あなたは何様です?
渋田ホタル
第1話 お客様は神様です
ここは複合商業施設。
施設内には医療施設やホームセンター、飲食店などが入っている。地域の生活に密着した施設であり、幅広い男女問わず年齢層が訪れる場所。
ここはそんな施設の1階にあるスーパーマーケット『スーパーテンカイ』である。
「すみません」
品出しをしているところで、誰かに声をかけられた。
「はい、どうしましたか?」
「チラシにあるこの商品、どこにありますか?」
「えっと……」
バイトを始めたてで、まだ商品の位置を覚えきれていない僕は、お客様の質問への答えに迷っていた。そこに副店長の高橋さんが通りかかった。
「お客様、どうされましたか?」
「これを探しているんだけど……」
お客様は持っているチラシを高橋さんに見せた。
「そちらでしたら、こちらの棚にございます」
「あっ、ここにあったのね。見逃していたわ。ありがとう」
客は目当ての商品をかごに入れると、会釈をして去っていった。
「高橋さんありがとうございます。まだ売り場を覚えきれなくてすみません」
高橋さんはこのスーパーの副店長だ。とてもスタイルが良く、キリッとした目に黒く長い髪をまとめている。いつも仕事を丁寧にこなし、俺のようなバイトやパートの人たちにも優しく、丁寧に仕事を教えてくれる何でもできる人。従業員の皆から信頼があり、店を訪れる客からも愛されている人だ。
「大丈夫ですよ。いきなり完璧にこなすことなんて不可能です。少しづつ覚えていって、慣れていけば良いです」
「そうですよね、すみません」
「そういうときは『ありがとう』の方が、相手から喜ばれますよ」
そんなとき、店内に男性の怒鳴り声が響いた。
店内で起きた異常な状況に周りにいた客や従業員は、音の発生元を発見しても何もできずにいた。
「長く待たせたあげくにお詫びもない。そればかりかポイントがつけられないだと?俺をなめているのか!」
「ポイントの後付けはできないので––––」
「うるさい!お前は俺を馬鹿にしている!責任者を呼べ!」
あまりの言い分に、皆が唖然としているところに高橋さんが歩み寄った。
「どうされましたか」
「誰だ、お前は?」
「私は副店長の高橋です。現在、店長は留守のため私が要件を承ります」
高橋さんは毅然とした態度で、怒鳴り声をあげる男性に応対した。
「この店員はちんたらして客を待たせたあげく、ポイントの後付けはできないとほざくんだ!ポイントカードを出し忘れたのもこいつがちんたらしていたからだ」
「お待たせした事、大変申し訳ありません。ポイントに関しては、こちらにあるように『ポイントの後付けはできません』ので、ご理解お願いします」
このスーパーではお客様がポイントを出し忘れないように、ポイントの準備を促すこととポイントの後付けができないことを張り紙で示している。
「それが駄目だというから教えてやっているのだ!第一、この店員はポイントの確認もなかったんだ。確認してくれれば問題なかったんだ」
男性の怒っている原因に見守っている皆があきれていた。確かに確認がされていれば起こらなかっただろうが、この店ではレジに注意書きがされているのだ。
怒りでいっぱいの男性は周りのことを気にすることなく、声を荒げて主張を続けている。
それに対して高橋さんは、声を荒げることも反論することもせず、ただ事実の確認と説明をしていた。
怒りの感情を爆発させている男性は、冷静な態度の高橋さんが気に食わなかったのか怒りの矛先を彼女に変えた。
「お前、聞いているのか!俺はお客様だぞ?お客様は神様だぞ!」
「はぁ……聞いておりますよ」
ついに言った。まさかこの状況、この場でそれを言う人がいるとは思わなかった。見守っていた皆がそう思ったであろう。
「なんだ、その態度は!まったく、最近の奴はなっていない!」
「失礼ですが、お客様は神様なのですね?」
「あぁ、そうだ。俺は客で、神様だ!」
高橋さんは男性のその答えに今までの接客態度をやめ、冷たい雰囲気をまとい微笑を浮かべた。
「そうですか、奇遇ですね。私も神です。ですので、お互い冷静に話し合いをいたしましょう」
ここはスーパーテンカイ。
地域生活に密着した施設であり、幅広い男女問わず年齢層が訪れる複合商業施設にある。少し普通と違うのは、天界にある複合商業施設であるということ。多くの神や天使などが住む天界にある施設。
店に来る客が神であれば、働く店員が神であっても不思議ではない場所。
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