第10話 《精神剣(サイコ・ブレード)》

 心の中、ただ広い平野を埋め尽くさんばかりの『狂魔』グール。

 もはや死んだ人間が生き返って活動しているグールであるが、これは患者が生み出した狂魔に対する恐怖から生み出した『影』である。

 だが、これほどの狂魔が心を埋め尽くすなど、並大抵ではない。

 早く彼女の本体を保護しないと完全に精神崩壊に陥ってしまう。


「うおおおおお!」


 エルは現代日本の現代人にもかかわらず、手もした剣(もちろん本物ではない)を手にして狂魔グールへと殴り掛かる。

 いくら心が生み出した影とは言っても、その程度でやられるグールではない。

 それを見ながら、深紅の女性カーディナルは、やれやれと呆れたようにため息をつきながら、手にした深紅の鎌を軽く横に振る。

 それと同時に、地面を埋め尽くさんばかりの大量のグールたちの影の首が、まるで手品のように一斉に切り落とされて宙に舞った。

 数千にも渡るであろうグールの首が一斉に宙に舞う姿は、もはや喜劇と言っていいほどだった。消滅していくグールを見ようともせずに、カーディナルは深々と溜息をつく。


「はあ、精神世界での戦い方も知らずに深層心理にまで飛び込んでくるとか呆れたわね。無謀にもほどがあるわ。ここは肉体が支配する世界ではなくて、精神が支配する世界だということにまだ気づかないのかな?」


 肩をすくめながらも、ふよふよと浮いているカーディナルは、エルに対して指をつきつけて助言する。


「それじゃヒントをあげましょう。

 ヒント、この世界は精神で構築された世界。

 ヒント2,精神力さえあればこのトラウマ(グール)たちとも対抗できる。

 はい、以上。これで何とかしてね~。」


 カーディナルが再度その深紅の鎌を振るえば、無数のグールたちは再び全て両断されて消滅するだろう。だが、ただ人が足掻く娯楽を見に来ているために来ている彼女には、そんな気は欠片もないらしい。

 一度は消滅したグールたちだが、再び荒涼とした荒野からまるで草が生えるようににょきにょきと地面から生えてくる。

 それを見ながら、エルは神経を自分の手に集中させる。今ここにいる自分は精神体で肉体に捕らわれた存在ではない。ならば、肉体に捕らわれない超越的な事も可能なはずである。

 そして、精神を集中させていたエルの手の中に、光り輝く眩い光の束が形成される。それは剣の形状へと変化し、エルはそれを振るってグールを横凪にする。


「おおおっ!!《精神剣(サイコ・ブレード)》ッ!!」


光り輝く剣状の精神剣に両断されたグールの影は、纏めて数体切り倒されて消滅する。それを見て、カーディナルはパチンと指を鳴らして彼を称賛する。


「正解(エクセタ)!!

 自分の精神力を武器に変えれば、相手の精神内のトラウマを切り捨ててトラウマを消去できる。実にシンプル!まあ、貴方の精神力がいつまでもつか、だけどね。」


 確かに彼女のいうとおりだ。精神剣を展開しているだけで、彼自身の精神力がガリガリ減少していっているのがはっきりと理解できる。

 おまけに目の前には山ほどの狂魔の姿をとったトラウマの山。

 しかも、自分の精神は丸裸で、ここで死亡すれば精神が消滅し、現実世界の肉体はただの生きているだけの存在になってしまう。


「だから……。どうしたァ!!」


だが、すり減っていく精神力にも関わらず、エルは素人剣法で精神剣を振り回しながら、グールの影を切り裂いていく。


「俺は救う!絶対に人を救うんだ!だから……邪魔するなぁあ!!」


だが、そんな彼に対してカーディナルは、やれやれ、とため息をつきながら首を振ってアドバイスをする。


「やれやれ、全く君は発想力が貧困だねぇ。いいかい。ここは精神世界なんだ。もっと発想力を自由にしたまえ。精神の強さ、発想力の強さこそがこの世界の正義なんだ。どんな非現実的なことも可能なのが、夢の世界、精神世界というものだろう?」


それを聞いたエルは、じっと考え込むと、自分のアイデアを精神剣に込めて、その刃を横凪に振るう。

その刃に込められたイメージによって、まるで大地を埋め尽くさんばかりの無数の狂魔の影の首が一斉に冗談のように切り飛ばされた。

 数千にも渡るグールの首が一斉に切り飛ばされるのはまさしく非現実的な光景そのものだった。これも、精神世界だからできることである。

 そして、無数の狂魔たちを切り裂きながらその中へと飛び込んでいく。


(やっぱり人間って……面白ッ!!)


そんな彼を、カーディナルはにやにやしながら背後で見守っていた。




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