閑話 ラウールの戦い・前編
side:傭兵ラウール
グツグツグツグツ、グツグツグツグツ、グツグツ
「ねぇラウール兄ちゃん、鍋から凄く美味しそうな匂いがするけど何作って、、、うげっ?!なんだよその紫色のドロドロした物は!」
「あははは、心配しなくてもブルーベリーを煮詰めてジャムを作ってるだけだよ。サントスもブルーベリーは好きだろ?」
「ブルーベリーは好きだけど、煮詰めたブルーベリーって何だか毒々しいんだね」
「スゲェ紫色だ!」「うわぁっ?!」「コレ食べれるの?」
ふふっ
サントスに続いて子供達が順番に鍋で煮詰めているブルーベリーを見に来るけど、見事に全員微妙な表情をしちゃったよ。
まぁわざわざ果物を潰して食べる事なんて無いだろうから当然の反応なのかな?
ボクは今、プロプスの町にある孤児院に来てブルーベリージャムを作っている。
ここの孤児院はボクの寄付金によってなんとか運営されているようなものだから、いつの間にかボクが運営者という事になっている。
だからこそ運営者として解決しなければいけない問題も当然出てくる訳で
孤児院では子供達がパンを作って売る事で、孤児院の運営資金にしているんだけど、最近パンの売れ行きがイマイチで売れ残りが出てしまっている。
そこで打開策として、パンにブルーベリージャムを挟んで売ろうという作戦だ。
最近バルゴ王国内では砂糖の値段が安くなって色んな甘味が売られるようになったけど、平民が気軽に買えるような甘味はまだまだ少ない
そこでボクが目を付けたのがジャムだ!
貴族の間で人気があるのは砂糖を贅沢に使ったジャムだけど、砂糖無しでもジャムは充分に甘くて美味しいという事が分かった。
材料の果物も町の近くの山に入れば、孤児院の子供達でも比較的簡単に野イチゴやブルーベリーを採れるから
実質無料でジャムが作れて、普通にパンを売るよりジャムパンにした方が高値で売れるメリットがある。
だた今日のところはブルーベリージャムの試食と、売れ残りのパンを少しでも美味しく食べる為だけど
「よし、ブルーベリージャムの完成!みんなぁ~、おやつの準備手伝って~」
「「「「「はーい」」」」」
「今日のおやつはブルーベリージャムを塗ったパンだから、好きなだけブルーベリージャムを塗って食べて良いぞぉ~、いただきます。」
「「「「「いただきまーす」」」」」
あーんっ、モグモグモグモグ、旨っ!
売れ残って固くなったパンが、ブルーベリージャムを塗るだけで驚くほど美味しい♪
「みんなもジャムパンの味はどう、、、ふふっ」
最初はブルーベリージャムに戸惑っていた子供達だけど、今は無言でバクバク食べている。
中にはブルーベリージャムだけを舐めてる子もいるよ(笑)
町にはまだジャムパンを売ってる人は居ないから、上手くやれば充分にパンを完売させる事も可能だろう。
ただしジャムの作り方は凄く簡単で真似されるのも時間の問題だから、色んな種類のジャムを作っておいて
他の人に真似されたら新しいジャムパンを売り出すようにするのが良いかもしれない。
「ラウールさーん、お客さんが来てますよー。」
子供達と一緒にジャムパンを食べていると、近所に住んでいる主婦のシルヴァーナさんが来客を教えに来てくれた。
シルヴァーナさんには子供達の昼食の用意と孤児院の清掃をお願いしていて、とてもお世話になっている女性だ。
「ボクに客ですか?」
「ええ、ラウールさんに会いに来たと仰って教会の方で待ってます。でも気を付けて下さい、見た事無い青色の服を着た怪しい雰囲気の女ですから」
「分かりました。シルヴァーナさんは子供達を部屋から出さないようにお願いします。」
わざわざボクを訪ねて来る人に心当たりは無い、、、と言いたいけれど
冒険者時代のボクを知ってる人なら恨まれる覚えが有りすぎて、土下座してからお金で解決するしか方法が無い。
孤児院の隣にある教会で待ってるという事なら、騒ぎを起こす気は無いと思いたい。
さてと
ドラゴンが出るか、リヴァイアサンが出るか、いざ参る!
「お待たせしました。ボクがラウールですが何か用でしょうか?」
教会に来ると青色の服を着た女性が女神像に祈りを捧げていたので声をかけた。
「こんな所に居たのですか、随分と探したんですよラウール君」
えっ?
あっ、あの女、、、
振り返った女性の声にボクは覚えがある。
最後に見た時から幾らか年を重ねて雰囲気は少し変わったけど、耳障りなほどの高音ボイスは相変わらずらしい
そしてあの女が着ている特徴的な青色の服は、王都の神官だけが着用を許される神官服
心の何処かで間違いであって欲しいと願っていたけれど、現実を受け入れる時が来たらしい。
「ボクが孤児院を出て以来ですねシスタージャンヌ、、、いえ、今はジャンヌ・サワタリ神官長、と呼ぶべきでしょうか?」
「ふふっ、昔のように『ヌーちゃん』と呼んでくれて構いませんよ」
つづく。
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