第6話 真夏の朝礼


 朝礼の時間でも古びた体育館は蒸し風呂のように熱かった。


 数分で汗が滲んでくる。


 先生たちの中には扇子を持ってきている人もいた。


 下敷きがあれば、扇子の代わりになって仰げば、それなりに涼しいのだが、今は長くて退屈な朝礼の時間だ。


 下敷きを持ってくれば先生たちから不真面目に見えるだろうし、そんな大胆不敵なことはできない。


 僻地の学校だから校長先生や教頭先生とも顔なじみなのだが、それでも朝礼の長い話はつまらないし、早く終われ、と念じてしまう。


 給食の時間には校長先生や教頭先生と給食を食べる。


 鵜戸中の校長先生は昼休みにでも生徒たちとドッジボールするくらい親しみがあるから、朝礼の長い話も嫌いなわけではない。


 でも、ほぼ毎日同じことを聞くのは疲れる。


 外では蝉が鳴いており、静まり返った体育館での音響を我が物と化していた。




「今日は大事なお知らせがあります」


 ドッジボールで始まりと同時に、ボールが当たって外野に行かされる、校長先生は咽喉を詰まらせてひときわ大きな声で言った。


「久しぶりに転校生が来ました。拍手で迎えて下さい」


 外からその転校生が来たようである。


 バチバチと半分強制的にやらされている拍手の騒音の中で、その転校生は暑苦しい体育館の床を踏みつけた。


 拍手がしばらく続くと女子の人だかりから拍手がやんだ。


 というより驚きでつい見とれてしまったような動きだった。




「きゃあー。あんたの好みじゃない」


 戸高さんが一番大きな歓声をあげて先生から注意された。


 男子の中からも何だ、何だと窺う一味が出来たが、悠馬はそれほど転校生に興味もなかったので、転校生の影に気づかず、体育館の舞台に立つまでその顔を見なかった。


「隣町の光新学園中からやって来た鵜戸岬君です」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る