第66話 出会い~雪哉バージョン

 「おっと。」

スキー場のラウンジで、スプーンを取りに行ったら、振り向きざまに誰かとぶつかりそうになった。

「うわ、ごめんなさい!」

とっさにそう言って、目線を上げると、何とそこにはRYOSUKEの顔があった。

 いやいや、こんなところにRYOSUKEがいるわけがない。他人のそら似だ。けど、だとしたら世の中には、こんなにすごいイケメンがゴロゴロ転がっているものなんだな。

「あの、大丈夫ですか?」

相手が何も言わないので、思わずそう聞いたが、

「あ?ああ、大丈夫、です。」

と、その人は言った。声も似ているような気がするが、RYOSUKEの声は、マイクを通した声しか聞いたことがないから、よく分からない。

「よかった。あ、水ですよね。あとスプーンもか。」

僕は、その人がトレイにカレーを乗せているのを見て、水とスプーンを取ってあげた。こんなところでRYOSUKEに似ている人に会えるなんて、ラッキーだな。

 僕は、RYOSUKEのファンなのだ。RYOSUKEというのは、僕の恋人が所属しているバンドのボーカリストで、すっごいイケメンの大学生だ。ライブで見るRYOSUKEは、キラキラしていて歌が上手くて、すっごくカッコイイのだ。素人なのに、たくさんのファンがいて、いつもキャーキャー言われている。僕は、ただ遠くから見ているだけ。本当は、恋人の神田さんに

「RYOSUKEを紹介して。」

と言いたかったが、そんな事は・・・多分嫉妬されるから・・・言えない。  RYOSUKEのファンだという事は、誰にも言えない、胸の内に閉じ込めた僕の秘密だった。

「あ、どうも。」

ただの他人のそら似だと思うが、この人と言葉を交わせた事で、僕のテンションは爆上がりだった。今日は良い日だ。

 すると、向こうから神田さんが歩いてきた。僕の方を見てツカツカとやってくる。あれ、なんか怒っているような。

「雪哉、何やってるんだ?おい、俺の連れに何手ぇ出してんだてめえ。」

何と、神田さんは僕たちの所へやってくると、RYOSUKE似の人の肩を掴んでくるりと反転させた。まさか、喧嘩になってしまうのか?

 だが、予想外の展開になった。

「あ!」

「あ?お前、涼介じゃねえか。なんでこんな所にいるんだ?」

「神田さんこそ!なんでいるんですか?」

えー!どういう事?つまり、つまり、これはあのRYOSUKEなのー?

 僕の胸はドキドキを通り越してバクバクし始めた。とうとう、こんなに近くで会ってしまった。あろう事か、大学からこんなに離れた山奥で(と言っても、おしゃれなラウンジだけど)。

 神田さんとRYOSUKEは、二人で会話をしている。僕はもう、二人の会話など耳に入っていなかった。それよりも、ずっと言いたかった事が、今なら言っても許されるのではないか、という考えで頭がいっぱいになる。だって、もう僕とRYOSUKEはバンドマンとお客ではなく、対等な関係でここにいるのだから。

 僕は、思い切って言ってみた。なるべく、さらりと。

「ねえ、神田さん、僕の事も紹介してよ。」

すると、神田さんはちょっと渋い顔をしたものの、紹介してくれた。

「ああ、うちのバンドのメンバーの、三木涼介。それでこっちが・・・。」

だが涼介は、僕の名前を聞かずに、話を遮った。僕なんかの名前は知りたくもないの?

 一瞬悲しくなったのだが、あろう事か、涼介は言った。

「俺、スキー部に入部する!今すぐに。」

うっそー!嬉しすぎる。

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