第160話 愛と宿命と自転車 その4

「ほぉ~♪これはなんとも貴族が喜びそうな服ですね、さすがシンさんです!食べ物だけでなく服にも革新的なアイデアをお持ちとは、いやぁ~本当にギルマスを辞めて来て良かったですよ♪」


「アル、これは俺が考えたんじゃなくて再現しただけだよ」




現在、池田屋商会本店従業員一同は、商会の視察に来るというオフューカス子爵を迎える為に


『海上自衛隊第3種夏制服』を着用して待っている


俺、ケイト、アル、ミーナの役職者は幹部制服だ。


従業員達が揃いの制服を着て整列している姿を見てると、心なしか皆も誇らしげだ



そして会長である俺の左胸には『艦艇徽章』が輝いており


ケイトは『普通科』、アルは『会計科』、ミーナは『通信科』、それぞれ職種徽章が輝いている


徽章については好きなのを選んで貰ったから特に意味は無い。




この制服を着ると気持ちも引き締まる!


やはり貴族と会うならこれくらいカッチリした服装が良いだろう。ウチはピスケス伯爵家の御用商会だから初対面で舐められてはいけないんだ!



「ご主人様、オフューカス子爵家の紋が描かれた馬車がやって来ます!」



窓から外を見ていた従業員がオフューカスの到着を教えてくれる


ついに来たか、緊張するぜ(汗)



事前に開けておいた商会の扉の前に馬車が停車するのが見える、最初に馬車から降りて来たのは護衛と思われる剣を携えた男だ


俺は相手の力量とか全然分からないけど、隣に居るケイトが少し気を引き締めたのを感じる事が出来た


チラッとケイトの横顔を見たけど、緊張は感じられないから油断さえしなければ問題無いレベルの相手なのかな?



次に降りて来たのは、


レオニード・オフューカスだ!


ニィナと見たから間違いない、太り過ぎて馬車から出るのに腹がつっかえてるよ


多分特注で馬車の扉を大きくしてるんだろうけど、それでもギリギリだからな


そして最後に降りて来たのが、こいつもスゲェ太った男だ、レオニードよりは痩せてるとはいえ充分過ぎるほど太っている


ただ、顔はレオニードによく似ている、息子にしては歳が近過ぎるから奴がニコライだろうか?


とにかく今は出迎えだ!




「ようこそおいで下さいました。私は池田屋商会会長のシン・ナガクラと申します。


失礼ですが、レオニード・オフューカス子爵閣下であらせられますか?」


「ッ!?」



俺が声をかけると、レオニードは一瞬だがとても驚いた表情をした。俺の服装を見た後にお揃いの制服で整列している従業員を見たからだと思う


この国に『制服』という物は存在しない、王都の騎士団や貴族の私兵が同じデザインの鎧で揃える事はあるが、服まで揃える事は無い


だからこそ、奴が言う所の下賎な俺達がお揃いの制服を来ていて驚いたんだろう、それでも表情に出したのは一瞬で流石は貴族様、と言った所か。


無駄に大きい腹をしているだけに腹芸は得意そうだからな(笑)





「うむ、我がオフューカス子爵家当主、レオニードである、出迎え御苦労。して閣下とは?」


「はっ!高貴なるオフューカス子爵様に対しての敬称でございます。他にはサダルスウド侯爵様も『閣下』と呼ぶに相応しい御方でありますれば、オフューカス子爵様にも相応しき敬称と思いますが、お気に召しませんでしたか?」


