第126話 おでん屋

現在の時刻は午後4時頃、完全に日が暮れてしまうと街の門が閉じてしまう為


街の外に出ていた冒険者や行商人達が慌てて戻って来る光景が毎日のように見られる


そんな人達の姿を眺めながら、俺は門兵達が使っている物置小屋の隣に隠れるようにテントを建てる


小さいけどカウンター席があるテントと、椅子だけを置いた飲食用のテントを建てて看板を設置したら、おでん屋開店だ♪




俺がイメージする屋台のおでん屋って、ガード下とか路地裏でひっそり営業してるんだよな


この街だと路地裏は迷惑になっちゃうから、物置小屋の隣にしてみたんだ


ここだと大通りからは見えないから客が殺到する事も無いだろ


おでん屋はほぼ趣味みたいな感じだから、ぽつぽつ客が来る程度でいい


商業ギルドを出た後で本店に行って、ミーナや他の従業員に仕込みを手伝って貰ったから、品切れの心配も無いはずだ



おでんの具は、大根、厚揚げ、たまご、こんにゃく、じゃがいも、鳥肉のつみれ、鳥牛豚の各種肉串


エールを飲む時に使う木製のジョッキに、おでんを入れて串で食べて貰うスタイルだ


そして今回も激安日本酒を用意した、出汁割りにしてお好みで一味唐辛子を入れて貰う


そしてそして、今日は特別に酒を注文したら、ニィナ特製のきゅうりと白菜の浅漬けが入った小鉢1皿を無料で付ける


良いねぇ、この採算度外視してる感じがとても屋台っぽい♪


ちゃんと儲かるようにはしてるんだけどね(笑)




あとはのんびり客が来るのを待つだけなんだが、さっきからテントの前をフラフラしてる人が居る



「おーい、そこに居るのロブさんだろ?」


「おっおう、本当にこんな所でやってるんだな、事前に教えてくれなきゃ分からなかったぞ」


「沢山客が来ても疲れるからね、それで何にする?今日は好きな具2個で銅貨1枚、酒は1杯銅貨4枚なんだけど」


「おっ?前より値上げしたんだな、それでもまだまだ激安だけどな(笑)とりあえず酒と、肉串は全種食べたいな、あとじゃがいもにするよ」


「はいよ~、今日は酒を頼むと小鉢1皿サービスしてるからそれ食べて待っててよ」


「これって生野菜?萎びてる訳じゃ無さそうだけど、どれどれシャクシャクシャクシャク、こっ、これは?!、、、んぐんぐんぐ、くぅーーーー!旦那もう一杯!!それとこの小鉢も追加で」


「えっ?!小鉢は一人一皿のつもりだったんだけど(汗)」


「旦那、こんなに酒に合う旨い料理を一人一皿とか拷問かよぉ(泣)」


「マジで?!味に自信はあったけど、おでんの箸休めとして考えてたんだけどなぁ」


「主様、浅漬けなら今からでも、それなりの量を作れます」


「うーむ、じゃあ悪いけどお願いな」


「お任せ下さい」



今日はまったり営業の予定だったんだけどなぁ


でもニィナの耳の辺りの髪の毛がピクピクしてるから、浅漬けを旨いって言って貰えて嬉しいんだろうな



「ロブさん、そういう事なんで小鉢1皿銅貨2枚で良いかな?」


「構わないよ、無理言ったみたいですまんな、でもなんだよあの料理、しょっぱいんだけど塩漬けって訳じゃ無いし、メチャクチャ酒に合うしよ」


「まあ、秘伝の調味料を使ってるからね♪」


「本当に旦那の所の食べ物はどれもスゲェ旨いからな、この肉串にしたってそこのスープで煮ただけなのにスゲェ旨いしよぉ、んぐんぐ、くぅーー、旦那おかわり!」


「良いけど、あんまり飲み過ぎないでよ」


「ははは、ここの酒を飲んでから酒場のエールが不味くて飲む気がしなくてよ、楽しみに待ってたんだ少し飲み過ぎるくらいは許してくれよ」


「酔い潰れない程度に頼むよ」






「あっ、あのう、、、ここは池田屋商会のお店で良いんでしょうか?」



俺がロブさんと話していると女の子がテントの入口から声をかけて来た



「いらっしゃいませ、たしかにここは池田屋商会がやってますけど、よく分かりましたね」


「やっぱりそうなんですね!みんなー、やっぱりここがそうなんだってーー♪」



わぁお?!


なんだなんだ、中学生くらいの女の子がゾロゾロ来たけど、、、


ひーふーみー、、、全部で8人か


よく見れば腰にナイフを挿してるし、革のブーツを履いてるから全員冒険者か?



「えぇーと、ここじゃ全員は入れないですよね、隣のテント使っても良いですか?」


「構いませんけど」


「それじゃあ使わせて貰いますね、人数分のお酒と、料理はお任せでお願いしまーす♪」


「はっ、はい、少々お待ちください」



うーむ、あの見た目で酒を提供するのは抵抗があるけど、この国じゃ15歳で成人だからな、人によっては小学生に見えたりする


そんな俺の微妙な心境を察したのか、ロブさんが話かけてきた




「旦那、心配しなくてもあの子らは全員成人してるよ、少し前に近くの村から出て来たんだ、採取専門で冒険者やってるよ


ここの事は女の冒険者の間じゃ噂になってたんだ、街の酒場じゃあの子らは入れないだろうしな」


「どうしてですか?」


「酒場に行く男ってのは女にちょっかい出すのが楽しみの1つだからな、娼婦か酔っ払いを殴り飛ばせる女しか行かないよ。


旦那の商会は女に優しいって有名だから探してたんだろ」



そうすると、ケイトは酒場に行く度に酔っ払いを殴り飛ばしてたのか(笑)




「なるほど、するとあの子達女だけでパーティ組んでるんですか?珍しいですね」


「それが出来るのも旦那のお陰だよ、ありがとうな」


「どうしてロブさんが俺にお礼言うんですか?」



「門兵ってのは顔を覚えんのが仕事なんだよ。あの子らみたいに他所から来るのも居れば、街で産まれ育って冒険者やる奴も居る、俺も全員を知ってる訳じゃ無いけどさ


仕事で街を出る時は門を通るから顔馴染みにもなるし仲良くもなっちまう、そんな奴等が1年もすれば半分は居なくなるんだ。


理由は森で魔物に殺られたり、ルーキー狙いの盗賊に襲われたりな。知ってる奴が毎日減って行くってのは辛いぜ」



「この辺は安全そうに見えるけどやっぱり危険もあるんですね」


「それでも他領と比べりゃマシだけどな。だから比較的安全な採取依頼を受ける冒険者は珍しく無いんだけど


今までなら採取なんてたいした稼ぎにならなかったんだ、でも旦那のお陰で今まで見向きもされなかった植物が高値で売れるようになってさ


おでんに入ってる大根もそうだな、まあそんな理由であの子らも冒険者やれてんのさ、それと女の方が仕事が丁寧らしくて商人に人気ってのもあるな」





「すみませーん、お酒おかわりお願いしまーす♪」


「はーい」






「なぁ旦那、若い奴の笑顔ってのは良いもんだな」


「何しんみりしてんですか、俺もまだまだ若いんですけど」


「えっ?あぁすまん、旦那と話してると年下って事を忘れてたよ」



まあ俺の中身は39歳のおっさんだからな(笑)



「すいませーん、小鉢5皿追加お願いしまーす」


「はーい」



うん、やっぱり中学生の見た目で酒をグビグビ飲んでる姿は違和感があるな(笑)






つづく。

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