第33話 別れ話

 シャワーを浴び、服を借りて着替え、今夜はここ、雪哉の部屋に泊まる事にした。

「ねえ、神田さんにちゃんと話そうよ。今、電話する?」

俺がそう言うと、

「ああ、うん。そうだね。」

ちょっと気が進まなそうな雪哉。そりゃそうだよな、別れ話だもんな。

「こういう事は、早めに処理しておいた方がいいぞ。」

俺が真面目にそう言うと、

「涼介の数多なる経験によると?」

雪哉が茶化す。

「まあ、そんなとこだ。」

実際、俺の経験から出た言葉なのだ。

 というわけで、雪哉は神田さんに電話をかけた。

「もしもし、神田さん?バイバイ。」

は?横にいる俺がビックリ。そんな別れ方があるかい。

「僕、涼介とつき合う事にしたから、神田さんは心置きなく友加里ちゃんとつき合っていいよ。あ、今ここに涼介がいるから、スピーカーフォンにするね。」

すると、神田さんの声が聞こえた。

「なにー?やっぱりそういう事になったのか。涼介め。」

というセリフの割に、神田さんの声は優しく、ちょっと笑っているようだった。

「あ、えーと、涼介です。神田さん、ごめん。そういう事だから。」

「涼介お前、雪哉とは今までみたいな適当な付き合い方するんじゃねえぞ。」

「分かってるよ。俺、今までとは全然違うんだ。雪哉の事は本気だから。ちゃんと、雪哉の事を大切にするよ。」

こんな、普段なら背中がむずむずしてしまうようなセリフを、雪哉本人の目の前で、しかも雪哉の顔を見ながら言っている俺。あー、なんかラブだな。青春だな。

「そうか。頼むぜ。」

神田さんが言う。

「神田さん、今までありがとう。すごく感謝してるよ。友加里ちゃんとお幸せにね。」

雪哉がそう言った。

「・・・泣かせんなよ。お前はやっぱり特別だよなぁ。あ、言っとくけどな。俺は浮気してはいなかったぞ。ちゃんと、節度を守っていたんだからな。」

「うん。」

雪哉は、返事をした後、涙を一筋流した。

「じゃあね、バイバイ。」

そう言って、雪哉は電話を切った。俺も何だか切ない。涙を流した雪哉の事を、そっと抱きしめた。

 それにしても、俺と雪哉が上手く行ったのも、友加里のお陰だ。俺はこっそり友加里にメッセージを送った。

『こっちも上手く行ったぞ!友加里のお陰だ。サンキュー!そして、そっちもおめでとう!』

すると、友加里からはVサインのみの返信が来た。シンプルだな。しかし、つまりはあちらもちゃんと上手く行っていたという事なのだ。神田さんは、浮気してはいないと言ったけれど、それはまだ寝ていないという事であって、言葉の上では既に二人は出来上がっていたという事なのだろう。雪哉と神田さん、どっちが先に浮気したのか、議論になるな。いや、本人達が気にしていないのだから、いいのか。

 あー、これで万事上手く行く、と思ったのだが・・・また新たな試練が訪れる事に、俺はまだ気づいていなかったのだった。

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