誰か居ないかと確認するが、部屋には誰もいないのを見て、首をかしげながら扉を閉じた

「リディは家政婦達を探してきて!ミクはノイズ達に連絡を!」

「えっ、わかった……」

 急にリリに大声で言われてリディが戸惑いつつ返事をすると、ミクがリディを抱き締めながらリリに話しかけた

「リリはどうするの?」

「私はサクラの部屋に行く!ノイズ達にも伝えてて!」







「落ちてく……。多分、落ちているんだよね?」

 その頃、暗闇の中のサクラは真っ暗すぎて地面に倒れているのか、落ちているのかも分からないまま、ただ時間だけが過ぎていた

「どこまで落ちるんだろ……」

 そう呟くと、横になっていた体をゆっくりと動かし体を起こした。地面に足がついている感覚はないが、足を動かすと歩いているような感覚はあり、歩幅を狭めながら暗闇の中をゆっくりと歩きだした。

しばらく歩いてみても、明かりになりそうな光もなく、不安だけが募りグッと息を飲んだその時、後ろから微かに声が聞こえて、怯えつつもゆっくりと振り向き、その声が聞こえる方に歩いていくと、リズムよく聞こえるその声に歩いていた足が止まった

「唄が聞こえる……。この唄、聞いたことあるような……。でも、たぶん違うよね……」

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