第三話 道を照らす者 《ガイド》

「今日も大変ですね」

「そう思うのなら助けてくれ」

「冒険者間のいざこざはギルド不介入なので」

「オレは冒険者じゃないのだが? 」

「さ、出来上がりましたよ」


 うさぎ獣人の受付嬢ミミが受付台で笑いながらさっきのやり取りを茶化ちゃかす。

 が悪いと感じたのかすぐに言葉を止めてオレが書いた依頼書の手続きを済ませる。


「彼らは……。いました。呼んでくるので少々お待ちくださいね」


 席を立ち受付台から離れるミミ。

 白いスーツにこん色のブレザーとミニスカを着ている彼女を見送り受付台に背を預ける。


「いやはや冒険者ギルドに来る度にこれだと大変だ」

「正確に言うならば町でもだ、ケルブ」


 オレを見上げてそう言うケルブ。

 彼に目をやりながら町中で会った時のことを思い出す。

 恥ずかしいことこの上ない。

 それに周りの町人達が理解し、慣れてくれたから良いものの本当に彼らは疲れる。

 ま、悪い奴らではないのだから無碍むげには出来ないのだけれども。


「見た目だけで判断される社会があるのならば、アルケミナはさぞ立派な裏社会のボスと言ったところか」

「どちらかというと山賊か盗賊だな」


 遠くで依頼を選ぶ強面こわもて達を見てクスリと笑う。

 冒険者が皆こうなのではない。

 時には貴族がまぎれていることもあるし、強面ばかりではないのは確かだ。

 しかし……なんだろう。彼らを見ていると「冒険者ギルド = あらくれ者集団」と感じる。

 ダメだな。偏見へんけんは。


 そう思っているとミミのうさ耳がこちらに方向転換てんかんし、遅れて顔がこちらに向く。

 彼女は軽く笑顔を作るとスタスタスタとこちらへ歩いて来た。

 その後ろには四人の集団がいる。

 オレの前まで来ると片手で彼らをさして紹介した。


「こちらがご指名の方々になります」


 ★


兄貴あにき達の紹介ということで、ご指名ありがとうございます! 俺はCランク冒険者パーティー『道を照らす者ガイド』のリーダーで剣士のウルガスだ……です! 」

「……サブ・リーダーで魔法使いのミスナ」

「ちょ、ミスナちゃん。失礼だよ。あ、私は神官のイリアと言います。よろしくお願いします」

「ミスナの不愛想ぶあいそうはいつもの事なので気にしないでください。僕は斥候せっこう役のガロと言います。よろしくお願いします」


 狼獣人のウルガスがリーダーで、魔法使いの一尾の狐獣人のミスナがサブ・リーダー、白い法衣ほういを着て背丈せたけほどある錫杖しゃくじょうを持った人族のイリアが神官で、軽装けいそうの人族の彼がガロか。

 中々にバランスが取れたメンバーじゃないか。

 よし。ここはオレが。


吾輩わがはい魔導人形マギカ・ドールのケルブ。以後よろしくお願いしますね。美しいお嬢さん方」

「ちょ、オレの出番でばんを取るな! 」

「マ、魔導人形マギカ・ドール?! 」


 シルクハットを取りお辞儀をするケルブに驚く道を照らす者ガイド達。

 ほら。オレの紹介が……。


「え?! でも魔導人形マギカ・ドールってしゃべりましたっけ?! 」

「……初耳はつみみ


 イリアの問いにミスナが答える。

 ウルガスやガロも驚いている様子で、ウルガスが口をパクパクさせながら言った。


「おいおい……。まじか。魔導人形マギカ・ドールって言えばかなりのものだぞ! 」

「……もふもふしてそう。ウルガスよりも」

「なっ! そ、そんなことは無い! 」


 何かウルガスとミスナの関係が見えてきた気がするが、それよりもオレの自己紹介をさせてくれ。


 閑話休題かんわきゅうだい


「「「申し訳ありません」」」


 一斉いっせいに頭を下げる道を照らす者ガイドの面々。


「いやいや構わない。順番を考えなかったケルブにも問題はある」


 と、軽くケルブをにらみつける。

 しれっとこういう時だけ知らん顔している。

 まぁ顔色は変わらないが。


「頭をあげな」


 ケルブから目を移すとおずおずといった感じで四人が頭を上げていた。

 そんな彼らに「コホン」と軽く咳払いをしてあらためて。


「オレが今回の依頼主でアルケミナ魔法薬店店主のアルケミナだ。よろしくな! 」

「「「はい! あねさん!!! 」」」

「ぐはっ! 」


 な、何故だ。

 何故初対面の相手にあねさんと呼ばれるのだ。

 あぁ、あいつらの仕込みか。

 くそっ! 初対面の相手に言われるとはっ!


 ウルガスを見上げて軽く震えながら口を開く。


「そ、そのあねさんというのはやめてくれ」

「え、でも兄貴あにき達が」

「ウルガス」

「え? なに肩をつかんで」

「君ならわかるだろ? 」

「な、何がですか」

「そうだな。例えば初対面の君にオレが『白銀の孤狼ころう』とか『血塗れ銀狼ぎんろう』とか呼んだらどう感じるか」

「ぐはっ! 」


 オレの手からすり抜けてひざをついた。

 これで苦しみが少しでもわかってくれただろうか。


 深くダメージを負ったようだ。

 立ち上がらない。

 仲間も仲間で彼を立ち上がらせようとしない。

 下手に何か言うと自分達にも二つ名で呼ばれる危険性を感知したようだ。

 どこかウルガスを見下ろすミスナの目線が冷ややかだ。

 オレの知ったところではないが。


「し、しかししゃべ魔導人形マギカ・ドールというのは珍しいですね」

「ん? あぁ。そうだな。彼は魔導人形マギカ・ドールであると同時に知性ある魔道具インテリジェンス・アイテムでもあるからな。その影響だろう」


 なるほど、と深手ふかでを負ったウルガスを放置して神官イリアが聞いて来た。

 どちらか一方でも珍しいのだから双方そなえた彼はさぞ珍しい。

 盗まれる危険性もあるが、盗まれるよりも先に盗もうとした方が痛い目を見る。

 彼の説明を終える頃にはウルガスも復活していた。


「お、お見苦しいところを」

「いや、構わない」

「で、今回は護衛とのことだ……でしたがどこへ? 」

「おや、依頼書を読んでないのかい? 」

「紹介、ということもありすぐに飛びついたので」


 と、気まずいのかほほきつつ申し訳なくしゅんと尻尾しっぽと耳をらす狼獣人。

 それはダメだろ、と思いつつも他のメンバーを見る。

 すると軽く下を向いた。どうやら全員知らないようだ。

 やっぱりダメだろ。

 仕方ない、か。


「今回はオレがハイ・スタミナ・ポーションの原料を採りに行くからその護衛だ」

「? 冒険者ギルドに採取依頼しないので? 」

「前に依頼したら散々さんざんだった。偽物をつかまれるし、採り方が不十分だったりとね」


 そう言うと道を照らす者ガイドが軽く目をらす。

 これはやらかした経験があるな。

 まぁいい。今回彼らは護衛だ。


「だからオレが採取している時、モンスターや盗賊に襲われそうになったら守ってくれ」

「「「分かりました」」」

「おう。よし、行こう! 」


 こうして俺達は冒険者ギルドを出た。

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