雑兵たちの幻世(ぞうひょうたちのまほろば)
高山長治
序章戯言
強い陽射しがようやく沈まりけた頃、疲れの滲む表情で老働き蟻が歩みを止め強がる。
「俺は、若い頃から働き蟻だい!」
吠えたところで、昔の生き様を語り出す。
「汗水垂らし、懸命に働く蟻様だ。いや、今も現役で頑張っているが、ちょいと疲れ気味だ…。まあ、これでも若い頃はバリバリ仕事に打ち込んだ。勿論残業なんか当たり前。休日出勤だってしょっちゅうだ。そんなことに、愚痴を溢している暇などなかった。当時は、頭を使うより体力勝負だった。若さに任せ目ざとく興味を示し、行動に移していたもんだ。
仕舞いに愚痴り出す。
けどよ。こんな話も、今じゃ昔の戯言だがな。ところで、最近の若い奴らを見ていると、何だか物足りねえ。…けど、そう愚痴ったところで時代錯誤と軽くいなされるだけだ。
一線を退いた老戦士が、複雑な心境で思いにふける。
毎日、相も変らず同じことの繰り返し。守勢に胡坐をかき平々凡々と過ごしている。お前ら、それでよく飽きねえな。俺なんか、こうも変化のない日が続くんじゃやってられねえよ。終いには嫌になるぜ。ああ、昔が懐かしい。部長さんよ、如何にかしてくれねえか。しかし、近頃の若い奴らは何をやってんだか。昔の俺らに比べたら、能書きばかりでろくすっぽ身体を動かさねえ。これじゃ、うちの会社も先が思いやられるぜ。
己の置かれた境遇を棚にあげ、減らず口ばかり叩く者がいる。どの共存社会でも、得てしてこんな輩がいるものだ。
けれど、老戦士がすべてそうとは限らぬが、近頃は若者の間でもそんな風潮がやたら目につく。そんな偏見で社会全体を見渡せば、それはほんの一握りの現象面を捉えているに過ぎない。あらゆる社会を掌る組織は、老若男女無数の歯車が整然と組み込まれ、動いているのもまた現実だ。
そう言われりゃ、その通りだ。いろんな奴がいるからな。それらが共存し組織社会を動かしているんだからよ。
ため口を訊く働き蟻が、尤もらしく頷いた。
そして、己の住む巣穴や他の共存社会の生き様を語り始める。
「我が蟻社会では、すべからく定められた集団生活を営んでいる。単独で生きることなどない。昔からずっとそうだ。ところで人間社会でも、一人では生きて行けぬと長老に教えて貰ったことがある。それは然りと思う。
けれど俺が見る限り、人間界でも共存し営んでいるように見えるが如何だ。ところで不可解なことがある。時には助け合うが、いがみ合い殺し合うことが多い。人間界の歴史を見ると共存共栄と言いながら、大きな集団同士の争いが繰り返されている。摩訶不思議としか言いようがない」
呆れ口調になる。
「とは言うものの、我が蟻社会でも同様なことが覗える。何万年もの間、いや何十万年、何千万年に亘り、共存社会を築いてきたその過程は決して平坦ではなかった。幾度とない絶滅の危機に瀕しては、都度苦難の末乗り越えてきた。その生き様は、地球生命の進化そのものと同じだ。それ故、我が種族の共同社会態勢では、個々の役割が重きを成し、更に整然とした組織が形成されている」
さらに調子づく。
「我らから覗う人間界でも、進化の過程をみると同じことが言えるみたいだ。人類の発生から紐解くと、個人とそれらを結ぶ共同社会の役割が見えてくる。個々の人間は弱いものだ。その弱さを克服したのが、仲間としての共存組織態勢ではないか。
従って、一人では生きて行けない。共存社会での個人のなすべき役割と、しっかりした組織造りが原点である。我が蟻社会会でも人間社会でも、共通するのはこの点であろう。そのように考えれば、これもまた寄り添い共営して行くことが不可欠なのである」
尤もだと頷く。
