第五話 錬金術師、採取する 二

「この辺はモンスターがいないはずだ」

「本当ですか? 」

「……一応。モンスター探知ディテクト・モンスター

「僕も感知を」

「そ、そんなに信用ないか?! 」


 ここに来る途中様々なモンスターに襲われ、ぎ払い登ってきた。

 その多さにうんざりしながらも進んだ結果、皆少し過敏かびんになっているようだ。

 それぞれがモンスターを探る。


「……いない」

「僕も感じない。透明化のようなモンスターもいなさそうだ」

「ほら見ろ! 」


 彼らから目を離し目の前の紫色の花をつけた長細ながぼそい植物を見る。


「……何で分かった? 経験? 」

「それもあるが、この植物が生えてるところには大体いないんだ」

「? 何故? 」

「さぁ? モンスター学者じゃないからわからないが、昔から言われているようだ。聞くところによるとモンスターがこれを食べるとすぐに死ぬらしい」


 それを聞き、——ケルブ以外の全員がその場を離れた。


「……超危険物」

「まぁ危険植物ではあるな。しかしハイ・スタミナ・ポーションにはこれが必要なんだ。もちろん適量てきりょうになるが」

「お、俺達がハイ・スタミナ・ポーションを飲むときはそれを飲むのか?! 」

「そうなるな。まぁ心配するな。用法容量を守れば毒も薬だ」


 更に遠のく道を照らす者ガイド

 いやいや、これのおかげでどれだけ人が助かると思っているのだい?

 死にかけの人間ですら復活するというハイ・スタミナ・ポーションだぞ?

 適量てきりょうを守れば大丈夫だとも。適量てきりょうを守れば。


「さ、採ろうか。ジゴンを」


 そう言いつつジゴンを採って背中の網籠あみかごに入れていった。

 一人で。


 ★


「寂しいじゃないか」

「いやいやいや、そんな危険物触りたくもないですよ」


 それを聞きオレはにやりとする。

 両手をかざしてウルガスに向ける。

 何を考えているのか分かったのだろう。すぐに距離をとるウルガス。


「冗談だ、冗談」

「冗談になってませんよ」

「と、言うよりもオレが手を付けても大丈夫な状態を見てまだ危険物と思うのか? 」


 全員が大きくうなずいた。

 せぬ。

 ひどい植物差別だ。


「……まぁいいよ。次行こう。次だ」


 遠く離れた彼らに背を向けて最後の採取ポイントへ向かうことにした。


 ★


「ラビット系が多いです、ねっ!!! 」

「仕方ない。彼らの好物があるのだから」

「ケルブさん。モンスターの好物が次に採取するものなのですか? 」

「その通、りっ!!! 」


 前衛二人が所々現れるホーン・ラビットやグラトニー・ラビットを切り刻む。

 打ちらしをミスナが魔法で打ち抜いていた。

 しかし何故に戦闘中のケルブに聞く?

 オレに聞けばいいのに、と思いながらも戦闘終了を見届けた。


「終わったが……」

「……モンスターの好物」

「ほ、本当にポーションの材料なんですよね?! さっきのジゴン草といい、いよいよ作るものが怪しくなってきました」

「全く失礼な。大丈夫だ。きちんとハイ・スタミナ・ポーションの材料だ」


 やれやれと首を横に振りながら彼女達を見る。

 モンスターの処理を終えた彼女達がこっちに向かってくる。


「そもそもハイ・スタミナ・ポーション自体作れる錬金術師が少ないからな。誤解を生んでも仕方ないのは確かだが、偏見へんけんぎるぞ? 」

「しかし毒物にモンスターの好物となると」

「ま、その名前や効果だけを聞くのなら怪しいだろう。しかしきちんとしたものだ。実際に使われている。冒険者ギルドにもおろしているから安心するとよい」

「「「ケルブさんがそういうなら」」」


 流石のオレでも泣くぞ?

 そんなに信用ないか、オレ?


