第六十三話 正体


 クリスさんについていく俺。実際ロミオン商会は十階の高さがあり、階段で登るのは辛いものがあった。しかし、そこで気になったのは俺たちが階段を登る途中で、すれ違う従業員などが道を譲るのだ。


 最初はお客の俺に対してかと思ったのだが、それだけじゃないらしく。どうも、俺の前を歩いているクリスさんに向けられている目が大きい気がする。


 そんな視線も感じながら、結局最上階まで来てしまった。最上階は商品があるわけではなく、事務所みたいになっているので、実際に商品があるのは一から九階ということになる。それでも凄いのだが。


 そして、最上階に着いたクリスさんは迷うことなくある一部屋に向かう。辿り着いた先にあったのは会長室だった。


 なんで、こんなとこに来る必要があるんだ?という疑問と緊張が混じるような、変な感覚でクリスさんに続き部屋に入る。


 しかし、予想に反してその部屋には誰もいなかった。


 んっ?ちょっと待て、


 クリスさん、この部屋に入る前にノックしたか?しかも、部屋の中に誰もいないことに驚きもしない。


 ここまで、考えた上で俺はハッとした。なぜ、俺たちがここまで来る時に従業員が、道を開けていたのか。そして、今の状況を鑑みると出てくる結論は一つしかなくないか?


 俺は、恐る恐るクリスさんの方を見る。


 すると、クリスさんはにっこりとした後に、部屋に唯一置かれている作業机に向かい、腰掛けた。


「想像通りだよ。護さん、私がロミオン商会の会長をしてます。クリス・ロミオンと申します。どうぞ、よろしくお願いしますね。神童様」


 やっぱり、クリスさんが会長だったのか。クリスさんの発言でこれまでのことが理解できた。でも、なんで俺が神童って知って言っているのだろうか?クリスさんには言っていない気がするんだけど。


「その様子だと、やっぱりそうだったのですね。神童様方と生活したのは短い時間であったけど、その中でそう考えたんですよ」


 クリスさんが俺の考えをよんで先に答えてくる。俺って本当に顔に出やすいのかな?


 そんな事は後から考えるとして、カマをかけられたとこと、俺が神童だっていうことを見抜かれたのが凄い。本当に短い時間しか共に行動してないというのに。


「すみません。クリスさんの言った通り俺は、女神アイリスの神童をしています。まぁ、していますって言っても生活の世話ぐらいなんだけど」


 そう、アイリスは最近また、働かなくなってきたのだ。あぁ、考えると怒りが湧いてきた。これは、もう一度天照様の雷が必要になる日も近いだろうか。


「そうですか。護さんのパーティー、、嫌、勇者パーティといった方がいいでしょうか、まぁ、本当にひとり、ひとりが凄い人ですね」


 クリスさん本当に頭がキレる人だな。


 俺は敵に回してはいけない人リストにクリスさんを追加するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る