第8話 戸惑わないように名前をつけて

「じゃあ早速、私の家に行こっ」

 資料がオンプをさの手に渡ってすぐ、サクラを後ろから抱きしめながらノイズがそう言うと、急に抱きしめられ戸惑いつつサクラが少し振り向いた

「えーっと、ノイズ……の家にですか?」

「うん、近くといえば近くだから。サクラも少し落ち着きたいでしょ?ノオトも来る?」

 と、ノイズも少し振り向いてノオトに問いかけると、メメがノオトの肩に乗り、頬に頭を擦り寄せた

「ちょっと用事があるから、後から来るよ」

 と、メメの背中を撫でながらノオトが返事をする

「了解。何か甘いものでも買ってきてね」

「買い物じゃないのよ」

「いいじゃん、サクラの分もよろしくね」

「そうね、覚えていればね」

 ノイズに返事をして、サクラを横目で見た後、出入り口の方へと歩きだしたノオト。すぐに人混みの中に姿が消えて、オンプが寂しそうな顔をしている



「私たちも行こっか。本を忘れないでね」

「……はい」

 ノイズに言われてテーブルに置きっぱなしにしていた本を取り、ぎゅっと抱きしめた

「では、サクラさんお気をつけて。何か問題が起きれば、私をお呼びください。オンプといえば、すぐに飛んできますから」

「はい、ありがとうございます」

 オンプの言葉を聞いて少し安堵したサクラがペコリと頭を下げながら返事をするとオンプもペコリと頭を下げ、手を振りサクラとノイズを見送ると、すぐに二人の姿も人混みに消えて、オンプが受付の方へと早足で向かっていった




「そうだ。その本に名前でもつける?」

 ノオト達と分かれ、また見知らぬ町中をしばらく歩いた時、ずっと緊張しているような顔でキョロキョロと周りを見渡して歩くサクラにノイズがふと思い付いたように話しかけた

「本の名前?」

「うん、私達は適当に、ほんーって言ってるけど、サクラは名前つけて呼んだ方が楽じゃない?」

「じゃあ、えーっと……」

 ノイズの言葉を聞いて抱きしめていた本を少し離して見つめ、そのまま歩きながら名前をどうしようかと考え込む


「それじゃあ、モモにしようかな。よろしくねモモ」

 と、サクラが本を見つめそう本に向かって言うと、本が手から離れサクラの周りをバサバサとページの音をたてグルグルと回り動きだした

「モモねー。まあいいか」

 サクラとモモと名付けた本を見て、ノイズがクスッと笑い、モモと見つめ合うサクラを置いていくように、少し歩く速度を上げた。慌ててノイズの後を追いかけるサクラ。追いかけてすぐ、賑わっていた町並みからちゃんと整備された道の中、木々や草花が溢れる場所に出た 



「着いた。私の家ここ」

 サクラが木々や草花に夢中になって歩いていると、ノイズが突然立ち止まりそうサクラに言うと、二人の目の前には、サクラが通う学校よりも大きく綺麗な建物が立っていた

「えっ、凄いお家……」

「まあ、敷地だけはね」

 その家の大きさに呆然とするサクラに、ノイズは気にせず壁にあったチャイムを鳴らすと、大きな門が開いて、ノイズが門の中に歩きだすが、サクラはまだ呆然としていて歩かない。すると、ノイズがサクラの手をぎゅっとつかんで、引っ張るように歩きだした


「ノイズ様。お帰りなさいませ」

「あら、このかたは……」

 門から歩いてすぐ着いた建物の入り口前に家政婦らしき女性達が左右にずらりと並び、初めて見たサクラを見てちょっと困った顔でノイズに問いかけた

「友達のサクラ。しばらく家に住むからよろしくね」

「えぇっ!」

 家政婦達に見せるように、サクラを前に立たせ言ったノイズの言葉に、思わず大声で驚くサクラ。その声にモモも驚いて、サクラの周りをグルグルと動き回る

「……かしこまりました。皆さんには伝えてありますか?」

「ううん。代わりに言っててもらえる?」

「仕方ありませんね、伝えておきます」

「ありがとう。私の部屋に居とくから、サクラの部屋の用意お願いしてもいい?」

「ええ、すぐに」

 と、ノイズに返事をすると家政婦達がペコリと頭を下げた

「ありがとう。サクラ入ろう」

 まだ戸惑うサクラの手をつかんで、家政婦たちが開けてくれた玄関の中へと入っていく。建物の中に入ると、建物よりも更に大きく見えて、サクラの歩く速度が落ちていく

「サクラ、こっち」

 と、ノイズがグイグイとサクラの手を引っ張って、階段を上がり奥の方へと歩いていくと、あちらこちらに小さな傷のある扉の前に着いて、ノイズがその扉を開けると大きな窓が見えた

「ここが私の部屋」

 そう言うとサクラの手を離し、窓を開ける。まだ入り口の前から動かないサクラを手招きすると、恐る恐るながらもやっと部屋の中に入ると、後ろからカチャカチャと音が聞こえ驚いて振り向くと、家政婦が二人分の飲み物を持ってきていた


「広くて凄いお家だね……」

「そう?広くて不便だよ。サクラの家くらいがいいよ」

 と、サクラに返事をしながら数名が座れそうなほど大きなソファーに勢いつけて座った

「サクラ、適当に座ってね」

「座ってって言っても……」

 と、ノイズが座るソファーを見て、困ったように返事をしていると、カチャカチャと音をたて飲み物を淹れていた家政婦がサクラを見てニコッと微笑んだ

「サクラさん、紅茶で宜しいですか?」

「あっ、はい……」

 小さな声で返事をして、恐る恐るノイズの隣に座ると、ソファーの前にあるテーブルにモモがふわりと降りると、家政婦が淹れた紅茶がモモの隣に置かれると、ノイズにも紅茶が手渡され、ふぅ。と一息つきながら一口紅茶を飲んだ

「サクラも紅茶を飲んでゆっくりしながら、色々話そっか。その間にノオトとメメも来るかもしれないからね」

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