ナンセンス
秋梨夜風
嘘
この世は嘘で溢れている。
その最たるモノは幼少期に親から教わる
「人に優しくしましょう」
という道徳である。誰かに優しい事をすれば、万事巡り巡って自分に返って来ると云う。嘘である。
「正直者はバカを見る」
コチラが真実、正しい言葉――
何故、「人に優しくしなさい」などという嘘が罷り通っているのか?世の中の仕組みを考えると思い当たった。一部の人が得をする為である。
当然、人類全員が人に優しくすれば善い世界になるだろう。けれど格差があるいまの世の中では到底実現不可能な話だ。
世の中を上手く渡る本当に頭の良い人は、適度に悪い事、ズル事をして利益を得ている。
一方で碌に自分の頭で考えず言われた事を信じるバカは「優しくしなさい」という嘘に騙され、"イイ人"で居ようとし続ける為に搾取されるのだろう。
昔話に勧善懲悪物が多くあるのは、現実ではなかなかそうならないから、創作物でそのストレスを吐き出すしかないのであり、実際に悪いことをした人が吊し上げられると皆こぞって「ざまをみろ」と叩きたがる。滑稽。叩いたところでソイツが過去にズルして得た利益は変わらないし、叩く人達は一文の得にも、徳にもならぬ。なんなら他の賢い者は「ああ自分でなくて良かった、もっと上手く立ち回ろう」とまた悪知恵を働かす。
世の中は嘘で出来ている。
いくら他人に優しくしたところで、「あぁ、コイツはあの嘘を信じてるバカ者だ」と認識されてお終い。良いように利用され、そろそろ恩が返ってくるかしら、と期待した時分に縁を切られるのだ。
縁を切られた"優しい"当人は「まぁ、徳は積んだからいつかイイコトがあるだろう」と切り替えるしかない。そうして他人の為に自分の時間と金を消費しては、こんなに徳を積んだから、と人生の小さな出来事から必死に幸せを捉える。そんな事を繰り返すうちに当人の幸せの基準はどんどん小さくなっていく。
貧しい悦びの中で死に絶える"善い人の人生"。憐れである。
一方でバカから搾取する頭の良い人は、都合の良い相手を次々と切り替え、乗り換えて生きていく。屠って屠って、その場限りの「ありがとう」で利益を得ていく。
こんなどうしようも無く阿呆な事を考えたのには理由がある。別に、悪徳政治家の汚職や陰謀論を聞き齧ったワケではない。周りの恋愛沙汰を聞きすぎたのだ。
最近知り合ったある女は、同じ男に三ヶ月の間に、三回の浮気をされたという。彼女曰く「アイツは生理の度に浮気をする」私は女ではないから詳しく知らぬが、その浮気を実行するには例の期間より前に準備してある筈だろう、と推理してみせると「きっとそうだ」と。女は過去に三度別れた。だが別れる度に「君しかいない」と復縁を迫られ、また今は"友達"として連絡を取り合っているらしい。一言「キミは優しい」と慰めた。
正直者がバカを見る、最たる例ではなかろうか。ちなみに男は大層顔が良く、モテるようだった。毎度裏切られる女もソイツの顔が目当てで縁を切れずに居るのだから大概バカだが、こんなバカな女をどうしてソバに置きたがるのか?彼の目線で考えると、やはり"都合が良い"からだろう。優しい人とは関わっているだけで得になる。
また別の話では、知り合いの男が何度も女と付き合おうとしては別れていた。その男は優しい男で女の扱いも最低限できる。だから付き合うまではいくのであるが、暫くして必ず別れる。理由は様々である。先日、彼は「俺はどうしようもないクズなんだ。これ以上、女を傷つけたくないから誰とも付き合わない方が良い」と言った。私はやはり「キミは優しい」と慰めた。
前の男と彼を比べると、どうしても後者の方が世の女に必要とされるように思う。然し実際には、前者の方が"モテる"。顔の良し悪し、と言われれば元も子もないが、きっと前者の男は女から搾取する前は"イイ人"なのだろう。甘い言葉で誘惑し、「好きだよ」と呟けば顔の良さも相まってバカな女どもはイチコロだろう。そういう男女に誠実さなど関係無い。求められるのはウワベのロマンス、一夜限りの需要と供給である。そうして自分に優しくしてくれる人を見極めながら、適宜切り捨てていく。どうやら顔の良い彼は大層頭も良いようだ。羨ましい事この上なし。
こうやって書いておきながら、どうして私が優しい人を単に利用して生きていけないのかと言えば、それは心底私が優しいからだ。
顔とスタイルが悪い件に関しては、趣旨がブレるので割愛させて頂く。
私は都合の良いバカを、そのまま利用しようとすると心が傷んでいけない。ついつい「こうした方が上手く生きていける」と教えたくなる。特に自分に優しくしてくれた相手にはそうである。恩を返そうとしてしまう。毎度毎度そうして相手は学んでいって、そのうち「あぁ、コイツとこれ以上居ても得をする事はないのか」と悟って去ってしまう。本当に賢い人はそうやって悟られないように、出来るだけ利益を得るように立ち回るものだ。
いや違う。実際のところ、皆だいたい等しく賢い。そうして適宜嘘をついて、易しく生きている。
僕の様に生きるのが下手な奴だけが、つまらないところで嘘を吐き、皆んなが上手くやっているところで正直になって嘘を吐けないのだ。
「正直者はバカを見る」
やはり本当にこれだけは、真実正しい。
結論
「自分に優しく生きましょう」――
ここまで書いて、タバコに火をつける。最近彼女と別れたがやる事が多くて悲しむ暇も無かった。投げやりで頑張れるが、時折鬱のようになって、つまらないことで癇癪を起こしたり、不機嫌になる。変なところで上機嫌になったり、生きていて良かったと思い込む。
最近書き始めた娯楽小説はきっと面白い出来になると思うが、テンションが釣り合わないと筆が進まない。太宰治の「道化の精神」を読んだ。あぁ、いま書きたいのはこういう文章だと思った。
思った通り筆が乗ったのでつらつらと書いて気分は良い。やはり書くのが性に合っていると安心する。
そろそろタバコが短くなってきた。タバコを買う金もバカにならない、先ずは稼がなくては。最近では先にお金を払わせて、つまらない文章を読ませるところもあるらしい。あんな大それた事は自分にはできない。細々と別の仕事でお給与を貰いながら、こうして隙間で書くしかない。
好きな事をして金にならないかしら。ぼんやりと何度目かの願望を浮かべて煙を吐いた。
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