第339話 アカ・トラサンダー

side:アカ・トラサンダー



「トラさん?」


「お嬢さん、誰かと間違えてはおられませんか?私は『虎さん』という名ではなく」「間違えるはずありません、あなたはトラさんですよね?」


「ッ?!たっ、確かに私は『虎さん』と呼ばれてはいるけれど」



私の事をトラサンダーではなく『虎さん』と呼ぶこの女性はいったい



「トラさんは覚えて無いかもしれないけど、1年前に私はトラさんに助けられたんです♪


あの時どうして役人さん達がトラさんの事を『トラサンダー』って勘違いしたのかは分からないけど、ずっとお礼が言いたかったんです、助けくれて本当にありがとうございました。」



思い出した!


目の前に居る女性は、1年前の旅の時に悪代官に捕まっていたのを私が助けた少女


幼かったあの少女が、1年ですっかり素敵なレディになっちゃったよ♪



「元気そうで何より、父上もお元気ですか?」


「はい♪あの時トラさんが私達に置いて行ってくれたお金のお陰で、村にある古くなってた窯を直して良い焼き物を焼けるようなったから、少し暮らしも楽になったんです。


でもあんな大金を貰ったのにお礼も言ってないし、指名手配されるし


でもトラサンダーの事を聞きに来た役人さん達に、村の人達は何も言わなかったんですよ


だって、私達を助けてくれたのは『トラサンダー』っていう獣人じゃなくて『トラさん』だから♪


それでも、私トラさんの事がずっと心配で、、、だから」



「お嬢さん、心配してくれてありがとう。あの時私はお金の入った袋を落としたけれど、たいしたお金も入って無いから探さなかっただけなんです、だから礼は不要ですよ。」


「それは駄目です、私達はトラさんに生涯をかけても返しきれないくらいの恩があるんです!


お金は返せないけれど、私の事を」「お嬢さん、私の話を聞いて貰えますか?」


「、、、はい」


「私はね、風の向くまま気の向くまま何にも縛られる事無く自由に生きる、さすらいの虎獣人なのです。


そして私はまた直ぐに次の旅に出なければなりません。もし、運命という物が存在するのなら、いずれまた会えるはずです。


何故なら私とお嬢さんは既に2度、偶然の出会いをしているのだから。3度目の出会いを果たしたその時は、、、」


「待ってます。またトラさんに会える日を、私ずっと待ってます!だからトラさん、私の事を忘れないで下さい」


「勿論です、あなたのような素敵なレディを忘れるはずがありません!」


「それじゃあ最後にひとつだけお願いがあります、少しだけかがんで貰えますか?」


「こっ、こうですか?」


「ありがとうトラさん」


『チュッ』


「なっ?!」



「私はまだ子供だけど、次に会う時までに頑張って素敵な大人の女になります。だから、その時は白トラさんには絶対に負けないんだから!トラさん元気でねー♪」



うーむ


急展開過ぎて私の思考が追い付かないまま、名を聞く間も無く小さなレディは走り去ってしまった



「赤虎さん、追わなくて宜しいのですか?」


「良いんだよ白虎さん。私はさすらいの虎獣人、必要なのは待っていてくれる女性ではなく、共に旅をしてくれる頼れる女性なのだから


さあ、一緒に我が家に帰ろう!」


「はい♪」






新たな決意を胸に


走る少女の横顔は


はたして少女と呼んで良いものなのか?



恋する乙女の行く先に


邪魔する物などありはしない




さすらいの虎獣人、アカ・トラサンダー


これは彼が、自由気ままに生きていく物語である。






第9章 完

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