第589話 アレサンドロ・ヴァン・スコーピオン

馬に乗った執事のハインツさんの先導で、スコーピオン公爵家の紋を掲げた黒塗りの厳つい見た目の馬車が4台、我が家の庭に到着した。


そしてメイドさんによってドアを開けられた馬車から出て来た男性を出迎える。



「いらっしゃいませ。アレサンドロ・ヴァン・スコーピオン公爵で間違いありませんか?」


「そうだが、貴殿は?」


「申し遅れました。私は池田屋商会会長のシン・ナガクラです。

スコーピオン公爵の御尊顔を拝し恐悦至極に存じます。」


「・・・」



無言は恐いから止めてよぉー(泣)


ただでさえスコーピオン公爵の見た目が恐過ぎて、一般人が関わっちゃいけない世界の人に見えるんだもの


スコーピオン公爵は右目に銀糸で蠍が刺繍された黒い眼帯をしていて、190㎝を越える長身から見下ろされたら、それだけで俺はおしっこチビりそうんですけどぉー!


貴族を怒らせちゃ駄目なのは常識だけど、俺の目の前に居るスコーピオン公爵は、一般的な貴族とは全く違うベクトルで絶対に怒らせてはいけない人だ!



王国十二家、鷹派のスコーピオン公爵家当主


アレサンドロ・ヴァン・スコーピオン


ペトラ様のお父さんで年齢は44歳。



「スコーピオン公爵、お久しぶりで御座います。こんな所で立ち話をするより室内で話しませんか?」


「レヴァティも来ていたのか。よかろう、案内致せ」


「はっ!」



ふぅー、レヴァティ様が居てくれて助かったけど、プレッシャーが半端無くて未だに脇汗が止まらんぜ。


今ならロブさんが全力で許否した理由も分かる。マジで無茶言ってごめんなさい。



◇ ◇ ◇



という事でスコーピオン公爵とレヴァティ様と一緒に応接室に来た訳だけど


この張りつめた雰囲気は何ですか?


今から兄弟盃でも交わすんですか?



ガチャッ


「失礼しまーす。あっ、、なんだスコーピオン公爵も来てたんですか。相変わらず顔が恐いですよ。

ここは貴族の屋敷じゃなくてナガクラ君の家なんだから、仏頂面は止めて下さい。」


「ふんっ、この顔は生まれつきだ。アリエスの小娘こそ相変わらず礼儀を知らんらしいな」



ひょぇー?!


応接室にやって来たステフ様は、スコーピオン公爵に対してもいつも通りに話しかけているけれど、見てるこっちが恐いから止めて欲しい。



「そうですか?

私から言わせて貰えば、相手の腹の中を探る事しか考えてない馬鹿な貴族の方がよっぽど失礼ですけどね」


「ふはははは!

俺も同意見だ。その点についてだけはアリエスと気が合うようだな」



むむっ!


なんか分からんけど、スコーピオン公爵は見た目ほど恐い人では無いらしい。



「あっ、そうだナガクラ君に伝える事があったんだ。スコーピオン公爵の奥方を空いてる客間に案内したけど、構わないでしょ?」


「構いませんけど、さっき庭に居ましたっけ?」


「妻のエリザヴェータなら別の馬車で仮眠中だったからな、ナガクラ殿に挨拶もさせず申し訳無い」


「いえいえ、こんな夜中とも早朝とも言える中途半端な時間ですから、無理に挨拶されても困りますよ。なので謝罪は不要です。」


「寛大な御心に感謝する。しかし、ナガクラ殿は見た目こそ普通だが肝の座りようはなかなかだな。初対面で俺と普通に話す奴など貴族にもそうはおらんぞ!」


「まぁ、私はただの平民で公爵がどれくらい偉いのかよく分かっていないだけですけどね」


「公爵と言っても他の爵位より責任が多いだけで、必要以上に畏まる必要は無いから気にするな。

くっくっくっ、ペトラめ、なかなか面白い男を捕まえおって」



ペトラ様と結婚したらスコーピオン公爵が義理のお父さんになる訳だけど、とりあえず気難しそうな人じゃなくて良かったよ。



「ペトラ様で思い出しましたけど、スコーピオン公爵の到着予定日はもう少し後だと聞いてたのに、かなり早かったですね」


「あぁ、レヴァティとアリエスがこんな時間に揃っているという事は、王都でサワタリの分家が行動を起こしたか?」


「ええ、ジャンヌ・サワタリがクーデターを起こしましたので、私とステフ殿は情報を共有する為に集まりましたが、スコーピオン公爵はクーデターの事はご存知では無かった?」


「クーデターか、まぁ予想の範疇ではある。

俺も以前からサワタリの分家が怪しい動きをしているのを掴んでいて、見張りを付けていた。

そして昨日、奴等に動きがあったと報告を受けて、予定を変更して急いで来たという訳だ。

レヴァティとアリエスの様子を見るに詳しい情報はまだのようだな。」


「仰る通り続報待ちです。」


「では時間を無駄にせぬ為にも、婿殿がペトラに相応しいか見極めさせて貰おう」



ぐはぁっ


王都でクーデターが起こってる時にする事では無いだろ!


だがしかし


惚れた女性のお父さんが相手ならば、当たって砕けてでも


俺の事を認めさせてみせーる!






つづく。

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