「はぁぁぁぁぁぁ……。まぁいい。先に進もう。もう少しだ」


 そう言いつつ先に進んだ。


 山を登りある地点へ行くとそこには周りとは少し違った植物が生えていた。

 軽く土もり上がっている。

 どうやらラビット種に食べられずに済んでいるようだ。


 その場所まで行き草を分ける。

 軽くしゃがみ付け根を持つ。

 ななめにするとオレンジ色の根が見えた。


「いけるな」


 そう呟きつつ手を離し、立って、アイテムバックからスコップを手に取り周りをる。

 中からオレンジの根が出てきた。


「よし。一本目終わり」

「それってもしかしてニジン、でしょうか? 」


 後ろから声がする。

 振り向くと道を照らす者ガイドの面々がこちらへよってきていた。

 ケルブが周囲を警戒する中ガロが聞いて来た。


「ああ。これでわかっただろ? ラビット種が好物っていうのが」


 そう言うとどこか気が抜けたような表情をする四人。

 このオレンジ色のニジンの根はラビット種のモンスターのみならず人も良く食べる。

 と、言うよりも普通に食材だ。

 モンスターが食べると聞いてどんなゲテモノを想像したか知らないが早とちりした向こうが悪い。


「さ、続きを始めよう」


 こうしてオレはニジンを必要分採り終えた。


「ふむ。アルケミナ。あれを見たまえ」

「何だ、ケルブ? 」


 ニジンを採り終え下山げざんの準備をしているとケルブが何やら引っ張って来る。

 指さす方向に目をやるとそこには何やら光るものが。


「何だ? あの光柱こうちゅうは。戦闘? もしかして山に異変いへんか? 」

「なにかあったのですか? 」

「あれを見てくれ」


 そう指をさすと皆見て、驚く。


「何でしょう」

「……引き返す? 」

「新しい発見かもしれませんよ? 」

「なら行く? 」


 四人がそれぞれ話し合っているのを見つつ、再度その光柱に目をやる。

 わずかだが光が弱くなっているような気がする。


「……。不思議な出来事だ。行くべきだろう」

「いやいや。ここは引き返すべきでは? 」

「未知を求める吾輩わがはいは、あそこへ行きたい! 」


 うわぁ。出たよ。久々ひさびさのワガママ。

 不可思議ふかしぎなことがあると、いつもは慎重しんちょうなのに人が変わったかのように突っ込みに行くくせ

 いや、人ではないけれど。

 しかし……。


 クイクイとオレのローブを引っ張るケルブ。

 そこから動かそうと必死になってローブを引っ張るケルブ。


 これは行かないとこの後機嫌が悪くなりそうだ。


「わかった。行くよ。行けばいいんだろ? 」

「良い判断だ。今日だけめよう」

「オレ達は行くが、道を照らす者ガイドはどうする? 」


 振り向き聞くと話し合っている四人がこちらを向いた。

 そしてリーダーのウルガスが口を開く。


「俺達はアルケミナさんの護衛です。行くのならば、行きましょう」

「……でもまずいと思ったら引くこと。これ条件」

「分かった。オレだって進んで危険をおかしたくない。まずいとおもったらすぐに引くさ」


 そう言いつつ行動方針ほうしんを決定。

 そしてその先へ向かった。


 光柱の元へ行くにつれて光が増して行く。

 かわいた土を踏みしめ先へ進むと――一本の大樹があった。


「あれ? この樹は」

「前見た時は光ってなかった」


 光る大樹に見覚えがある。

 奥まで採取に来る時に時折見かける樹だ。


「……条件? いや。これは」

「何か覚えがあるのか? 」


 横であごに手をやりブツブツと呟く猫紳士に問いかける。

 するとオレを見上げて口を開いた。


「……昔同じものを見たことがある。陽光ようこうの大樹だ」

「な! 」

「しかし、何故? 時間帯? ……なら! 」


 何かに気付いたかのように走りオレの方へ振り向く。


「早く採るんだ! 」

「え?! 」

「馬鹿。光が収まってきている。恐らく時間帯や樹齢じゅれいが関係しているのだろう。早くしないと二度とおがめないかもしれないぞ! 」

「ええぇ!!! 」


 それはいけない!

 腰にしてあるアイテムバックから樹皮じゅひく道具を取り出し、すぐさま近寄る。

 光が収まる前に、まず何枚か採る。


「通常の保存容器じゃダメだ。反射びんに詰めろ! 」

「りょ、了解! 」


 その勢いに押されながらもアイテムバックから様々な道具を投げらかして反射びんを何びんか取り出しすぐさま入れる。

 オレ達の勢いに唖然あぜんとする後ろ四人を放っておきながら、オレとケルブは光が消えるまで樹皮じゅひを採り続けた。

 それでもまだまだ樹皮じゅひは残っていたが。

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