「だからと言って、共存社会の中とてすべからく他人に頼ってはいられない。複雑な社会になればなるほど、独立精神を持ち競争心を発揮しなければ渡っていけない。これまた然りである。けれど遮二無二生きようと勇んでも組織がある以上、それに従わなくては成り立たない。
現実はそんなものだ。意に反したからと愚痴ばかり並べ、後ろ向きになっていたんじゃ進歩がない。さりとて、己の考えも持たず他人の批判ばかりでは、これまた成長の糧にはならない」
一匹の働き蟻が、長々と能書きを垂れた。
「まあ、これも受け売りなんだがよ」
白々しく打ち明け、体験談を語りだす。
「俺、聞いたんだ。人間同士が話しているのを。大きな硝子の器に、色のついた泡の立つ水を飲みながら喋っていた。聞き耳を立てていたら、つい引き込まれちまったよ。それにしても、聞いていると人間社会とは複雑で難しいもんだな」
「ところで、動物や幾多昆虫の生き様では、如何なんだろうか?そうだよな、動物たちの世界にも仲間社会がある。それに昆虫類だってそうだ。夫々優れた共存社会を築いており、優劣つけがたいものがある。それに、どの社会でも人間界と同様に争いがあり、また異端児もいると聞く」
そして己らを引き合いに出す。
「そうそう俺らを見てみろ、立派な巣穴社会を形成しているだろ。けれど、同じことが言えるよな。まあ、それはそれとして。幾多ある共同社会の中で、あえて我が蟻族と人間一族を比較したら。さて、どちらが優れているだろうか?」
さらに、
「高等な知恵を持つ人間か、それとも地を這い何万年、いや、何千万年も種族保存してきた我ら蟻なのか?人間様から言えば、俺らが一番優秀であり、地球の支配者だと日うだろうが、我らから視れば人間界など遥かに歴史は浅い。現代人類が形成されて高々十七万年ぐらいであろう。それに比べ、氷河期をも乗り越え八千五百万年前から生きつがれてきた蟻族が、地球上の絶対的支配者だと自負している」
うむ、果たしてどちらに軍配が上がるのか…?
能書きを垂れる働き蟻が、眉を寄せ厳しい顔をしていると、ビールとやらを飲んでいた一人の人間が吐き捨てた。
「ああ、何だか話がややこしくになってきたぞ。人間が偉いか、はたまた蟻が地球を支配しているとか。どちらが優れているかなんて議論して。待てよ、だからそれで如何だと言うんだ?
そんなこと問うたところで何になる。はて、どちらが優れているかって。そんな末節なことを知っても何の得がある。まあ、そんなこと如何でもいいや。それより、この卑屈な毎日。自身、今如何過ごすか考えた方が、よっぽどましだぜ」
すると、隣の仲間が同調する。
「そりゃそうだ。あまり難しく考えると、またストレスが溜まるぞ。とりあえず今日のところは、これくらいにしておこう。と言うことで。それじゃせっかく仕事から解放されたんだ。ぱっとやりながら、現実の世知辛い人間社会をちょいと覗ってみましょうか」
惚けながら話を切り替えた。
「ああ、そうするか。今日は花金だ。阿呆な上司や若い奴らを肴に、自棄酒飲んで大いに発散するか」
「おお、いいね。それじゃ、今夜は徹底的に飲み明かそうや!」
職務中には見られぬ目の輝きがあった。
今日が今日であるように、明日に望みを託そうとするが、なかなか儘ならない。そうかと言って、一週間を振り返ったところで、納得のいくものであったのか。はたまた、自慢出来るものだったのかは定かでない。しかして現実を見る限り己の非力を棚に上げ、仕事が跳ね帰宅前にひと時の酒飲に酔いしれる。何時も肴は決まっている。そう、気心知れた仲間内の雑言だ。酔いが回るにつれ、ことさら口が滑らかになる。
高田俊介、五十五歳。
定年に手が届く歳になったサラリーマンが、世代交代した職場の片隅で、己の意に添わぬ現実に悔しさを抱きながら、その捌け口を仲間との戯言で憂さを晴らす。
