第193話 ハニトーでスマイルを♪

食パンの型を受け取りガゼル親方の工房を後にした俺とニィナは、ミリーさんに会いに商業ギルドにやって来た。



商業ギルドの職員さん達とは委託販売している保存食の事とか、その他諸々で話す機会も多いから気軽に挨拶してくれる程度には仲が良い


定期的に差し入れしてるお菓子のお陰、、、だけではないと思いたい(笑)



そんな感じだから俺が商業ギルドに来ると、直ぐに2階の応接室に案内してミリーさんを呼んで来てくれる


ニィナと一緒に出されたお茶を飲みながらで待っているとほどなくしてミリーさんがやって来た。



「いらっしゃい、シン君、ニィナさん、無事に帰って来てくれて嬉しいわ♪」


「はい、この通り無事に浮島から帰って来ました。ただ、浮島にドラゴンが居て死ぬかと思いましたけどね」


「ふふっ、ドラゴンに遭遇したのに無傷で帰って来るなんてシン君らしいわ(笑)」



ミリーさんにも笑われてしまったけどこれはしょうがないか、俺はチート能力持ちのびっくり人間だからなぁ



『ダダダダダダダダ、ガチャ!』


「シン殿ぉー!あなたのウェンディですよぉ、無事に帰って来てくれて嬉しいですぅ♪」



おぅふ、ウェンディさんは相変わらずだな、でも今日のウェンディさんはなんだか圧が弱い?


いつもはもっとこう、ほとばしるパッションを感じるんだけど


今は俺の隣に座って素敵な笑顔を見せてくれている



「えぇーと、ウェンディさんこんにちは、今日はなんだかいつもと雰囲気が違いますね」


「えへへ、分かっちゃいます?私も日々学んでいるんですよぉ、人族には直接的な愛情表現を苦手とする方が居ると知りましたから


シン殿もそういうタイプなんじゃないかと思って反省したんですよぉ」


「確かにそういう人はそれなりに居るでしょうね、俺は時と場所を考えてくれればどんな愛情表現でも嬉しいですけど


相手の事をちゃんと考える事が出来る今のウェンディさんはとても素敵ですよ」


「やったぁー!シン殿に褒められたぁ♪」




「はいはい、ウェンディ褒められて良かったわね、だから少し静かにして頂戴ね」


「はぁ~い」


「それでシン君、浮島はどうだったの?コニーとフラニーから聞いたんだけど飛んで行ったらしいじゃない」


「ひと言で表すなら良い所でした。詳しい事はカスミが纏めている最中なので2~3日後に改めて報告します。浮島に行った方法もその時に教えますよ。


それとアストレア様にも声をかけておいて下さい、お土産も渡したいので


ミリーさんとウェンディさんには浮島産の果物持って来たんでどうぞ」



収納からゴレさんに貰った果物をどんどん出してテーブルに並べていく



「あら、シン君にしては普通のお土産なのね、てっきりドラゴンの頭でも持って帰って来るのかと思ってたのに」


「ドラゴンを倒すとかさすがに無理ですからね!」


「ドラゴンに遭遇して無事に帰って来た人が言っても説得力が無いわよ(笑)」



「まあそれはいいです。今日は聞きたい事があるんですよ


眠れる森のエルフにとって『お袋の味』ってどういうのかなと思いまして」


「えぇーと、オオフクロウは食べないから味は分からないんだけど」


「ん?、、、ああそうか『お袋』じゃ分からないですよね、母親の事です。エルフはマーマって呼ぶんですよね


マーマの作る定番の料理って事です」


「マーマの定番料理かぁ、、、無いわね」



「いやいやいや、無いって事は無いでしょ!」


「シン君は忘れてるかもしれないけれど、少し前までこの街でも料理と言えば、焼いただけの肉に、野菜が入った薄い塩味のスープくらいだったのよ


それは眠れる森でもたいして変わらないわ、しいて言えば果物にハチミツをかけて食べるのが眠れる森の定番料理かしら


わざわざこんな事を聞くんだから何か理由があるんでしょ?」


「実は我が家に居るコニーとフラニーがホームシックなのか、マーマが恋しいみたいなんですよね、それで元気を出して貰おうと思いまして」


「なるほどねぇ、あの2人は眠れる森から出た事が無かったから


シン君の事だから既に何か美味しい料理を思い付いてるんじゃないの?」



「そんなに簡単に思い付いたら苦労はしませんよ、コニーとフラニーはハチミツが好きらしいんですけど、パンにハチミツをかけて食べるくらいしか思い付かなくて、ミリーさんにエルフの料理を教えて貰いに来たんですから」


「ねぇねぇ、シン君の事だからただパンにハチミツをかけるだけじゃないんでしょ?」


「ハニートーストって言うんですけど、本当にパンにハチミツをかけて食べるだけですよ、お好みで果物を乗せたりはしますけど


一応ハニートースト専用のパンがあるんで手作りしようと思って、さっきジャックさんに型を作って貰ったんですよ、コレです」


「へぇ、かなり大きいパンが必要なのね」


「ええ、俺は食パンって呼んでるパンなんですけど、そのせいでパン生地を膨らませるのに時間がかかるんですよ、こども園で作ってるパンの倍とまでは行きませんけど」


「それなら解決出来るかも♪前にこども園でパン作りを見た事があるんだけど、パン生地ってガスを発生させて膨らんでるのよね?」


「そうですね」


「それなら操作系の魔法の応用で早められると思うの、エルフはそういうのに長けてるから


逆に、シン君みたいに指先から水を出したりとかは苦手なのよね、桶に入れた水なら操作して形を変えるのも簡単なんだけど」



なんとまあ異世界らしい解決方法(笑)


パン作りの何が大変って発酵させて生地を膨らませるのに時間がかかる事なんだよな、温度と湿度の管理も面倒だし



「シン殿ぉ、私も操作系の魔法は得意なのでお手伝いしますからハニートーストが食べたいですぅ」


「俺としてもパン作りの時間短縮が出来るなら助かるので、こちらからお願いしたいくらいですけど、2人とも忙しいでしょ?」



「シン君、これは最優先事項よ!


私達エルフにとってはとても重要な事になりそうなの、エルフは魔法以外の能力も決して低くないけれど、長命種特有の性格が邪魔をして他種族と同じ街で暮らすのは難しいのよ


だからこそシン君には、コニーとフラニーを受け入れて貰ったのだけど」


「確かに、あの2人も我が家に来た当初は人族の忙しない生活に慣れるのに苦労してましたね」



「あの2人はまだマシなのよ、人族の暮らしに慣れなくて心を病んじゃうエルフも少なくないから


そんな感じだから人族の馬鹿な貴族の間では私達エルフの事を、魔法が得意なだけのマニメルヌサゴケロロスって言われてるのよ!


私それが悔しくて、悔しくて(泣)」


「ミリアリア様泣かないで下さいよぉ、私も頑張りますから!」


「一緒に頑張りましょうねウェンディ!絶対に美味しいパンを作って馬鹿な貴族共を見返してやるんだから!」




うーむ、マニメル、、、なんたらと言うのがいったい何なのか凄く気になるけど


とてもじゃないけど聞ける雰囲気ではないです。



とっ、とりあえず早く我が家に帰って食パン作ろう(汗)






つづく。

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