第十六話 自称三賢人の集い 一
「ほほほ。新たなる同胞よ。よくぞ
「心から
「……
賢人会が開かれる町の集会場の一角。
そこにはこの町の——数少ない錬金術師と薬師が
自称三賢人の
目ざとい三人に
それを「やっぱりこうなったか」と思いつつ、そこら辺にある椅子に適当に座り、ため息交じりでマリアンを紹介。
彼女が公爵家の騎士と知っても態度を
「ふふふ……。わしはアルミルの町三賢人が一人! 『グレカス』! 」
「初めましてお嬢さん。わたしはアルミルの町三賢人の一人……。『ヤホイ』よ」
「お初お目にかかる。拙僧はカムイ。一応アルミルの町三賢人の一人……ということになっている」
人族の老人と若々しいエルフの女性がポーズを決めて自己紹介をし、角が一本の魔族の神官がその隣で少し恥ずかし気に
この中でこの魔族の神官——カムイさんが本当の賢人だと思う。
「ま、嬢ちゃんも座ってくれ」
「早めにいい席取らないと無くなるわよ? 」
「は、はい! 」
「……いつもこれだけだろ」
「「「……」」」
沈黙が、流れた。
気まずいのかそれぞれ汗を流しながら静かに
三賢人達は木でできた——やけに長い机に陣取り全体を見た。
まるでこの町の医療関係者が少ない現状を表しているかのような人の少なさだ。
正直なところわざわざ集会場ではなく個人の店でやってもいいレベル。
わざわざ集会場を使う意味はあるのかと思いつつも周りを見る。
後ろには腕を組んだ強面スキンヘッド冒険者ことナルクが、右隣にはちょこんと座るも
その目線に気付いたのか人族の三賢人ことグレカスが口を開いた。
「お嬢ちゃん。何か……気になる事でも? 」
「いえ。そちらの御方も服装が珍しかったので」
「む。拙僧か」
マリアンが見ていたのはどうやら全身を覆い隠すかのような真っ黒い服に身を包んだ魔族の三賢人ことカムイさんだったようだ。
グレカスの爺さんは自分の事かと思っていたようで少し気を落としているが、自信過剰もいいところだ。
それをみて「馬鹿ね。あんなに
二人の様子を見て、少し笑いつつカムイさんがマリアンの方をみた。
「これは拙僧が
「神官出身の方でしたか」
「左様。二百年以上に渡り祖国で神官——いや
この
「しかしながら
横を見るとそのスケールの
その気持ちは分からなくもない。
青年に見える一角魔族のカムイさんだが実の所五百歳を超えているらしい。
祖国で何があったのかは詳しくは知らないが旅に出るような動機があったのは事実だ。
様々な知識を得てここにいる彼こそがこの町の賢人だろう。
「しかしまだ勉強不足。実際多方面に手を出し過ぎて錬金術方面ではアルケミナ殿には
「いや、オレは運が良かっただけで」
「運の良さ、人の
「そうよ、アルケミナ。
「ど、どうされた?! ヤホイ殿。異常に震えているが、病気か?! 」
「だ、大丈夫よ、マリアンさん。単に、寒気が襲っただけよ」
「し、しかし」
ガタガタと震え、両腕を体に回して寒気を抑えようとするヤホイさん。
師匠を
毎回の事ながら学ばないヤホイさんを見つつも溜息をつく。
自称三賢人達はそれぞれ得意分野が
カムイさんは全般に強く、そして神官時代の回復魔法や解呪が使える。様々な知識を各方面から集めて吸収したらしいが本人曰く「広く浅くになってしまった」とのこと。しかし知識量は豊富で頼りになる人だ。
今震えているヤホイさんは薬学分野が得意である。彼女はどこかの森で育ったらしく、その時に得た薬草の知識、そして外に出て得た知識が豊富で薬学においては
逆に、この三賢人というバカ騒ぎを始めた人族の老人ことグレカスは錬金術師であり薬師である。確かにハイ・スタミナ・ポーションを作ることのできる知識人であるが他の二人に比べると見劣りする。しかしながら他の面——商業系に強く、ある商会の商会長であったりする。
普通にしていればそれこそ『賢人』に見えるのにと思いつつも、ばか騒ぎをしているせいか親しみが持てて嬉しく思うのは口に出さない。
そう思っていると復活したグレカスが「コホン」と軽く咳払いをして周りを見る。
そして口を開いた。
「では賢人会を、始めよう」
「いや単なるお
そう突っ込むとグレカスが気まずそうに「コホン、コホン」と何度も咳払いをした。
「何か……おもしろ、いやおかしなことはあったかの? 」
「アルケミナ殿がアーク公爵閣下の三男であらせられるトリアノ様を救いました! 」
……おい、マリアン。何を言う。
オレはこの場を軽くやり過ごしてすぐにでも帰りたいんだぞ?
そんなことを言うと——
「ほほう。それは面白い」
「やっと貴方も三賢人としての自覚が出てきたのね」
三人が獲物を見つけたと言わんばかりに目を光らせてこっちを見てくるじゃないか。
「オレが入ったら四賢人になるだろ……。それにオレは賢人じゃねぇ」
二人の言葉を突っぱねながらそう言うオレ。
「しかし人を救ったのは事実。それは誇るべきであろう。しかし……なるほど。故に公爵家の騎士が付いているわけか。恩返しか、護衛か」
「恩返し。と、吾輩は思いたいがね」
隣を見るとケルブがマリアンを見上げていた。
しかしマリアンはそれに動じることなく口を開く。
「私は恩返しにやってまいりました。実際、親衛隊の方がいれば護衛はいらないでしょうし」
「その通りだぜ。マリアン。あっし達にかかれば姉さんを危険にさらさねぇ。それにもしもの時はケルブの旦那がいる。これ以上の安全はねぇ」
いつものように過保護なまでに護衛をする彼の言葉を聞いて、全体の空気が
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