「おい、吉村。今日の会議での部長、何だあれ。『お前らみてえな時代遅れにも、たまには意見を言わせてやるが、愚痴など聞きたくねえ。いいか、前向きな話をしろ』って言うから、云々の件如何致しましょうやと尋ねたんだ。そしたらなんだ、あの煮え切らねえ態度はよ。俺らみたいな安月給と違って高給取りだろ。もっと、それなりの答えを出してもらわにゃな。そうだろ、そう思わねえか。それが格好ばかりつけ、何が前向きな話をしろだ。決断も出来ず、己の考えも持たねえくせによ。
何時もそうだ。媚び売るようにお偉いさんばかり気にして、まるで首振る張子の虎だぜ。俺らのことなんか、ひとつの歯車としか考えちゃいないんだ。そうさ、錆び付かぬよう適度に油を注してこき使う。歯でも欠けてみろ、即交換だ。要するに使い捨ての部品みたいなもんさ。そうじゃないか?」
ああ、確かににそんな気がする。そう言えば俺なんか、会議が終わった後張子の虎野郎に何て言われたと思う。その時は気にしなかったが、後で考えてみたらふざけたことほざいていることに気づいたよ」
「うか。それで、何て言われたんだ?」
「おおあの野郎、ぬけぬけと言ったぜ。何時でもいいんだ。その気になったら出してくれればな。君を視ていると相当草臥れているようだから、少し休暇でもとってさ、奥さんとゆっくり温泉にでも行って来いよ。今まで家庭を顧みず、勝手なことばかりやってきたんだろ。女房孝行するまたとないチャンスじゃないか」とな。
つい俺も、その気になって。『如何もお気遣い頂き、有り難うございます』と、言っちまった。そうしたら、あいつ『いや、礼には及ばないさ。ところで何時から長期休暇を取るのかね?』だってよ。確かにあん時、そう言ってた」
思い出し、馬鹿にするなと貶す。
「長期休暇、だってよ。まあ俺も今まで好き勝手やってきたから、女房孝行と言われて思いやりのある上司だとその時は思ったさ。何ということはない、早期退職届を出せって言うことじゃねえか。あの張子野郎、ふざけやがって頭にくるぜ!」
本意を知り、よほど気に触ったのかまくし立てた。すると相棒が応じる。
「おいおい、本当かよ。そりゃ、肩叩きというもんだぜ。しかしお前、そんなこと言われたんか。確かにお前のところの部長、上ばかり気にしいるからな。手前のことしか考えない尻穴の小さい野郎だよ。それに奴のことは別にしても、定年まで何年もない。数えてみたら早いよな、もうすぐだぜ…」
高田が返す。
「それにしても嫌になるな。この歳になると、そんなことばかり気になってさ。ああ、若い頃はよかった。仕事にしても張り合いがあったし、何といっても会社のためにといろんなことにチャレンジし改革してきたもんな。確かに、あの頃は怖いもの知らずだった。己の主張を通すため、よく課長に食ってかかった」
吉村が応じる。
「そうだ、若かったんだ。一途に己の考えは正しいと具申するが、課長は意見を取り上げてくれない。そればかりか俺の改革案を聞き流すだけで、他に名案があるわけじゃない。何でも現状維持が前提で、のらりくらりと交わすだけ。やれ金がかかるだの君が考えるほど効果がないなどと、くだらねえ言い訳ばかり。要するに現状に安住しているだけだ。改革というのは、やらねば一歩も進まない。結局、堂々巡りで何も進まず自棄になり憤懣やるかたなく、憂さ晴らしに酒の力を借りるんだ。
そう言えば、若い頃はそんなことの繰り返しだった。でも、鬱憤晴らしに浴びるほど飲んで翌日まで残っても、水をがぶ飲みすればしゃきっとしたもんだ。俺って単純だから、それでまたけろっとし夢中になって仕事をしていたっけ。ところが今なんか、そんな芸当は出来きんよ。それに最近の若い奴らには、そんな破天荒なことしている奴はいないぜ。これも時代が違うということか?」
