第211話 お仕事

「レサト殿、せっかく来られたのですから商売の話をしませんか?」


「こちらもそのつもりで来たのですが、シン殿が欲しがる物があるかどうか不安なのはこちらの方だったりするのですがね(笑)少々お待ちを」



そう言うとレサト殿は立ちあがり部屋の隅に置かれた箱に向かって行った。


あの箱グラフィアス商会の人が運んで来てずっと気になってたんだけど、取引用の品だったか



「スコーピオン公爵領で採れる物なのですがいかがだろうか?他にも取り扱っている品はあるのですが、キャラバンシティに無い物となるとテーブルに置いたその2つくらいしかなくて


シン殿に公爵領まで来て頂いて、直接領地を見て貰えれば他にも何かあるかもしれないが」



テーブルに並べられたのは綺麗なオレンジ色をした立派な柿と、ヘチマみたいに巨大なゴーヤだった


柿とゴーヤって同じ地域で栽培出来たっけ?


まあどちらも元世界の作物に似ているだけの異世界産の作物だから、問題無く栽培出来るんだろうな


それはいいけどレサト殿の表情が微妙だ、これはもしや



「レサト殿、この柿はもしかして渋柿ですか?」


「なっ?!まさか見ただけで分かるのですか?」


「ははは、さすがに見ただけでは分かりませんよ、レサト殿の表情からなんとなくそうなのかなと」


「そうですか表情に出てましたか、私も商人としてまだまだ勉強が必要なようですね


騙すつもりは無かったのですが、失礼致しました。」


「お気になさらず。それでわざわざ渋柿を持って来た理由を教えて頂けますか」



「勿論です。シン殿は渋柿をご存知だから分かると思いますが、この柿は虫も嫌がるほど渋くて食べられないのです


公爵領では柿の木が沢山あって実も沢山採れるのですが、渋柿ばかりでどうにも出来ない状況でして、料理のレシピを数多く登録しているシン殿ならどうにか出来るのではと持って来た次第です。」


「さすがに渋柿のままでは料理には使えませんね。するとゴーヤも苦過ぎるという理由でどうにもならないと?」


「ええ、仰る通りです。ゴーヤは薬として利用されているので渋柿よりはマシですね、それでも消費しきれず余っているのですが」


「柿とゴーヤ、両方ともどうにか出来た場合、対価はどのようになりますか?」


「どうにか出来るのですか?!」


「それなりに手間が必要ですし、万人受けするかは分かりませんが、一応料理のレシピがありますから」


「それで充分です!今より少しでも食べやすくなれば貧困層の食糧事情が改善出来て病にかかる者も減るでしょう。


対価は金銭でと言いたい所ですが、こちらもそれほど余裕があるわけではないので、、、」


「対価は後で考えるとして、まずは料理のサンプルを食べてみて下さい。干し柿とゴーヤチャンプルーという料理です、どうぞ」



俺はスキルの「店」の乾物コーナーから干し柿を、惣菜コーナーからゴーヤチャンプルーを購入してテーブルに出す。


改めて便利なチート能力をありがとう、創造神様!



「おおっ!既に料理のサンプルをお持ちとは驚きですが、それくらいでないとアルヴェロヴェール様のような御方と一緒に仕事は出来ないのでしょうね」



なんか俺に都合の良い解釈をしてくれてる♪


変に疑問とか持たれても困るから助かるんだけど、少しだけ罪悪感が(汗)



「ではさっそくいただきます、、、っ?!まさかゴーヤの苦味を美味しいと思える日が来るとは。


次は干し柿でしたねいただきます、あーんっと、、これが本当に渋柿?!まったく渋みが無くとても甘い、、、」



俺が出した干し柿とゴーヤチャンプルーをレサト殿は美味しそうに食べてはいるけど、同時にカルチャーショックも受けているようだ。



「両方ともお口に合ったみたいですし対価は、干し柿が無事完成したら割引価格で売って貰えれば良いですよ。あとはアレサンドロ公爵様に宜しくお伝え下さい。」


「そんな事で良ければ幾らでもお伝えしますよ♪」



よし!


これでお見合いが上手く行かなくても、柿とゴーヤの件でプラマイゼロだろ


しかも王国の西部地方にもグラフィアス商会という伝が出来た♪





その後のレサト殿と話し合いの結果


干し柿とゴーヤチャンプルーのレシピは、俺の名義でスコーピオン公爵領で登録する事になったから、レサト殿にレシピを渡して代理で登録して貰う。


ゴーヤチャンプルーの味付けには醤油とかめんつゆが欲しい所だけど、鳥ガラスープや干しキノコの戻し汁等々、比較的簡単に手に入る物にアレンジしている。


公爵領に帰ったらレシピの登録時期を少し遅らせて、ゴーヤチャンプルーの独占先行販売でグラフィアス商会が儲けを出すくらいは存分にやって欲しい、それくらいは想定済みだし


金銭より恩を売る方が俺には価値があるからな(笑)



「シン殿、本当にありがとう!とても有意義な時間だったよ。公爵領に来たら歓迎させて貰うよ」


『ガシッ!』






『コンコン、ガチャ』


「お話し中の所失礼致します。スコーピオン公爵家の紋を掲げた馬車がやって来ました」



今度こそ本当に来たか!


話が終わった絶妙なタイミングだけどそれは当然だろう



だってここは『テンプレな異世界』だもの


最高のタイミングで物事が動かないと盛り上がらないってもんだよ(笑)




いざお見合いへ!






つづく。

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