不幸にはウラがある!

うみとそら

不幸にはウラがある!

――不幸のオモテ

25:00

彼女からの着信で目が覚めた。

「もしもし」

下の階には親が寝ているので、声をひそめた。

ベットから上半身を少し起こした状態で電話に出た。

『もしもし』

彼女の声が少し暗く感じた。

「どうしたの?こんな時間に」

『ごめん、急に。話したいことがあって』

「ん?なに?」

『あのね、、、』

その言葉から10秒くらい黙った。嫌な予感がした。

『別れたいの』

嫌な予感が当たった。

「え?なんで?」

『別に好きな人ができたの』

「誰?」

『それは言えない、、、』

「俺が知ってる人?」

『うん』

「誰だよ」

自分でも自分の声が荒くなってきたのがわかった。

『ごめん』

「ごめんじゃなくてさ」

『ほんとごめん』

「だからさ!」

近くにあった枕を叩いた。

「もしかしてリク?」

この質問に対して彼女は何も言わなかった。

「まじか」

『ほんとごめん』

リクは大学の友達で同じサークルだ。

それから彼女がずっと謝り続けてた。

「まあ、いいんじゃない?リクは俺と違ってスタイルいいし、大手企業にも内定もらってるしね。君とお似合いだよ」

『ちがうっ。そういうのじゃないよ!』

「もういいよ。今までありがとう」

彼女が何を言いかけたが、通話を切った。

この日は、彼女と友達を失うことから始まった。


8:00

2度目の起床。

すぐにスマホを確認した。

彼女から『ごめんなさい。』とメッセージがきていた。

最悪の気分だった。

リビングに降りると冷蔵庫に朝食の残りがあったが、何も喉に通る気がしなかった。

そのまま洗面台で歯を磨いて、顔を洗って大学に向かうための準備を着々とこなした。


9:30

電車に乗った。席はかなり空いていたが、なんとなくドア付近で立っていた。

2度目の目覚めからぼーっとしており、夢の中にいるようだった。

スマホをみたくなかったので、代わりに電車のビジョン広告をみていた。

表計算ソフトの広告が流れていた。

「あ」

今日提出のレポートを持ってくるのを忘れたことに気づいた。

今から取りに行っても提出時間に間に合わない。

下に置いていたリュックを蹴った。

近くの優先席に座っていたご年配の女性が怪訝そうにこちらを見ていた。

もう何もかもにイライラしてきた。


11:30

結局、レポート提出を諦めて帰宅することにした。

お昼も近いので、帰り道のコンビニで焼肉弁当を買った。

そしたら、また不幸なことが起きた。

いつもなら何も起きない歩道だが、なぜか転んだ。

つまずくようなモノもないのに。

もちろん、お弁当は悲惨な状態になった。

泣いた。

大学生になって初めて泣いた。

「つら、、、」


14:00

帰宅後、ベッドで目をつむっていた。

眠いのに眠れない。

なんとなくスマホのロックを解除してメッセージアプリを開いた。

別れたばかりの彼女からよりを戻すメッセージがきているのではと淡い期待を抱いた。

誰からもメッセージはきていなかった。

そのかわり、メールアプリからの通知がきていたので確認した。

そしたら、就活で最終面接までいった企業からのお祈りメールが届いていた。

もう辛いを通り越して笑えてきた。


17:00

あれからベットにいるのも苦しくなって、外に出ることにした。

公園のベンチで深呼吸をしながらぼーっとしてみた。

なんとなくほんの少しだけ楽になった。


17:45

「ただいまー」

家に着いた時、スマホがないことに気づいた。

「あ、やべ」

すぐに公園に引き返した。



――不幸のウラ

17:50

公園のベンチへと戻ると、コーギーらしき犬とその飼い主であろう女性が俺のスマホを持っていた。

「あの、すいません」

女性に声をかけた。

女性はランニングウェアを着ており、帽子をかぶっていた。

帽子のせいで少し遠くからだとわからなかったが、色白の肌でフェイスラインがすっきりしていて鼻も高く綺麗な顔立ちだった。

正直タイプだった。

「あ、はい」

綺麗な見た目とは違い、声は低めだった。

そのギャップに萌えた。

おそらく年齢は同じくらいだろう。

「多分、それ、自分のスマホだと思おうんですが、、、」

「そうなんですか、そのベンチにありました」

「やっぱ、俺のです!」

「どうぞ。見つかってよかったです」

「ありがとうございます!」

今、スマホが見つかったことよりも、この人と出会えたことに嬉しさを感じていた。

「じゃあ、これで失礼しますね」

あ、行ってしまう。どうにかしなければ!

