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普段女子生徒から声をかけられることはおろか、もしかすれば女子と授業以外の場面で話すこと自体、何年ぶりかと思うくらいだった。
そんな俺に声をかけてきた彼女は、あまりにも美しかった。
その大きな黒目はまるで硝子が張っているようで、強すぎる夏の日差を跳ね返しているような透明度だった。
彼女が跳ね返す光は純度を増し、俺の全身へと容赦なく突き刺さった。
「刺すような視線」という言葉を聞くが、彼女の視線の場合、一般的なニュアンスとはまた違う。
清く美しい視線そのものが、目には見えないけれども確かに体で感じることができたのだった。
「あの……何か……?」
俺は3年分くらいの勇気を振り絞って、俺を刺し続ける彼女に問うた。
「……私の名前は
「ぼ、ぼくは……
「そう……夏向くん」
彼女は俺の名前を呟いて、ふと目線を斜め下に落とした。
俺は彼女の目線からやっと解放された安心感から、早足でその場を立ち去った。
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