からのそら

a1kyan



「今年は雪があんまり降らないんだって」

「ええ、そうなの? ざんねん。雪合戦してみたかったのに」


 朝、天気予報のお姉さんが言っていたことをそのまま伝えると、そらちゃんはかくりと肩を落としました。

 そらちゃんはわたしのたったひとりのお友達です。

 わたしがひとりでいるとどこからともなくやってきて、小鳥みたいにきれいな声でわたしに遊ぼうと言ってくれるのです。


「地球がね、どんどんあったかくなってるんだよ。温暖化、っていうの」

「そうなんだ。からはほんとに物知りだよね」


 にぱ、と笑うそらちゃんはクラスの誰よりもかわいくて、見てるとわたしまでついつい楽しくなってきます。

 さらさらだけどふわりとした髪の毛、お人形さんみたいに白い肌。

 そらちゃんはわたしの手を握ると、楽しそうにわたしの周りをくるくる回りました。


「ねえ、何して遊ぶ? 何して遊ぼっか、から」

「なんでもいいよ」


 わたしはあまり、流行りの遊びというものを知りません。

 クラスの子たちがしている手遊び歌やおまじないなんかも全然知らないし、ふたりきりなので鬼ごっこやかくれんぼはできません。

 家には携帯ゲーム機もありますが、そらちゃんはゲームをしたりスマホで動画を見たり、そういう今風な遊びはあまり好きがらない子です。

 だからわたしがそらちゃんと遊ぶ時は、いつもそらちゃんが遊びの内容を決めます。

 そらちゃんのやりたがる遊びは正直別におもしろいわけではないのですが、何かあるたびきゃあきゃあ楽しそうにはしゃぐそらちゃんと一緒に遊んでいると、不思議といつの間にかわたしも夢中になっているんです。


「結構難しいね、お城作るのって」

「そうだね。スコップもバケツもないからね」


 今日そらちゃんがやりたがったのは砂遊びでした。

 でも砂のお城を作るのに必要な道具なんて持ってきてるわけがないので、近くに落ちていた太めの木の枝をスコップの代わりにすることにしました。

 バケツの代わりに空き缶で水を汲もうと提案したのですが、そらちゃんが汚いからと嫌がったので、わたしたちは水がほしくなるたびせっせと水飲み場まで走って手をお酌の代わりにし、少しずつ砂を濡らしていくことになりました。

 でもそらちゃんはぶきっちょなので、ついついスコップ代わりの枝を深く突き刺してしまい、建設中のお城をがらがら崩してしまいます。


「ここをこうして……あぁっ、崩れちゃった」

「もうちょっと慎重に削らないとだめだよ、そらちゃん。ほら、もっかい作ろ?」

「うん……」


 なんて言ってるけど、わたしもそらちゃんとどっこいどっこいのぶきっちょです。

 そらちゃんが崩す前に、わたしもわたしでお城になりたがってる砂のお山を少し崩してしまっていたのですが、そらちゃんが気付いていないのをいいことにそっと心の中に隠してしまいます。

