第307話 ウィンウィン♪

ソレイユ様に引きずられるように連れて来られたのはソレイユ様の私室だった


応接室ではなくて私室に連れて来られたという事は


それなり以上に信頼されている証と言えるから普通ならとても喜ぶべきだと思う



だがしかし


なんやかんやで俺もこの国の貴族とは付き合いが多くなっている、だから俺を私室に連れて来た理由もなんとなく予想出来る


ソレイユ様の性格を考えれば俺の予想はほぼ当たっているだろう、だから心の準備が出来る事に感謝だよ。



そして今はテーブルを挟んで、ソレイユ様、ゲオルグ様と向かい合ってソファに座って居るのだが、珍しく護衛のニィナが居ない


ここで護衛の必要は無いから良いけど、ニィナって俺に危険が無い時は遠慮せず休むんだもんなぁ


風呂とトイレ以外は基本的にずっと俺と一緒だから適度に息抜きはして欲しいけど、たまにひとりにされると寂しいのよ。






「改めて、シン殿よく来てくれた、元気そうで何よりだ!」


「はっ!サダルスウド侯爵閣下におかれまては」「シッ、シン殿?!ちょっと待ってくれ(汗)」


「はい?、、、えぇーと、久し振りなので挨拶ぐらいはキチッとした方が良いかと思ったのですが」


「そういう事だったか、シン殿の機嫌を損ねる事をしたのかと思って胆が冷えたぞ(汗)」


「私も驚いちゃったわ(笑)公式の場なら型通りの挨拶も必要だけど、今は私的な場だから楽にしてくれて良いのよ


それと、シンさんの機嫌を損ねるような人が居たら遠慮せず言って頂戴ね♪」


「はっ、はい!」




ふぃーーーー(汗)


ゲオルグ様とは定期的に手紙のやり取りや贈り物をしたりはしていたけど、久し振りに会うからと丁寧な対応を心がけたのが裏目に出てしまった


そのせいでソレイユ様はとっても素敵な笑顔でいらっしゃるんだもの


この笑顔を守る為にもお馬鹿な人達はこれからも中立派貴族の方達とチカラを合わせて対処せねば!


さもなくば、アストレア様とは違うベクトルで恐ろしい事態になる気がするよ


例えるならアストレア様が『爆炎』でソレイユ様は『ブリザード』って感じだろうか?


サウスビーチは気温が高くまだまだ夏の終わりは遠そうなのに、ゲオルグ様は背筋がとっても寒そうでいらっしゃる。



だがしかし


『馬鹿者共はワシに任せろ!』という意味が込められた熱い眼差(まなざ)しを向けられ


『後方支援はお任せを!』という意味を込めて俺はゲオルグ様を見つめ返す



『ガシッ!』



この瞬間、俺とゲオルグ様はお互いの心と心でしかと硬い握手を交わした。






「あら?殿方同士で見つめあって何か良からぬ企みでもしているのかしら」


「そっ、そんな事があるはずなかろう(汗)なぁシン殿!」


「そうですよソレイユ様!えぇーと、、、あっ!御二人とも以前会った時より肌艶が良くなりましたか?」


「ふふふっ、やっぱり分かるかしら?シンさんの言う通り最近お肌の調子が良くて美の秘訣を聞かれる事もあるのよ♪」


「以前シン殿が食べさせてくれた料理のお陰だろうな。レシピ通り作れるようになるまでに時間がかかったが、作れるようになると色々な食材でアレンジが出来るようにもなって、毎日の食事が楽しみになったからな。


特に寒天を使った果物のゼリーは良い♪


夏の暑さに慣れているとは言え、毎年少なからず食欲が落ちるのだが今年は井戸で冷やしたゼリーのお陰か身体の調子も良いのだ♪


まあシン殿が教えてくれた流行り病(熱中症)対策の効果もあったのだろうがな」




厳密には寒天とゼリーは違うんだけど、面倒だから両方ゼリーという事で問題は無いだろう


しかし最初は気付かなかったけど、ソレイユ様とゲオルグ様は1年前と比べてあきらかに健康的な見た目なんだよな


以前が不健康って事では無かったんだろうけど、多少なりともバランスの整った食事になった事と夏バテが解消されたお陰だと思う



俺は深く考えてレシピ登録してる訳では無いんだけど、それでも登録したレシピが役に立っているのなら嬉しいよ♪




「それにしても寒天はよく作れましたね、レシピ登録した私が言うのも申し訳無いのですが


寒天は作るのに手間がかかる上に、雪が降るくらい寒い場所に持って行って凍らせる必要があるので完成しないと思ってましたから」


「わははははは、本当に苦労したぞ♪だが苦労した甲斐はあった、運良く北方には知り合いが居たから同じくシン殿がレシピ登録してくれた魚の干物を対価にして頼んだら快く引き受けてくれたのでな


寒天も干物も長期間保存出来る上にほとんど味が落ちんのが良い!北方は冬の間は雪に閉ざされて往来が出来なくなってしまうから


そういう意味でもシン殿にはいくら感謝してもし足りんよ」



「もしかして、寒天作りは北方の人達への支援の意味もあったのですか?」


「ふふっ、さすがシン殿だ♪我が家に仕える文官でも瞬時に気付いた者は居ないというのに


シン殿の言う通り、寒天作りは冬の間に食料不足になりがちな北方へ食料を送る口実だ


無償で食料を送るのは簡単だが、それが毎年の事となると善意もいずれ負担となろう、しかしそれが商売としての対価なら話が変わる


シン殿が言うところのお互いが得をするウィンウィンな対等の関係というやつだよ♪


まあ寒天ゼリーの人気が凄くて充分過ぎるほどに儲けが出るという嬉しい誤算はあったのだがな(笑)」




やっぱウィンウィンな関係は最高って事やな!






つづく。

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