第12話 優しい声と降りだした雨
薄暗い雲がまだノイズの家の真上にあるなか、ベランダに出たサクラが、少し濡れた花びらをちょこんと指でなぞる。すると、雨水が少し跳ねて、サクラの左腕に抱かれていたモモがジタバタと動き出した
「ちょっとモモ、動くと余計濡れちゃうから動かないで」
慌ててモモを止めようとするが、ページを開いたり閉じたりして、無理矢理腕から離れたモモ。そのままベランダに出た部屋の方にバタバタと大急ぎで行くと、部屋の中からサクラ達を見てクスッと微笑む男性がいた
「お客様かね」
と、サクラを見て問いかける男性に、家政婦達が慌てて駆け寄りその男性にペコリと頭を下げた
「旦那様!いつお帰りに……」
「お迎えできず申し訳ありません!」
「大丈夫。お客さんが来ているなら、そちらを優先するべきだからね」
家政婦達に微笑み返事をする男性。サクラがやり取りをぼーっと見ていると、男性がサクラの元に歩いてきた
「君、名前は?」
「サクラです」
「そうかい。サクラさんか」
そう言うとニコッと微笑むと、サクラが抱きしめている本に気づいてまた微笑んでいると、その後ろから嬉しそうな大きな声が聞こえてきた
「お父様!」
2階にあるノイズの部屋の窓からノイズが手を振っている。サクラ達がそれを見た時、ノイズが窓からふわりと浮くようにサクラ達がいるベランダへと降りてきた
「お父様、お帰りなさい」
「ただいま。この方はノイズのお客様かい?」
「そう、可愛いでしょ。サクラは今日、別の世界から来たの。それでね、これから私の部屋の隣に住むことにしたから。いいでしょ?」
「ああ、それは構わないよ」
サクラを抱きしめ嬉しそうに話すノイズに、フフッと微笑む男性が、ちょっと困った顔をしているサクラに気づいた
「ノイズが迷惑かけたかな。すまないね」
「迷惑かけてないよ、ねぇ」
と、グイッと顔を近づけてサクラに問いかけるノイズ。サクラが問いかけに答えるように、ゆっくりと頷くと、ぎゅーっと力強くサクラを抱きしめ、モモがジタバタと動いて、サクラから離れて、二人の周りをウロウロと回る
「サクラさん」
「はっ、はい!」
二人とモモの様子を見て男性がクスッと笑いながら、サクラを呼ぶ。驚いてサクラの声が少し裏返り、ノイズが頬をつついて微笑む
「私やノイズの母親はあまり家には帰ってこれないから、サクラさんが泊まるというのは、とても嬉しいよ。ノイズはもう沢山迷惑かけていると思うが、困ったことがあれば、家政婦達に言うといいよ。そうだ、ノオト君やメメに言うのもいいね」
優しい口調で話す男性に、サクラがまたゆっくりと頷き、ノイズも抱きしめていた手が少し緩んだ
「では、私は少し休んでまた出掛けるから。ノイズ、留守番は頼んだよ。サクラさんもゆっくり休んでね」
「……はい」
サクラが小さな声で返事をすると、男性が家の中に戻ろうと、くるりと振り返り歩き出した。すると、サクラを抱きしめていたノイズの手がぎゅっと強くなった
「お父様、お母様はいつ帰ってこれる?」
「うーん、いつかは分からないな……。でも、会いに行くのは可能だから、会いに行くといいよ」
「そっか、今は忙しいものね」
「ごめんね。ノイズやサクラさんの事は伝えておくよ」
申し訳なさそうに答えると、一人先に家の中に入った男性の後を家政婦達が慌てて後を追いかける。姿が見えなくなると、サクラがノイズの顔を見ようとした時、サクラの頭にポツリと何か当たった
「……雨だ」
「モモが濡れるね。部屋に入ろ」
ノイズがサクラに話しかけている間に、モモがサクラの腕に戻ってきた。ノイズがそれを確認をすると、ふわりと浮かんでノイズが降りてきた窓から部屋の中へと二人一緒に入った
「あの子はノイズが呼んだのか?」
ノイズと別れた後、自室に戻ってたノイズの父親。家政婦も数名中に入り、お茶や着替えなどを用意している
「はい、先ほど突然連れてきました」
「そうか。ノイズは、どうするつもりかな」
家政婦の話にクスッと笑っていると、カタンと物音が聞こえてその音のする方に振り向くと、さっきまでいなかったはずの三毛猫がテーブルの上で、ニャーと鳴いた
「休む時間は与えてはくれないな」
「お体は大丈夫ですか?」
「まあ何とかね」
不安そうな家政婦達にフフッと笑って答え、三毛猫の頭を撫でるとグルグルと嬉しそうに喉をならし、ふっと姿が見えなくなり、ノイズの父親が部屋を出るため、家政婦よりも先に部屋のドアノブに手を掛けた
「まあ、後少しの辛抱さ。ノイズやノオト君、それにサクラさんを連れてきたなら、僕らの仕事はそろそろ交代かな」
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