第二十四話 司祭カムイと恵草 一

「立派な教会ですね。白くて大きい……」


 マリアンがカムイ司祭の教会を見上げてそう言った。

 時折来ているので特別感はないが、つられてオレも見上げる。

 確かに周りの煉瓦レンガ状の建物とは違い、白く大きい。


「子供の声、でしょうか? 」


 中から聞こえる子供の声に反応してマリアンが目線を下げた。

 その先から声が聞こえる。

 しかし子供の声だけではない、大人の女性の声も聞こえる。

 もしかしてマリアンは子供好きなのだろうか?


「少し周りの建物と距離があるように思えるのですが」

「それは教会の裏側に小さな畑があるからだよ」


 ケルブの言葉に「なるほど」と頷くマリアン。


「さ、行こう」


 そんな二人を引き連れて何人か町の人達と共に教会へ入っていった。


 ★

 

「外で見た感じよりも中はもっと広いですね。それにどこか……神聖さを感じるというか」

「マリアン嬢は信仰にあついのかい? 」

「普通、だとおもいますが」


 入り口の前でケルブに聞かれて少し困ったような声でそう言うマリアン。


「神聖さかはわからんが空気はんでるよな」

「君の店もこのくらい清浄ならば、もっとお客が増えるだろうに」

「喧嘩を売っているのか? 」

「事実だろ? もう少し、気を付けたらどうだね? 」


 そう言うケルブをにくたらしく見下ろしながらも白い内壁ないへきおおわれた中を少し進む。

 前には左右に幾つかの、木で出来た椅子があり今日も町のご老人やご婦人がたが話している。

 何かして遊んでいるのだろうか、子供達が必死に身を隠すかのようにして椅子の影に隠れていた。

 中には教壇きょうだんに隠れている子供もおり、その後ろにある神像しんぞうにぶつからないか冷や冷やものだ。

 もし神像にぶつかって倒れでもしたら怒られるぞ?

 子供達の危なっかしい行動を見ながらもカムイ司祭を探した。


「いないな」

「別の部屋で勉強でも教えているんじゃないかい? 」


 そう言われながらも右に左に見る。

 これは勉強中だな。

 今遊んでいるのは恐らく畑仕事でも終えた子供達だろう。少し汚れが見える。


「少し待ってみるか」

「おや。アルケミナじゃないかい」


 近くにある椅子に向かおうとしたら声を掛けられた。

 声の方をみるとそこには老婆ろうばが。


「これは。おはようございます」

「おはようさん。おやそっちは」


 老婆がマリアンを興味深そうに見上げている。

 そう言えば本格的に町の人にマリアンを紹介したことってなかったな。

 そう思いマリアンを見るとオレに反応した。

 どうやらこっちの意図に気付いたようだ。

 軽く頷き一歩前に出て背筋を伸ばした。


「私はアルケミナ魔法薬店でお世話になっているマリアン・ローズと言います」

「マリアンちゃん、というのかい。これからよろしくね」

「よろしくお願いします! 」


 自己紹介をすると老婆がにこやかにオレの方をみてきた。


「アルケミナちゃんの店にもついに従業員が出来たんだね。感無量かんむりょうとはこのことだよ」

「いつの間にオレの店は従業員がいない店になったんだ? 」

「事実だろ? 」

「ケルブ。お前は従業員じゃなかったのか? 」

「吾輩は保護者であるからに」


 誰が保護者だ。

 そうどくづいていると隣から声が。

 オレとケルブが話しているといつの間にかご老人とマリアンが話し始めたようだ。

 それにつられて周りのご婦人方がこちらを見てきた。


「見かけない人ね」

「どこの子? 」

「冒険者でしょうか? 」

「いや騎士様じゃ? 」


 口々に予想を立てながら興味深そうにマリアンを見ている。

 そして集団で近寄り質問を始めた。

 マリアンも自己紹介をして話している。

 どうやらスムーズに溶け込んだようだ。会話がはずんでいるな。


「相手がマリアンだから良かったものの」

「アルケミナ。嫉妬しっとかい? 」

「ハッ! 誰が」

「にしては少し面白くないような顔をしているが」

「そんなことはない。いずれかは紹介しないといけなかったんだ。良い機会だと思うよ」


 ならいいが、とだけ言いケルブは椅子に座った。

 全くケルブは何を言っているか。

 誰が嫉妬だ、と思いながらもドサリとオレも長椅子に座った。


 少しすると遊んでいた子供達がオレの方に近寄ってきた。

 どうしたんだ?


「「「おはようございます!!! 」」」

「おう。おはよう、餓鬼がき共」

「アルケミナ、全く君という人は。おはよう小さな紳士しんし淑女しゅくじょ諸君」


 ケルブが椅子から降りて帽子ぼうしを取って軽く一礼。


「畑仕事は終わったのか? 」

「おわった~」

「今日も大変だった」

「しかし良いのか? 汚れたまま中で遊んでるとカムイ司祭に怒られるぞ? 」


 そう言うと子供達の血の気が引くのがわかった。


「だ、大丈夫だよ」

「そうそう。すぐに着替えればバレないって」

「なにが、ばれないと? 」


 子供達の後ろに黒い服を着たカムイ司祭が立って、重い一言を告げた。

 ギギギ、と音が鳴りそうな感じで首を後ろにやって、絶望した。


「し、司祭様これは」

「なんでもない、なんでも……」

「はぁぁ……。嘘は良くないとあれほど。アルケミナ殿。しばし待たれよ」


 そう言いながら子供達を捕まえるカムイ司祭。

 荷物のようにかかえられて、必死にオレに助けを求めた。


「た、助けて! 怖いお兄ちゃん達のリーダー」

「お仕置きは嫌だ! 」

「助けておばさん! 」

慈悲じひを、慈悲をください」


 オレに助けを求めながら手足をじたばたさせ逃げようとする二人に一言告げる。


「無事を祈っておくよ」


 いやぁ! という声が教会内に響く中周りの人達は慣れた様子で勉強部屋に連れて行かれる子供達を見送り、また世間話せけんばなしに戻った。


「……あれは大丈夫なのでしょうか」


 おばさま連中から解放されたマリアンがこちらに来てたずねてきた。

 彼女を見上げて「いつもの事だから大丈夫」と答える。


「しかし彼らもりないね。せめて作業後に土をはらうくらいの習慣を身につけたら怒られるようなことにはならないのにね」

「自分の仕事を終わらせたらすぐにでも遊びたいんだろうよ」

「もうすぐ仕事にくというのに、これでは先が思いやられる」


 やれやれと首を振るケルブに同意しつつも席を立つ。

 すると勉強部屋からカムイ司祭が出てくるのが見えた。


「いやはや申し訳ない。いつも注意はしているのだが直らんのだ」

「仕方ない。遊びたいさかりなんだろう」

「しかし、だからと言って教会内を汚すのはいただけない」


 本当に困った、というような表情をするカムイさん。


「さて、今日は納品のうひんけんかな? アルケミナ殿」


 オレは頷き、畑へ連れて行ってもらった。

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