 でも嘘をついているとどうしてもおもしろくなってきて、気付くとくすくす笑ってしまっていました。

 それでもまだそらちゃんは気付いてないみたいで、不思議そうに首を傾げています。

 やがてお城を崩してしまったことを笑われていると間違った答えにたどり着いてしまったのか、そらちゃんはぷうっとほっぺを膨らませました。


「も~、そんな笑うことないじゃんっ」

「ふふっ、ごめんごめん」


 そらちゃんはわたしより子どもだと思います。

 この子はよく笑うし、よく怒るし、よく泣くんです。

 だからわたしは、そらちゃんと遊んでいるとたまに妹と遊んでいるような気持ちになります。


「まだ日が暮れるまで時間あるし、ゆっくり作ろうね」

「……うん」


 まだちょっと拗ね気味だけど、それでもこくんと頷くそらちゃん。

 その頭をわしゃわしゃ撫でながら、わたしはもう一度砂場に向き直りました。


 けれど。その時、わたしの頭にがつん、と何か硬いものがぶつかってきました。

 こつん、ではなく。がつん、です。

 ぐわんぐわんと頭の中に響くような痛さと、少し間を置いてからやってくるじんじんひりつくような痛さ。

 石をぶつけられたんだと気付いたのは、崩れた砂山の上にさっきまではなかった白っぽい石が転がっていたからです。

 血が出てたら嫌だな、と思いながら頭の痛いところに触るわたし。その耳に、聞いたことのある声がいくつか入ってきました。


「ここはニンゲンの公園なんだから気違いは出てけよ。お前さ、マジで気持ち悪いんだよ」

「紗良ちゃんがいなくなったからって調子乗ってんの? ほんと最低だよね、小綿って。腐ってるよ」


 クラスメイトの子たちです。

 わたしに石を投げたのは、えぇと。

 石田くん、っていう名前だったかな。

 いがぐり頭の、いつもうるさい男の子です。

 でも石田くんだけじゃなくて、他にも何人かクラスメイトがわたしの方を見ていました。

 中でも紗良さん──琴藤さんと仲の良かった相沢さんはすごく嫌なものを見るみたいな目をわたしに向けています。


 もしかするとこの子たちの中では、お友達の琴藤さんが死んだのはわたしのせいということになっているんでしょうか。

 だったら困るなあと思っていると、二個目の石が飛んできてわたしのおでこに当たりました。

 今度は相沢さんが投げたみたいです。おでこから、じわっと血が滲むのがわかります。


「紗良ちゃんの代わりに、アンタが死ねば良かったのに」


 ぎろっと睨みつける相沢さんの目には、少し涙が浮かんでる気がしました。

 こうなってしまったら、もう砂遊びは終わりにするしかなさそうです。

 みんなから汚い言葉をかけられながら、わたしは砂場から立ち上がりました。


「ごめんね。行こ、そらちゃん」


 そらちゃんの方を向くと。

 そらちゃんは、クラスの子たちの方をじっと見つめていました。

 その顔は笑顔でも怒った顔でもなくて、無表情。

 サイコロみたいに表情がころころ変わるそらちゃんらしくない顔です。


 わたしはそらちゃんのこの顔が好きじゃないので、彼女の手を引いてゆっくり歩き出しました。

 お城を完成させられなかったのは残念だけど、そらちゃんと一緒ならお散歩だって楽しいはずです。

 まだおうちに帰るまでには時間があります。

 嫌な思いをさせてしまったぶん、めいっぱい楽しんで帰らなくちゃ。


「一生ひとりで友達ごっこしてろよ、いかれ女」


 そんな声がわたしの背中に投げかけられましたが、無視します。

 あの子たちはわたしのことをバカにするとき、いつも必ず言うのです。

 友達ごっこ、と。

 わたしはそらちゃんとそんな遊びをしたことは一回もないのに、へんな子たち──そんなことを思いながら、わたしはそらちゃんと公園を出て。


 それから日が暮れるまで町をお散歩して、近所の野良犬くんと戯れて、わたしたちはバイバイをしました。

 そらちゃんは姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていて、わたしもそらちゃんが見えなくなるまでずっと振り返していました。