「ほぉ、そうかサダルスウド侯爵様も閣下と、、、うむ、我を閣下と呼ぶ事を許そう♪」


「はっ!ありがたき幸せにございます。


気をつけ!レオニード・オフューカス子爵閣下にぃ、敬礼!」


『ババババッ!!』


「なっ?!、、、おっ、おお!!」



ほっ


どうやらお気に召したようだな、興奮したのか鼻息が粗いのが気持ち悪いけど


頑張って敬礼の練習した甲斐があるってもんだよ



「閣下、よろしければ号令をお願い出来ますでしょうか?」


「ん?、、そっ、そうか?、、、そうだな♪一同楽に致せ」


『ババババッ!!』


「ほっほっほっほっ♪実に壮観である」


「それでは閣下、応接室に案内致します、こちらです。」


「うむ♪」








「改めまして、私が池田屋商会会長のシン・ナガクラと申します。隣は商会幹部のアルヴェロヴェールとケイトです。


閣下の隣におられる方のお名前を聞いても宜しいでしょうか?」


「うむ、こやつはニコライ、我の弟である」




なんとまあ、このタイミングでレオニードとニコライが揃うなんて、創造神様の言う通り『テンプレな異世界』ってのは伊達じゃないな、都合が良過ぎる気もするけど素直に感謝だよ



「本日は商会の視察と伺っておりますので、差しつかえなければ我が商会で扱っている酒の味見をして頂ければと思うのですが」


「酒か、まあ良いであろう。それと最近噂に聞く甘味を用意せよ」


「かしこまりました、直ぐにお持ち致します。『パンパン』」




『コンコン、ガチャ』


「失礼致します。酒と甘味をお持ちしました。」



ふっふっふっ、酒と甘味は既に用意して待機させてたんだ♪



「お待たせしました閣下、こちらが酒と甘芋という甘味でございます。甘味と言っておりますが砂糖は使っておりませんので、貴族の方々には甘さが少なく感じるかもしれません。」


「うむ、では頂くとしよう。もぐもぐもぐ、、、ほぉ♪平民が作ったにしては良く出来ておるが、やはり甘さが少ないのぅ、砂糖を使えば今より美味しくなるのではないか?」


「仰有る通りでございますが、砂糖は高価でしかも安定して仕入れる事が難しいのです、もう少し砂糖が普及すれば我々でも扱い易くなるのですが」


「うむ、砂糖の普及とは難しき問題であるな」「兄上!この酒凄く旨いぞ!!」


「ニコライ、大きな声を出してはしたないではないか」


「申し訳ない、しかしこの酒はなかなかの物だぞ!」


「我はあまり酒は好まぬのだが、口を付けぬのも失礼にあたるか、ではひと口、んぐんぐ?!、、、なんと飲み易い酒だ!」


「そうだろう兄上!王宮晩餐会でも飲めんぞ、ガハハハハハ♪」



ーーーーーー30分後ーーーーーー



酒をグラス2杯ほど飲んで酔っぱらったレオニードとニコライは、特に視察をする事も無くご機嫌で帰って行った。


奴等が飲んだウィスキーの水割りは飲み慣れないと酔いが回るのが早いからな、さっさと帰って欲しくて酒を出したのだが上手く行ったぜ♪


大学芋っぽい甘芋も、甘さが少なくてイマイチみたいな事を言ってたけど


バクバク食べて完食した上にお土産として持って帰るほどお気に召したみたいだ、もしかしたら料理人に食べさせて再現させるのかもしれん


やはり砂糖があっても美味しいお菓子を作るのは難しいって事なんだろうな



砂糖の普及に関して少し話を振ってみたけど、当然ながら普及させる気は無さそうだ、今となってはどうでもいい事だけど


何故なら奴等が領地に帰る頃には砂糖の製法と原材料が無償で公開される予定だからだ


そう!


さすらいの虎獣人、トラサンダーさんが無償で公開してくれるんだ(笑)



ちなみに公開するのは1番簡単な砂糖の製法で、王国十二家に教えるのは2ランクほど上の製法になる、それでも元世界の砂糖と比べたら数段味は落ちるけどな



奴等の驚く顔が見れないのは残念だし、放っておいても糖分の採り過ぎで何かしらの病気になって苦しみそうだけど、、、



あっ!


プリン体の多い食べ物を献上しまくって痛風にしてやるのも良いかもしれん、短期決戦になったとはいえ一応用意はしておくか



楽しくなってきたぜ♪






つづく。

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