星の鈴 白亜の灯台には死を託した鈴が鳴る、という海の伝説。

詩歩子

酷暑、美少年

第1話 炎帝


 その日はずっと暑かった。


 海野悠馬はこのさびれた限界集落のメイン・ストリートを歩いてから、学校へ急いで向かっていた。


 悠馬が通っている中学の名まえは鵜戸岬中といい、ここらの小さな海辺の集落では唯一の中学校だった。


 ずっと前には地区内に二つの中学校があったらしいが、今は統合されてしまい、もう一つの廃校になった、中学校の跡地には殻となった校舎だけがゆっくりと建っていた。


 


 悠馬が通う鵜戸岬中の校門の向こう側の校舎は築四十年ほどが経っており、今にも崩れそうだった。


 災害が起きたら一発で壊れそうな古い校舎は気だるそうにその身を固めていた。

 鵜戸岬中には漁村留学という制度がある。


 漁村留学とは都会の子どもを田舎の自然や文化を体験させるために、期限付きで地区の子どもたちと同じ学校に通い、現地の家で下宿してもらうという制度だ。


 今は何とかその制度のおかげで成りたっている状態だった。


 あと数年で鵜戸岬中は廃校になるかもしれない、と悠馬は地区の婦人会からその話を聞いた。。


 悠馬が住んでいる鵜戸地区は海辺の近くにある。


 集落の奥には急峻な山々がこの村を見下ろしている。


 そのためか、鵜戸地区には山菜や果物がよく採れた。


 


 海辺に行けば魚も採れた。


 そんな集落にはずっと昔は多くの人が住んでいたが、時が経つにつれ、多くの若者は都会へ憧れて出て行った。


 


 悠馬の父は潜水士だった。


 悠馬が生まれて間もない頃に海で大波にさらわれて、そのまま帰ってこなかった。


 悠馬は必然と父親の顔を知らなかった。


 この海辺の集落に住んでかれこれ、十四年になる。


 悠馬は早くこの限界集落から出たかった。


 高校生になったら隣町の高校に行ってそこでたくさんの友だちを作ろうと思う。


 そうやって夢を描くほど鵜戸岬中には生徒が少なかった。



「おはよう!」


 後ろからクラスメートの花牟礼宗佑が声をかけてきた。


 宗佑はこの辺鄙な田舎町にずっと住んでいる幼馴染だった。


 悠馬はこの浅黒い肌をもった友人しかすごく気の合う友達という存在を知らない。


 宗佑の父親も漁師で悠馬の父と仲が良かった。


「おい、悠馬。今日転校生が来るみたいだぜ」


「転校生?」


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