◆◆



 おうちに帰って夕ご飯を食べて。

 わたしは居間でソファに寝そべりながら、携帯ゲーム機で遊んでいます。

 お母さんとお父さんはテレビを見ていて、その内容についてやいのやいの口を出していました。

 なんとなく画面を見てみると、なんとかっていう女優さんが自殺した、ということでした。

 わたしはドラマをあんまり見ないので、誰だかはわかりませんでしたけど。


「辛いのはみんな一緒なのにねえ」

「そうそう。世の中には仕事もロクになくて苦しんでる奴もいるのに、甘えてんじゃねえって話だよ」


 わたしのお父さんは髪を染めていて、普段は建物の工事のお手伝いなんかをしているそうです。

 でも雨や雪が降るとお仕事がぱったりなくなってしまうので、時期によっては何日も家にいることがあります。

 特に冬の年明けごろは毎年お仕事がなくて、ずっと家でごろごろしています。


「自殺なんかしたらどれだけ周りに迷惑かかるか分かってんのかな? 勝手な女だよな」

「ほんとほんと。気分悪いわ、まったく。アンタ自分ひとりで生きてきたつもりなのって言ってやりたいよね」


 特に混ざるようなお話でもなさそうなので、わたしはゲーム画面に意識を向け直しました。

 なんとなく大げさな音楽の流れるお城の中を、わたしの分身であるキャラクターが勢いよく駆け抜けます。

 二年も前に買ってもらったゲームなので正直もう飽きてるんですけど、もうすぐクリスマスなので我慢して遊んでいます。

 お母さんよりもお父さんよりも、わたしの方がゲームはじょうず──らしいです。


「嘉良も、自殺なんかしたら絶対駄目だからね」

「うん」

「そうだぞ。世の中、生きてれば大体なんとかなるもんだ」


 わたしが素直にそう答えると、お母さんたちはもう自殺のニュースから興味をなくしたようで。

 チャンネルを切り替えてお笑い番組をかけると、ビールを飲みながら楽しそうに笑い始めました。

 お母さんたちは、わたしがそらちゃんと仲良しなことを知りません。

 前に一回そらちゃんの話をしたらものすごくめんどくさいことになったので、それきり話さないようにしています。

 そらちゃんとはお外でしか遊べないので、お出かけを禁止されてしまったら困りますから。



◆◆



 外国語の授業が中止になりました。

 クラスの相沢さんが病気で入院したので、千羽鶴を折ってあげようということになったそうです。

 折り紙は得意だし、わたしは外国語が苦手なのでよかったなあと思いました。


「なあおい、知ってるか? 相沢の病気、結構やばいらしいぞ」

「うん、ママが言ってた……。加代のお母さんからうちに連絡来たんだけど、その時電話の向こうでぼろぼろ泣いてたって」

「あいつも死ぬのかなぁ」

「ちょっとやめなよ、そういうこと言うの。本当に死んじゃったらどうするのさ」


 そういえば、そらちゃんと折り紙をしたことはまだないような気がします。

 そらちゃんはゲームはしたがらないし、漫画もあまり読みたがらないけど、こういうのなら喜んでくれるんじゃないかな。

 なんてことを考えながら、何匹鶴を折ったでしょう。

 ふと、教室のドアが開いて。何人かの女の子たちと、担任の外崎先生が入ってきました。


「こら、静かにしろ。席を立つんじゃない、自分の席で静かに折りなさい」


 どうりで騒がしかったわけです。

 先生のいない教室なんて、動物園とそんなに変わらないでしょう。

 戻ってきた先生とクラスの子たちをちらっと見ると、その子たちもわたしの方を見ていました。

 昨日、公園で相沢さんがわたしを見ていた時の目と似ている気がしました。


「あー、嘉良。放課後、ちょっと保健室に来るように」

「わかりました」


 保健室。

 呼び出しなら普通職員室じゃないんでしょうか。

 別に風邪を引いた覚えはないんだけどなあ。

 そんなことを思いながら、わたしはまた黙々と鶴を折る作業に戻るのでした。


 それにしても。

 鶴を折るのは楽しいからいいのですが、こんなものを千羽ぶんも送りつけられたら、普通迷惑に感じるんじゃないでしょうか。

 わたしだったら、別にいらないなあ。

 鶴が見たかったら、自分で折ればいいので。



◆◆



「嘉良ちゃんは、ちゃんとお友達と遊べてる?」

「はい。いつも遊んでもらってます」

「そっか」


 放課後。

 保健室に行くと、待っていたのは外崎先生だけではありませんでした。

