第490話 帰る人とお義母さん

「ステフ様よく聞いて下さいよ。無線機は緩衝材で包んでますから、多少の衝撃は問題無いですけど、帰りはゆっくり安全運転でお願いします。」


「はいはい、分かってるってナガクラ君。どっちにしても帰りはリィファとエミールが運転させてくれないから」



ふふっ


リィファさんとエミールさんは、荷物を積み込んだトゥクトゥク風自転車の運転席に2人で座って


『絶対にステファニー様には運転席させないぞ!』という固い決意の表情でこちらを見ている。


脳筋体質のステフ様に運転させると、絶対に途中でテンションが上がって爆走しちゃうだろう。



「なら大丈夫ですね。食事と甘味も積み込んでますから、道中で食べて下さい。」


「はぁ~、帰りたくないよぉ~、仕事したくないよぉ~(悲)」


「帰りたくないならいつまで居て貰っても構いませんけど、俺に領地の問題を持って来ないで下さいね。」


「そりゃないよぉ~、私とナガクラ君の仲じゃん。よし!ここはお互いの友情を確かめる為に助け合おう!」


「いや、キリッと格好良い表情で言ったからって無駄ですよ。」



とは言ったもの


ステフ様は宝塚の男役の人のように超美形な顔をしているから、キリッと凛々しい表情を作られると、面倒なお願いもうっかり聞いてしまいそうになるから要注意だよ。



「シンさんを困らせるのは駄目だけど、ステフちゃんの領地は国境があるから大変ではあるのよねぇ」


「そうそう、姉様の言う通り大変なんだよナガクラ君!」


「ファイトですステフ様♪」


「うん、頑張る!ってちがーう!」


「あはははは、良いノリ突っ込みですよステフ様」


「はぁ~、なんだか疲れちゃったよ(悲)」


「まっ、どうしてもって時は無線機で連絡してくれれば、出来る事はしますから。焼き立てのバウムクーヘンでも食べながら、のんびり帰って下さいよ。はい、どうぞ」


「うん、、あーんっ、もぐもぐもぐもぐ、、はぁ~、美味しいなぁ~♪くっ、ますます帰りたくない(泣)」


「はいはい、ステファニー様帰りますよ!」


「これ以上帰るのが遅れると、私達が執事のケーニッヒさんに怒られるにゃ!」


「「よっこいせっ!」」


ドサッ


「ぐえっ!」



『チリンチリーン♪』


「ナガクラくーん!またねぇー!」


「はーい、さようなら~」



護衛のリィファさんとエミールさんによって、無理矢理トゥクトゥク自転車の荷台に放り込まれたステフ様は、片手にバウムクーヘンをしっかり持ちながら元気に手を振っている。


あの様子なら心配は無いだろう。


むしろ護衛の2人の方が精神的に疲れて倒れないか心配だよ。



「うふふ」



ん?


何故かアストレア様が素敵な笑顔でめっちゃ楽しそうにしているんだが



「アストレア様何か楽しい事でもありました?」


「シンさんと出会ってから毎日楽しい事だらけよ♪」


「うーん?私自身の実感はあまり無いですけど」


「以前なら他家の当主であるステフちゃんとこんなに頻繁に会う事なんてあり得なかったのよ、それだけでも充分楽しいわ♪

でも毎日こんなに楽しくて良いのかと、不安になる事もあるわね」


「その気持ちは分からなくも無いですけど、もし明日世界が消滅したとしても、今楽しい事とは無関係ですから、存分に今を楽しめば良いと思いますよ。

アルテミスさんと結婚したらアストレア様は私のお義母さんになるんですから、一緒に楽しみましょうよ。」


「勿論♪でも私はシンさんの『おかあさん』になるの?」


「ええ、義母という意味のおかあさんですね、母親の事も『おかあさん』と言うので少し紛らわしいんですけど、貴族だと別の言い方ですか?」


「昔存在した娘婿からは名前で呼ばれていたわね、呼ばれる度に不快な気持ちにしかならなかったけれど(怒)」



アッ、アストレア様が、あのアストレア様が、心の底から不快そうな表情をしていらっしゃる!!


もしかして今日で世界が終わるのだろうか?


アルテミスさんの元旦那さんとアストレア様の間に何があったのかは知らんけど、マジで勘弁してくれぇー(泣)


とにかく話を変えなければ!



「えーっと、結婚したらアストレア様の事は『お義母さん(おかあさん)』と呼んでも良いでしょうか?」


「そしたら今から私はシンさんの『お義母さん』になります。」


「あの、アストレア様、そこはアルテミスさんと結婚してからじゃないと私の義母にならないので」


「『お義母さん』以外で呼ばれても返事しませーん♪」



おぅふ


アストレア様が少しだけ面倒くさい事を言い出しちゃったよ


だがしかし


アストレア様が、、、


否!


お義母さんが嬉しそうだから問題無し♪






つづく。

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