第285話 スライディング土下座

朝食を食べていると突然見事なスライディング土下座をして来て、弟子にしてくれと言い出した40歳くらいの小太りのおじさん


年齢と服装から辺境伯家に仕える料理長かな?その歳で他人に頭を下げる事が出来るのは天晴れ!と思うけど


残念ながら俺は『おじさんに近寄られるとテンション下がる病』なので勘弁して下さい。



とりあえず執事のケーニッヒさんに助けを求めてみるけど、無理っぽいな


執事のケーニッヒさんと料理長らしき土下座のおじさんは、それぞれ別部署の責任者って感じだから、下手に口を出すと越権行為とかになるのかもしれない




「あのう、俺はただの平民なんで土下座は止めて下さい、えっと、、、とっつぁん」


「は?、、、とっつぁんと言うのはあっしの事でございましょうか?」



しゃべり方とか見た目とか、俺のイメージは完全に『とっつぁん』キャラなんだよな



「ええ、まあ、なんとなく『とっつぁん』っぽかったので」


「ぽいですか、、、一応セルジオって名前なんですが、まぁお好きに呼んで頂いて構わねぇです。


それよりも、あっしをナガクラ様の弟子にして頂けませんでしょうか?」


「だが、ことわーる!」



1度は言いたいセリフ連発で俺はもうお腹一杯です。



「そっ、そこをなんとか!」


「いやいや、俺はただの商人なんで料理人の弟子をとるとか無理ですって。それに辺境伯家に仕える料理人なら俺に弟子入りせずとも、見ただけで料理の再現もアレンジも出来るでしょうよ」


「あっしも辺境伯家に仕えて料理一筋25年、曲がりなりにも料理人の長(おさ)っつぅ役職を賜ってやすんで、ステファニー様を始め兵士の皆様に喜んで頂ける料理ってぇ事なら、誰にも負けねぇ自負っつぅもんがありやす!


しかしですねぇ、メイドっつぅか、、、女子供に喜んで貰える料理ってぇなると話は別でございやして難儀しとるんでさぁ」



なるほど脳筋、、、


じゃなくて武闘派が多そうな辺境伯家なら肉メインというか、ほぼ肉だけのボリュームがあって豪快な料理が好まれるのかもしれない


メイドさん達も肉は好きかもしれないけどそれが毎日となると辛いんだろう。




「セルジオのとっつぁん、食の好みは人それぞれなんで難しいのは俺も理解します、とりあえず野菜はもっと使った方が良いと思いますよ。」


「それでさぁナガクラ様!あっしも野菜を使うべきだってぇ事までは分かったんですがね、生のままサラダにしたり、焼いてみてもどうにもパッとしないんで


結果としてスープにするくらいしか思いつかなくってどうしたもんかと馬鹿なりに悩んでたんですが、そん時です!


ナガクラ様の御指示だっつってメイドが厨房で料理を始めやがるじゃねぇですか、しかもですよ


料理をしてるメイドの顔が見た事もねぇくれぇの笑顔だったんですよ、この凄さが分かりやすか?ウチのメイド連中が仕事中に笑顔なんですよ!」



昨日初めて来たのに知らんがな!



「セルジオ殿、ナガクラ様にメイドの事を言っても仕方無いでしょう。」


「ケーニッヒさんすいやせんつい興奮しちまって。それでメイドがトマトを煮込んでる鍋から恐ろしく良い匂いがするんで味見をしようとしたらですね、見事に1発貰いやした(笑)」



わぁお!


セルジオのとっつぁんが服をめくって見せた脇腹には、はっきりくっきり拳(こぶし)の痕があるじゃないか


平手じゃなくて拳であんな風になるってどういう事やねん


ここはメイドさんも武闘派なのかよ(汗)



「ナガクラ様の事は以前から知ってはいたんです、登録されたレシピが話題になってやしたから、それでどんなもんかとレシピを取り寄せて読んでみても、ジャムだとか、ふわとろオムレツだとか書いてあって


果物を煮詰めるなんぞ気持ち悪い事しやがって、卵はよく焼いてこそだろ!とか思ってたんですが


笑顔で鍋をかき混ぜるメイドを見てたらあっしに足りねぇもんはこれだ!と気付いたんでさぁ


ナガクラ様、改めてあっしを弟子にして頂けませんでしょうか?」


「だが、断る!」


「やっぱ駄目ですか、せめて駄目な理由を教えて貰えますか?」


「さっきも言いましたけど俺は商人なんですよ、料理の知識はあっても料理の腕前は大したこと事無いんです。


商会で働いてる従業員の方が料理上手ですし、そもそも仕事が忙しくて教える暇がありません」


「くっ!なんてこった、これからどうすりゃいいんだ」




おじさんが困ってる所を見てもなんとも思わないけど、料理の発展に役立ちそうな人は是非応援したい


それにどんなカタチであれ俺に好意的な人は増やしておいて損は無いし、将来オリジナル料理を開発してくれたら創造神様も喜ぶだろう♪



「えぇーと、俺は料理を教える暇は無いんですが、色々な所からレシピを見ただけでは美味しい料理を作れないという意見がありましたので、池田屋商会では料理の講習会を予定しています。


あとは、商会で下働きをしてくれるなら研修生というカタチで料理を教える事も考え中です。」


「是非、あっしを研修生とやらに!」


「とは言え、料理長が突然居なくなると困るでしょうから、ステファニー様の許可は取って下さいよ」


「勿論でさぁ、この命と引き換えにしてでも許可を取って参りやす!」





待て待て待てー!


命と引き換えにしたらどないして料理を習うつもりやねん、それに料理長が長期間留守にするとか冷静に考えたら無理って分かりますやん


その辺の落し所はステフ様が帰って来たら話し合わないとな




辺境伯領で予定外の事が増えてしまったけど、セルジオのとっつぁんという面白キャラを発見出来たし


良しとしよう!






つづく。

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