 たぶんお母さんよりも若いだろう、眼鏡をかけた優しそうな女の人です。

 先生はわたしに、「かうんせらー」の吉田さんだと紹介してくれました。

 かうんせらー。カウンセラー。どこかで聞いたことがあるような、ないような。


「今入院してる、相沢加代ちゃんとは仲が良かった?」

「はい」

「……亡くなった、琴藤紗良ちゃんとは?」


 なんでそんなことを聞くんだろうと思いながら答えようとすると、吉田さんは「あっ」と何か失敗に気付いたみたいな顔をして、慌てて言います。


「ごめんね、もし思い出して悲しくなっちゃうようだったら答えなくていいからね。さっきも言ったけど、嫌な質問には答えなくても──」

「ううん、大丈夫です。琴藤さんとも仲良くしてもらってましたよ」

「……そう、なんだ」


 さらさら、と吉田さんは手元の紙に何かを書き込みました。

 その顔は何か戸惑っているような、不思議がっているような、そんな感じに見えます。


「うーんと、ね。じゃあ……嘉良ちゃんが一番仲良しのお友達って言われたら、誰を思い浮かべる?」

「それこそ、琴藤さんだったと思います。今なら、若林さんかなと」

「……、……」


 琴藤さんとは仲良しではありませんでしたが、もう死んでしまったので嘘をついてもばれることはないでしょう。

 若林さんというのは、いつも本ばかり読んでいるおとなしい子です。

 ほんとは話したこともありませんけど、わたしの口はすらすらと言葉を吐き出してくれました。


「もういいですか? あんまり遅くなると、お母さんが心配してしまうんですけど」

「あ、そうだよね、ごめんね? でももう少しだけ、私とお話してくれないかな?」


 わたしはこくんと頷きます。

 すると吉田さんは一瞬なにか躊躇うような様子を見せてから、わたしにまた質問を投げかけました。


「……自分にしか見えないお友達と、遊んだことはある?」

「ないです」


 ああ、やっぱりそうなんだ。

 わたしは心のなかで、そう思いました。

 回りくどい質問ばかりでしたけど、結局聞きたかったのはこれなんでしょう。

 たぶん、クラスの子たちが先生にわたしとそらちゃんのことを告げ口したのです。

 それを聞いた先生が、このカウンセラーの吉田さんに相談でもしたのでしょう。


「それっておばけの話ですか? わたしは、おばけはいないと思ってます」


 わたしだって、バカじゃないんです。

 そらちゃんがどうやら他の人には見えてないらしいことはわかっています。

 そらちゃんが、どうしてわたし以外の人の目には見えないのか。

 そらちゃんは、いったい何者なのか。それはわかりませんし、どうでもいいことです。

 クラスの子たちに友達ごっこだなんて言われて笑われても、まあ、そんなに気になりません。

 問題なのは、そらちゃんのことが誰か大人に知られると、こうしてとってもめんどくさいことになってしまうことなのです。


「そっか……ごめんね、変なこと聞いちゃったね。でもね、嘉良ちゃんが公園でひとりでおしゃべりしてるところを見たって子がいるみたいなんだ」

「わたし、動物に話しかけちゃう癖があるんです。野良犬とか野良猫とかに。たぶん、それを勘違いされちゃったんだと思います」


 前、うっかりお母さんにそらちゃんの話をしてしまったことがあります。

 その時は大騒ぎされて、次の日によくわからない病院に連れていかれました。

 病院に行く前にふたりぶんの帽子を買って、待合室ではこれを深く被るのよ、と言われたのをよく覚えています。

 行っていると知られたら恥ずかしいような場所に連れていかないでほしいなあと思いました。


「たぶんね、お友達のみんなは嘉良ちゃんのことを心配して外崎先生に相談してくれたんだと思うんだ」

「だったら嬉しいです。あとで、勘違いさせてごめんなさいと謝っておきます」


 でもそれより、当分の外出を禁止されたのが一番困りました。

 そらちゃんと遊べないので、何も面白いことがありません。

 何より、わたしと遊べなくなってそらちゃん寂しがってるだろうなあと気が気じゃありませんでした。

 幸い、そらちゃんはわたしのことを待っててくれて、変わらないいつもの人懐っこさで出迎えてくれましたけど。


「もう、いいですか?」


 昨日の別れ際に、そらちゃんに「また明日」と言ってしまいました。

