第3話 貞操逆転世界に目覚める。そうだ。人を救おう。
―――そして、彼は転生した。転生した先の世界は、中世ヨーロッパじみた世界であり、転生した先の名前はエル・バルシュミーデ。
前世と異なり、かなりの長身であり、容貌も美形といっていい筋肉質の彼は、実に男性らしい男性といえた。
そして、現代日本と異なるこの世界の最大の特徴としてはここが『貞操逆転世界』ということである。
男女の役割が完全に逆転している世界。
つまり、この世界で「男性らしい男性」という事は、現代日本世界では「女性らしい女性」を意味する。
男性は戦場に出るなんてとんでもない。男性の役割は、家に籠って家事を行い、女性を立てて一歩下がる。そんな大和撫子のような男性が一番尊ばれる世界なのだ。
彼はこの神聖王国の貴族、バルシュミーデ公爵の跡継ぎの一人である。
生まれてから17歳になるまでに転生の記憶はなく、貴族の跡継ぎとしての教育を受けていた彼は、ふと前世の事を思い出した。
そう、現代日本で人々の心を救うために心理士見習いになっていた時の事である。
流れるような情報の渦に巻き込まれながら、彼は以前の決意を露わにした。
「そうだ。人を救おう。俺は人を、他人を救わなければいけないんだ。
そのためには、やっぱり神官になるのが一番かな。」
そうだ、京都行こう的なノリで彼はとんでもない道を選択した。それは、貴族である事、貴族の跡継ぎを放棄する事である。
確かに貴族の力を使えば多くの人たちを救済できるかもしれない。だが、それはあくまで間接的である。
彼はもっと、直接的に自分の力で人を救いたいのだ。
そして、エルがバルシュミーデ家の母親の執務室へと入って行ってそれを口にした瞬間、母親はこの上なく困惑した表情になった。
「……えっ?何で?修道院に入って神に仕える道に入る?何で?」
思わず混乱して二度聞いてしまうほどの母親の困惑ぶりである。
それも当然だ。彼はきちんと真面目に貴族としての仕事をこなしており、評判もいい。それに極めて有能であり、女性優位社会である母親でさえも認めるほどだった。
その上、母親も認めるほどにルックスも優れているし、180cmは超える長身であるため、女性からの人気も高い。
貞操逆転世界であるこの世界なら女性騎士も女性貴族たちも引く手あまたのはずだ。
大人しく女性貴族たちに囲われて幸せな生活を過ごすという順風満帆の生活をなぜ自分から豪快に放り投げるのか、それが理解できなかった。
「いやいや、お前はきちんと仕事をこなしているし、男とはいえ優秀だし、別に不祥事を起こした訳でもない。何で自分から修道院に行く訳?意味が解らないんだけど?」
母親の言うことは正論である。修道院にいくより、貴族として活躍したほうがより多くの人々を救えるのは間違いない。しかし、それではダメなのだ。
彼は『自分自身の手で人々を救わないと救った気になれない』そういうメサイアコンプレックス持ちなのだ。
彼の中にある救世主願望はこう囁く。人々を救え。弱いものを救えと。
その彼の中にある衝動感とコンプレックスは、母親の説得でも動かされはしなかった。
「いや、考えなおそうよ。お前ならいい女貴族か女騎士の所に嫁げるし、何不自由ないい暮らしができる。お前が何も苦労しなくてもいいんだぞ?」
だが、その母親の言葉に、エルが頷くことはなかった。
あまりの頑なさに、母親はため息をついて、まぁ……社会勉強にはちょうどいいか……とその彼の言葉に従うことにした。
(まあ……それに正直国内の状況は芳しくない。修道院に避難させるのもありか……。)
今国内では度重なる狂魔の被害によりかなり疲弊している。テロとも言わんばかりの唐突に現れる狂魔の襲撃によって、貴重な星の戦士の血を引く騎士団はあちこちに派遣され、個別撃破されている。
王家に戦略を変えるべきと何度も意見したが聞く耳持たずだ。息子は男性だからそんな戦いなど物騒な事を知らなくてもいい。
いい感じの女性を見つけるまで、修道院に避難させておくのもいいか、と彼女は判断した。こうして、彼は辺境域の修道院へと入ることになったのである。
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