48 ただいま
「大事なことだから二度言う。われは女が苦手じゃ」
「御意」
帝の言葉に、ブグンは表情筋ひとつ動かさなかった。
「だから――。やはり、タショール妃の言うとおり、そのままの後宮を受け継ぐべきではなかったな」
「イメール妃とタショール妃に御不満がというわけでないのなら、歩み寄りなさりませ」
「いや。だから――、女が苦手なのだ」
「三べん、おっしゃいました」
「むぅ」
「それは
「……」
シャタルがバツの悪そうな顔をしたということは、そういうことだ。
それは降嫁して十数年たつというのに、いまだ
そんなこんなを
彼らはホスタイを通過した。
「行きに野営したところだね」
あと一息で、
「地下迷宮へは
真白月は〈月〉の部族にならい、
「
「置き去りにされたもんね」
そろそろ日暮れが早くなった。
「
「頼むだけ頼んでみましょうか。むげに断られる可能性、大ですが」
城にいる者たちは、その地下に
その
「あ」
見張り番は、いかにも残念そうな声をあげた。
「前方に来る騎馬の者あり。見覚えあります」
その者は、いつか
「
「うちに用かしら」
うしろから声をかけられた。
ふり向くと墨染の衣の尼がいた。
「あ」
会ったことがあると、
「あなたたち、ドルジの宴会に呼ばれたの? いらっしゃい」
その尼は、何かカンちがいしている。
「お芝居か何かするの? それとも手品?」
「
ぼそっと
あとは、馬だ。
「尼君さま、その方たちは」
「月の
そう、
(美形のボケ、ハーフマスクのツッコミの吟遊芸人が誕生するのは、また別のお話でアル)
そして、
「おそろしい、おそろしいことだな……。
ふたりは城の応接の間に通されて、かくかくしかじか逃げ出すまでの
「それで、おまえたちは謀反人扱いなのか、そうでないのか。それによっては、こっちの対応も考えさせてもらわないとだな——」
「ドルジ。面接は終わったかしら」
うす布のカーテンの向こうから、ひょいと尼がのぞいた。
「母上、いえ、まだ」
ドルジが今まで聞いたこともないような、やわらかい声を出した。
「あたしは、このコたち、おもしろいんじゃないかと思うのよね。前座を任せてみたらどうかしら」
尼も、やわらかな声音ではあったが、どこか押しが強かった。そして、完全に何かカンちがいしているということは、
「わかりました! 採用!」
ドルジが小さな目をひんむいて、
(話、合わせとけ!)と、
「厨房の近くの召使い部屋を使うといい。食事も用意させる」とドルジが言うのを聞いて、「やった!」、
「さ。行った、行った」ドルジが、ほうきで掃くがごとく、
尼のそばを通り過ぎるとき、
「あの尼、殺気がまったく感じとれなかった……」
「無断で
「いや、殺気て。アメちゃん、くれただけだけど」
「母上の誤解は想定外だった……。おまえたち、旅の芸人を装っとけ。
ドルジが頭をかかえていた。
「あ。やはり、ドルジさんのおかあさんだったんですね。
「すまんかった。その節は」
ドルジは認めた。自分の母親を人質に取られていた。そして、腹ちがいの兄の子を、その代わりに差し出したことを。それに、
「どうする?
「水に流しましょう、そのことは」
「いや。
そっちかーい。
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