第451話 出張という名のお見合い

「なぁアニキ、サウスビーチにはどんな甘味があるんだ?」


「この前行った時は冷たい『寒天ゼリー』が人気だったな。」


「ゼリーってプリンに似てる食感の甘味だよな?他には何があるんだ?」


「甘味はまだそれほど普及してないな。暑い地域でしか育たない果物は沢山あるから、サウスビーチの更なる発展の為にもニックのアイデアに期待しているぞ♪」


「おう!実際に見てみないと分かんないけど、頑張るよ!」



「ニック君ちょっと良いかな?」


「なっ、なんだよ」


「私と話す時はそれで良いし、会長とニック君も畏まって会話をする関係で無い事は見てて分かるけど、ニック君は池田屋商会の幹部なんだから、話し方はきちんとしないと駄目だよ」


「アニキが気にして無いんだから良いじゃんか」


「会長が気にするかどうかは関係無いの、会長やニック君の周りに居る人が気にするんだよ。旅の間は私が娼婦の会話術を教えてあげるから、しっかり覚えるんだよ」


「マジで?」


「マジで、じゃないよ。嫌ならちゃんと理由を言う!教えて貰う気があるなら返事は『はい』でしょ?」


「あっ、、、えっと、、はい」



レイチェルさんが言う娼婦の会話術が『敬語』なのかどうかは知らないけれど、少なくとも相手を不快にさせない会話方法ではあるんだろうな。



今日はレイチェルさん、ニック、ニィナと一緒に、トゥクトゥク自転車でサウスビーチに向かっている。


表向きの理由は


鰤を入手する為にサウスビーチに行くついでにニックも一緒に連れて行き、サウスビーチの街を観光させて、新たな甘味を作る時のヒントにして貰う。


レイチェルさんは元娼婦で人を見る目はありそうだから、サウスビーチの人々を見て新たな商売になりそうなアドバイスが貰えたら良いなと考えている。


そして俺もソレイユ様とゲオルグ様に色々と相談があるから、これは池田屋商会の正式な仕事としての出張になる。



裏向きの理由は


レイチェルさんとニックのお見合い的な、自然な流れで仲良くなってお付き合いをしてくれればなぁって考えているのだが


トゥクトゥク自転車の荷台で俺のうしろに座っているレイチェルさんとニックは、真剣に会話の練習を始めてしまった。


俺が知ってるレイチェルさんは、娼婦の仕事はやりたく無いと言って号泣してた時だけだけど、精神状態の落ち着いたレイチェルさんは凄く聡明な人ではなかろうか?


はたしてこれで2人に恋が芽生えるのかは全然分からん!



トゥクトゥク自転車を運転しているニィナにサイドミラー越しに、スピードを落としてゆっくりとサウスビーチに向かうようにハンドサインを送る


俺が出来る事といえば、ニックとレイチェルさんが一緒に居る時間を少しでも増やしてやるだけだ。



「なぁニィナ、あの2人上手く行くと思う?」


「ふふっ、そんなに心配しなくても既に上手く行ってるわよ。でもその事を2人には言わないでね、変に意識すると上手く行かなくなっちゃうから」



えぇー?!


真剣に娼婦の会話術を教えるレイチェルさんと習うニックは、完全に教師と生徒にしか見えない


だがしかし


初恋が学校の先生だった、というのもある意味テンプレ展開ではあるんだよなぁ。


教師と生徒、恋の始まるシチュエーションとしてはちょうど良さそうにも思える



ニックとレイチェルさんをゲオルグ様の所に連れて行く訳にも行かないから、2人だけでサウスビーチの街を観光して貰う予定だ。


ニィナが言うように2人が上手く行ってるのなら、少しくらいは心の距離が縮まるだろう。


ニックとレイチェルさんの邪魔をしないように、サウスビーチに着くまで俺は奥さんと会話を楽しみますかね♪






つづく。

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