第7話 記憶操作と記憶消去

 安眠の呪文をかけて、彼女を安らかに眠らせた後で、魔術を使って彼女の記憶のアーカイブを立体映像化する。

 他人の記憶を見るというプライバシーなど欠片もないやり方だが、正気を取り戻すのなら仕方ない、というのが彼の考えである。

 その記憶を立体映像化したものを見ながら、エルはクラリスに問いかける。


「彼女の狂魔との戦いはいつごろ?」


「え?ええと……。確か1年……。いや半月だったか……。」


 クラリスはただ送り込まれてきた患者を隔離室に放り込んでいただけだ。

 そんな彼女が患者の正確な情報など掴んでいるはずもない。

 元々もうこうなっては不治であり治療など不可能だと考えていたのでそれも仕方ないことなのかもしれない。


「患者の情報ぐらい正確に把握しておくこと!

 仕方ない。そこらへんの記憶を全てたぐっていくか……。」


 エルはそういうと、立体映像化した彼女の記憶を本のページのようにペラペラとめくっていく。

 そこには、彼女の記憶、隠すことができない彼女のプライベートが全て乗っているが、エルは気にせずにパラパラとその記憶をめくっていく。

 トラウマに関係しない彼女の記憶は、彼にとって何も興味を惹かれるものではなかったらしい。


「お、おい。他人の記憶を勝手に見るなんて……。」


「俺は患者の私生活には興味はない。興味はあるのはいかにして患者を治すかだ。」


 そう言いながら、彼は精神魔術を使用し、エレオノーラの記憶を空間に具現化させてページ状態にした記憶のページを次々と捲っていく。

 実はこいつ、危ないやつなのでは?

 その修道院長の畏怖の目を全く気にせずに、彼はまるで本のページをめくるように彼女の記憶を捲っていく。


「む、ここが出陣式か。よし、ここから先は全て記憶を完全消去する。

 下手に残しておくとそこから蘇ってくる可能性もあるからな。」


 誇らしそうに戦いに挑むために自分の武器を磨き上げている彼女の姿。

 この戦いの後に実際の戦いを見て、仲間を失って狂気に囚われるのであるのなら、ここから先全ての記憶を消去すればいい、という考えである。

 確かに合理的であり、それしかないのは事実だろうが、他人の記憶をそんな簡単に操作していいのだろうか?それは人の心をいじるのと同じではないだろうか?そう思っている中でも、エルはさくっとそこから先の全記憶を削除する。


 その瞬間、今まで狂ったように暴れまわっていたエレオノーラは、すぅすぅ、と安らかな眠りへとつく。

 この子はこれでいいだろう。ほかの人と記憶との相違は出てくるだろうが、遥かに精神的に安定するはずだ。あとは目を覚まして状態をチェックすればいい。

 問題はちょっとした事で連鎖的に記憶を取り戻す可能性もあるが、それは後でまた考えればいいことである。

 応急処置だとしても、まずは正気を取り戻させてしっかり休ませる事。これが一番大事である。彼はそう判断すると安眠している彼女に毛布をかけて、もう一つの隔離室へと足を運んだ。


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