高田が愚痴ると、相槌を打ち吉村が嘆く。
「ああ、まったくだ。嫌な世の中になったもんだ…」
焼酎のお湯割を気だるそうに口に運ぶ。するとその様を見て、高田が自嘲気になる。
「なあ、吉村。月曜からつまらねえ一週間だったが、今日は金曜日だ。明日は休みだし、とことんやるか?」
「おお、いいね!」
グラスを合わせ、残り少ない酒を一気に空けた。
結局、午前様となり家路についた。
翌日。土曜日の朝早く、酔いの醒めぬまま起き出す。
「ああ、昨夜はよく飲んだ。お陰で二日酔いだ。吉村の奴、相当参っていたんで、景気づけにと大分空けたからな。ううっ、痛てて、頭が割れるほど痛えや」
こめかみを押さえ大あくびをし、何時ものようにジャージに着替え、くたびれた靴を履き家を出て、そろりと走り始める。
…俺はジョギングをしつつ心地よい神無月の風を受け、酒臭い息を吐きながら八瀬大橋を渡り対岸の袂へとやって来た。
今だに残る頭の痛みを気に留めながら、青かびの生したベンチに腰を下ろす。弾む息が収まるにつれ、酒臭さも抜けてきた。それに連れ爽快感が漂い始めた時、何の気なしに足元を見ると働き蟻が懸命に獲物を捜し歩き回っているではないか。
自然と俺は、その蟻の行く先を目で追った。時々仲間とすれ違い触角を合わせ、何やら言葉を交わしてはまた先へと進む。
はて、何を話しているんだろう?ううん、そうか。獲物の在り処でも教え合っているんだな…。それにしても朝早くから、よく働くよ。さすが働き蟻だ。昨夜の酒の肴じゃないが、俺らの若い頃のようだぜ。
そう言えば、つい先日新聞を読んでいたら、写真入で載っていたな。確かそれによると、「いわき市の白亜紀後期の地層から、国内最古となる八千五百万年前の蟻の化石を含む琥珀が採取された」という記事だった。ううん、八千五百万年前の蟻だぜ。写真をよく見たが、この働き蟻と変わらねえじゃねえか。と言うことは、何の進化もないということか?
頭痛も何時の間にか消え、深追いするように蟻たちに視線を投げる。
そんなことあるのかよ。そうだろ、人間だって現代人に至るまで随分進化したんだぜ。他の生き物だってそうだ。はて、待てよ。おお、変わらぬ奴もいるぞ。ゴキブリの生態なんかも遡れば歴史は古いけど、ほとんど進化していないと聞く。それに山椒魚やカブト蟹だってそうだ。それにしても不思議だな。ちょっと考えられないことだけど、事実なんだよな。それでよ、化石写真をよく見たがまるで変わっていない。にわかに信じ難かったけれど、そんなことがあるのか。まあ、今まで考えもしないから、知らなかっただけだ。それに、そんなこと興味なかったしな。
足元で懸命に動き回る蟻を追い、ついと考え込んでいた。そして更に、はたと気づいたのか、まじまじと視線を向ける。
そうか、そうだとすれば、これは大したもんじゃないか。当然、世代交代はあったろうが、如何やって何世代も生き永らえてきたんだろうか。八千五百万年前からといえば、その間の環境変化だって随分あったはずだ。一億五千年前に恐竜やその後生きたマンモスだって絶滅している。それを、とにかく乗り越えてきたんだからな。この生命力というのは、ううん想像できねえや。だって地面に巣穴を掘って暮らしているんだろ。
多分、この生き方は過去も今も変わっていないと思うが、人間の生き様を見てみろよ。縄文時代から現代社会までの推移をな。勿論、それ以前だって歴史があることは分かるが、そこまでは分からねえから省くけど、それでも随分違っているだろ。それがこいつらは、気が遠くなる年月を同じように生きてきたんだからな。すげえとしか言いようがない。ともかく、俺には考えられないことだよ。