 そらちゃんがまだかなあと待っているかもと思うと、やきもきしてしまいます。


「……わかった。今日は、お話おしまいにしよっか」

「ありがとうございました」

「また今度、私とお話してくれるかな。私ね、嘉良ちゃんともっと仲良くなりたいんだ」

「はあ」


 わたしは別に、この人と仲良くなりたいわけじゃないんですけど。

 でもわざわざ意地を張ることもないなあと思ったので、あいまいな返事をしながらこくんと頷いておきました。

 すると吉田さんはにこりと笑い、保健室の外まで先導してくれます。

 わたしもそれに続いて保健室を出て、職員室の外崎先生に挨拶をして、ようやく解放してもらうことができました。


 時間はもう、いつもよりだいぶ遅くなってしまっています。

 一度家に帰らずにそのままそらちゃんと遊ぶのはよくあることなのでお母さんは心配していないでしょうけど、そらちゃんが今日はわたしが来ないんだと思ってがっかりしていないかだけが心配でした。

 夕焼けに染まって、あと一時間もすれば暗くなり出すだろう空。

 その下でわたしを待ってるあの子のところに急ぐため、靴を履いて、玄関を飛び出します。


 その時、げっそりしたような顔で車から下りてきた女の人と目が合いましたが。

 特に知っている人でもなかったので、ぺこっと頭だけ下げてさっさと帰ることにしました。

 女の人がわたしを見るなりとても怖い顔をしたような気がしましたが、きっと気のせいか、人違いでしょう。



◆◆



「から!」

「あっ、そらちゃん」


 いつもの公園に急いでいると、そらちゃんが電柱の影からぴょこっと飛び出してきました。

 びっくりしましたが、そらちゃんは驚かせられたことが嬉しいのか、にへへ、と笑っています。

 そんなそらちゃんを見ていると驚かされたのになんだか嬉しくなってきて、わたしもくすくす笑いました。


「ごめんね、先生に呼ばれて遅くなっちゃった」

「大丈夫だよ。わたしね、ひとりで遊ぶのじょうずなんだー」


 ならよかった。

 ぽふぽふと頭を撫でてあげて、そらちゃんと一緒に歩き出します。


「今日は何して遊ぼっか、そらちゃん」

「すぐ暗くなっちゃうだろうし、今日は遊ぶんじゃなくておさんぽしたいな」

「いいよ。じゃあ、わたしのおうちの方をおさんぽしよっか」

「うんっ」


 わたしの帰りのことを心配してくれるそらちゃんの優しさに胸があったかくなりました。

 わたしとしてはそらちゃんの帰りのことも心配なんですけど、そらちゃんは自分のおうちのことについて聞かれると、途端に黙ってしまうのです。

 だからわたしは、そらちゃんの事情についてあれこれ聞いたり探ったり、深入りすることはしないようにしています。

 人間誰にだって、知られたくないことはある。道徳の時間にそう習いましたよね。


 夕焼け空の下を、そらちゃんとふたりで歩きます。

 しっかり手を繋いでいれば、はぐれることはありません。

 そらちゃんは突然ぱっといなくなることがあるので、こうやって手を繋ぐのは大事なことなんです。


「から、学校って楽しい?」

「楽しくはないかなぁ。めんどくさいことばっかりだよ」

「へ~、そうなんだ。

 わたしね、からの学校嫌い。からにひどいことする子ばっかりだもん」

「そらちゃんの学校はどうなの?」

「わたしはねぇ、行かなくてもいいんだぁ」


 学校に行かなくていいなんて、そらちゃんはいいなあ。

 そう思ってわたしは、そらちゃんの笑う横顔を見つめていました。

 お母さんとお父さんは──特にお母さんは、そらちゃんのことが嫌いみたいですけど。

 こんなにかわいい女の子のことを嫌うなんて、変だなあ。と、思いました。



◆◆



 おうちに帰って、宿題をして。

 晩ごはんを待ちながらゲームをしていると、ぷるる、とおうちの電話が鳴りました。

 電話に出たお母さんが、どうしてか嫌そうな顔をしています。

 しばらく何か話した後で、お母さんは受話器を置いて。

 それから、わたしに言いました。


「あのね、あんたのクラスの石田くん。死んじゃったんだって」


 そうなんだ、とわたしは返事をします。

 ゲームのキャラクターが、ゴールの旗にぎゅっとしがみつきました。

 この次のステージが、一番むずかしいんだよなぁ。

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