白月を巡る騎士たち
ミコト楚良
辺境の地 弦月の城にて
1 14歳の新月
新月の夜は地下迷宮の見張りがゆるむ。そのことは、ずっと前から知っていた。
システムが真夜中から
地下迷宮は
「ふーん」
とりあえず、わからないことは横に置いた。
「本当に行くノか」
「だって。この、
「じゅうよん歳は、まだ子供だシ」
「何? たきつけておいて、今さら怖気づいた?」
「
「泣き落とせばいい。
ぼんやりとした
ひとりは、声からすると少女。
もう一人は、やたらガタイがいい半人コンピューター。外見と中身があっていないのは、中身のシステムを後付けしたのだろう。
「うだうだ言わずに、道案内」
小さいほうの影が、逆らえない圧を出してきた。
半人コンピューターは、あ~あと肩をすくめた。たぶん、できたなら。
この子供を、彼は生まれたときから面倒を見てきたのだ。
この地下迷宮は、
〈外〉に出たことはない。
ただ、そのような日を想定して
「
「仮想現実がバーチャル・リアリティー。拡張現実がオーグメンテッド・リアリティ。これら二つの情報を同時に受け取ることで、仮定の体験をすることが可能。古典中の古典でっス」
「ふーん。まぁ、いいや」
また、話が込み入ってきたと感じて、
とにかく、そのシステムで、地下迷宮の上にあるのは原住の民の城だと教わった。それだけ、理解していれば十分だ。かつては、
『――お城では、今宵、
そう、
彼のシステムの一つは乳母型で、
実際、長きにわたり地下迷宮は
そして、今、
「この扉の向こうが、〈外〉だス」
見上げると〈非常出口〉と書いた緑の誘導灯が、ちゃんとついている。
地下迷宮は安全かつ居住性に富む。世が世であれば、名誉ある星雲建築賞をも受賞できたであろうというのが、
扉に手をかけて
「やめる? タワシ、ついていけんシ」
「ううん。行くよ。決めたから」
「引戸、引戸」
「見た目、絶対ドアじゃーん。だまし討ち」
ショートボブをゆらして、
「見た目に惑わされるなト、
「帰り道は、〈
「りょーかい」
右が稼働中。左はスペアだ。その高性能な通信機器を、
その昔、夜通し遊ぼうとする不良娘を、保護者が〈帰れコール〉するための手段だったらしい。
「お願いしますヨ。夜明けとともに、
「りょーかい」
自分がすり抜けられるだけ引戸を開けると、
(タワシの届くところにイテほしかった。もぅ、あの子を守るのはタワシでない)
乳母の心、子知らず。
その廊下の突き当りは円形の小さめの白い部屋で、
それでも、
そのとき、音声が空間に響いた。
「――両足をソろえて、階段の1段めにお乗りくだサィ」
一瞬、
「
「いいえ、ワタシは
音声が答えた。声は天井から降ってくるようだった。
「両足をソろえて、階段の1段めにお乗りくだサィ」
もう一度くり返されて、
ヴン。
機械の振動が、足の裏に伝わってきた。
「了承いたしまシタ。手すりにおつかまりくだサィ」
ゆっくりと、
(わっ)真白月は、思わず声が出そうになった。
「オ手元のボタンで、オ望みの速度で動かせマっす」
「便利」
「先ほどの計測で、あなたサマに的確な速度を選んでおりまス。ので、オ急ぎでないなら、そのママ」
「了解」
かなり、ゆっくりな速度の
内壁には青白く光る線画が描かれていた。
星々か、舟か、羽衣をまとった女たちか。
兵士、戦、何かが破裂する描写。
どこかの
人物の手に持つ物や衣で、地位や、年齢がわかる。
ベールをかぶっているのは、乙女。
大太刀を携えているのは、騎士。
冠を戴いているのは、
ぐるりとアーチ状の入り口が4つ、アーチの上の部分には素朴な動物のレリーフが、それぞれ彫られている。真白月は思い切り背伸びして、そのレリーフを確認する。
おそらくは、〈四匹の力持ち〉と呼ばれる聖獣たちだ。
「どちらへ? おー出かけでっスか」
「――
「デしたら、右の
すると、いきなり体が浮く感覚に包まれ、まわりの風景は、ほの白い光に包まれた。
はたして
※〈レリーフ〉 浮き彫り細工
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