なかば呆れ、想像外とでも言うような思考になるが、それでも己の生きざまを考える。
ああ、それにしても俺の人生、如何なんだ。嫌になるくらい平凡な生き様だもんな。長くても、精々八十年ぐらいなもんだ。実のある人生を送らなければいけないのに、こいつら文句ひとつ言わず働いている。頭が下がる思いだぜ。それに比べ定年が近いとはいえ、給料を貰っている以上、身を粉にして働くべきなのに、俺なんか毎日飲んだくれて愚痴ばっかりだ。
こいつらと比較されたら遇の音も出ないぜ。そうだろ、恥ずかしいばかりだ。でも、こうやって観ていると、何だか似ているような気もするぜ。この働き蟻と俺とがよ。同じ雑兵だものな。せっせと動くところなんか、昔の俺と変わりねえ。雨が降ろうが、真夏の糞暑い日でも黙々と働いていた…。いや、本音のところは時々弱音を吐いたがな。
つとそう思うと、何となく昔の自分が働き蟻とだぶり、何時の間にかその中へと引き込まれて行くような心持ちになっていた。
「…」
蟻の動きをじっと覗っていた。すると、不意に声をかけられる。
「俊介、そんなところで何やってんだ!」
ううん?あの働き蟻、俺に何か言っているみたいだな…。
その蟻に視線を向け応じる。
「何だよ。何か用か。えっ、何だって。何、早く来いだと。しかし、お前のところへ行って如何するんだ?」
すると返事が戻った。
「ええ、なにっ。『俺も働き蟻だって。役目は獲物を獲ることだと。何故そこに座って休んでいる。早く探しに行かないか』だと?」
「何言ってやがる。俺はお前とは違い人間だぞ。お前らの仲間なんかじゃねえ!」
ぶっきらぼうに返し、声をかけてきた働き蟻を覗う。
目が合った。
「…」
ううん、妙だな。俺は人間だよな?はて人間か?いや、人間って何だろう…。
あれ、待てよ。お前と同じ働き蟻なのか…?
あいや、待て。確かに俺は人間だ。蟻なんかじゃないんだ。人間様だし、働くしか脳のないサラリーマンだ。少々草臥れてはいるが、立派な企業戦士だ。毎日、懸命に働く一兵卒の兵隊だ!
一瞬戸惑う。
しかし、待てよ…。一兵卒の兵隊なら、まさしく働き蟻だよな。懸命に汗水流し働く戦士を、俗に働き蟻というよな…」
そう言えば、お前。俺の若い頃と似ているな。いや、待てよ。俺って…」
じっと妄想していた。すると、何かに背中を押され目が輝く。
うん?何だ、俺自身。何時もこの働き蟻と同じことしているじゃねえか!毎日、あくせく獲物を探し回っている奴とよ…。
…待て、俺は働き蟻か?…うん?もしかしてそうかも知れんな。いや、そうだったんだ。俺って、しがねえ雑兵の働き蟻なんだ。人間の皮を被った蟻なんだ!
確信し頷いた。
その瞬間から、蟻たちと同じ目線になっていた。
すると、何やら頭の先がこそばがゆくなり、何かが伸びてきたような気がした。つい、手先でその突起物をしごいた。
さらに、働き蟻が語りかけてくる。
「おい、俊介。何をごちゃごちゃ言っている。お前は俺と同じ働き蟻なんだぞ。さあ、行こう。ぐずぐずするな!」
そう叱咤され、俊介は従順に頷く。
「ううん?ああそうか。そうだよな。こんなところで、ぼさっとしていられないや。ご免、ご免。さあ、君に道順を教えて貰い越冬用の獲物を集めなきゃ」
疑うことなく、その働き蟻と触覚を合わせ在り処を尋ねていた。そして、教えて貰った方へと歩き出した。
つらつらと酔い醒めの延長のように夢心地で眺めていたが、何時の間にやら脳内時計の針が若き日の自分へと巻き戻され、何の抵抗もなく異次元の世界へと入って行った。
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