拓也(6)


 最初にこの招待状の中身を見た時の、拓也の感想は。正直言って、「なんじゃこりゃ?」だった。どうやら何かのイベントへの招待状らしいが、封筒も中身も飾りっ気のないシンプルそのものの作りで、派手さや華やかさを感じられない。しかし同時にそれは、書かれていた文面を呼んで感じた「うさん臭さ」をも薄めていると言えた。


 とはいえ拓也には、書かれた内容が真実とはすぐに思えなかった。恐らくちょっと手の込んだドッキリ企画で、封筒を渡すところからどこかに隠したカメラで撮影されていて。渡した人物がこの後どんな行動に出るか、スタジオに招いた解答者が当て合うといった、そんな番組のワンコーナーではないか。最近は恋愛ものやサバイバル系のリアリティー番組が流行っているし、その変わり種というか、「新企画」と考えた方が辻褄が合いそうな気がする。


 それでも、「あなたの借金を、全額帳消しにする」という謳い文句は、拓也の心情をそそって余りあるものがあった。素気のない文面を何度か繰り返し読んでいるうちに、「ダメで元々というか、騙されて元々というか。行ってみるのも悪くないかも」という方向に考えが傾き始めていた。もしかしたら書かれた場所に行った瞬間、「ドッキリでした~」とプラカードを掲げた男が現れ、自分は世間の笑いものとして晒されるのかもしれない。だが、それでもいいじゃないか。そんなダマシをするくらいだから、わざわざ会場に出向いた者には、何かしらの謝礼を用意している可能性はある。今の拓也にとっては、その「わずかな謝礼」も喉から手が出るほど欲しいシロモノだった。


 幸い集合する日時と場所が書かれた欄には、「交通費はこちらで負担します。会場に着き次第申告して頂ければ、お帰りの際に往復分をお渡しします」と書かれている。参加費用も取らないということだし、行ってみる価値はあるんじゃないか。拓也はそう考えて、同封されていた書類の方も確認してみた。


 その書類はいわゆる「契約書」のような文面で、「甲は乙に対し~」といった、ぱっと見には非常にわかりにくい文章がつらつらと書き連ねてあった。こういった文章はサラ金から借り入れする際に何度も目にしてきたが、その度にどっちが甲でどっちが乙なのかわからなくなるのが常だった。


 一応頑張って最後まで目を通してみると、どうやらイベントの最中に負ったケガなどに関して、「主催者側は一切責任を負いません、参加した者の自己責任となります」と、そんな意味が書いてあるらしかった。しかし、こういった主催者側が責任を負わないという注意書きは、コンプラにうるさい現代に於いては常識とも言える内容だろうなとも思えた。何かのイベント、それも体を使ったものに関しては、こういう手続きをしておくことが必要なんだろう。


 そこで拓也は念のため、スマホで「スーサイド」の意味を検索してみた。ネットの英和辞典には、「自殺、自殺的行為、自殺者」などと書かれている。てことは、イベント名になってる”バトル・スーサイド”の意味は……「自殺を争う」ってことか。いや、自殺を争うって、なんなんだ?!


 どう考えてもイベント名の意味はよくわからなかったが、招待状に書かれていた「ある程度の危険に抵触する覚悟も必用」という一文、そして契約書に記載されている「一切の責任を負わない」という文言。これらと照らし合わせると、「自分の命を懸ける覚悟で、ゲームに挑戦する」という意味ではないかと、拓也はそう考えることで自分を納得させた。表現としてはちょっと大袈裟だよな、誇大広告とかで訴えられたりしないのかな? などとも思いつつ。

 


 拓也はそれくらいの軽い気持ちで、署名欄にサインをすると。招待状の封筒にそれを入れて、書かれていた期日のその当日、イベント会場となる場所へと向かった。

 

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