「あ!」

よくわからず声を出してしまった。

「ん?どうかしましたか?」

「も、もしよかったら!」

今から人生初のナンパを俺はする。

「は、はい」

あきらかに女性は困惑している。

「れんにゃくちゃき交換してきゅれませんか?!」

連絡先交換してもらえませんか?と言いたかった。

「ぶっ」

カミカミの言葉に女性は吹き出した。

最悪だ。

「もし、また今度会うことがありましたら、交換しましょう」

人生初のナンパしゅーりょー。

「は、はい」

顔は熱いし、手が触れえている。


今日は散々な一日だった。


翌日

13:00

昨日は本当に色んなことがありすぎて、この時間まで眠ってしまった。

昼食をとりながらテレビを観ていたら、ニュースで昨日の10時頃に電車で不審者が出たとニュースでやっていた。

「まじか!」

なんと、その不審者が出た電車は、俺が途中で帰宅するために降りた電車だった。

あのまま乗っていたら、不審者に遭遇していたかもしれない。

「レポート忘れてよかったわー」


14:00

昼食後、ベッドでゴロゴロしていたら、知らない番号から電話がきた。

「お世話になっております。私、株式会社JMQ人事課の櫻井と申します。遠藤様の携帯でよろしかったでしょうか?」

「あ、はい。遠藤です」

以前、夏休みにインターンに行ったIT企業からの電話だった。

「今年の夏にインターンに来てくださり、ありがとうございました。現在の就職活動のご状況などお伺いできればと思ってのお電話だったのですが、5分ほどお時間よろしいでしょうか?」

ちなみに、この会社は規模が小さくて給与も高くなかったので、結局応募をしなかった。

「大丈夫です」

「ありがとうござます!」


電話の内容は、インターンの際に注意力が高くミスが少なかったことと、質問を多くしていて勉強意欲があることが好印象だったらしく、システムエンジニアと営業の採用枠が1つずつあるので、面接にきてみないかとのことだった。

しかも、4回の選考があるうち2つはパスできるとのことだった。

俺は内定が1つもなかったこともあり、面接に行く旨を伝えた。


半年後

9:30

入社式で社長の挨拶を聞いていた。

俺は株式会社JMQに営業として入社をした。

最初の面接で会社説明をしていただき、年間休日が多いことと、福利厚生が充実していること、研修制度がしっかりしていることに魅力を感じて興味を持った。

そして、運よく内定をもらえた。


11:30

お昼休みになった。

午後からは新入社員の顔合わせになるらしい。

かなり緊張している。。。

「あ、きみ!ねえ!」

女性のわりには低めの声の人に話をかけられた。

「はい?」

「覚えてる?スマホを公園で拾ったこと!」

「あ!」

半年前に人生で初のナンパをしてしまった人だ。

あの時は帽子を被っていて髪型がわからなかったが、こんなに綺麗な顔立ちの人は中々いないので、すぐに思い出した。

「思い出した!?久しぶり!同期だったんだね!」

「あの時は本当に申し訳なかったです」

思い出しただけで顔が熱くなってきた。

「あはは!全然大丈夫!面白かったし!」

「ははは」

泣きそう。

「私、佐藤奈々。改めてよろしくねっ」

「俺は遠藤綾人。よろしく」

低い声とクールな見た目からは想像できないくらい気さくで明るそうな人だった。


18:00

入社式後、新入社員の10人だけで飲み会を開くことになった。

その飲み会は地獄だった。

理由は簡単。佐藤さんが半年前のナンパをいじりまくってたからだ。


その後も事あるごとにこの出来事を話されて、営業部では知らない人はいないほど広まってしまった。

最悪だ。


6年後

19:30

いまだに奈々はあの時のナンパをいじり続けている。

食卓を囲んでいるときくらいは、もっと楽しい話をしたいのに。。。

けれども今は最高に幸せだ。

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