閑話 伊勢神幸子
side:伊勢神幸子(いせがみさちこ)
私の名前は伊勢神幸子(いせがみ さちこ)、両親が名付けてくれたこの名前に私は誇りを持っている
小さい頃から周りの人達は、私の名前はとても縁起が良いと言っていたけれど縁起の良さを実感したことは無い
毎年お正月に、酔った親戚の叔父さんが縁起が良いからと、私の体をベタベタ触って来るのが心の底から嫌だった
父は私が産まれる直前に兵隊に取られて、南方の国で死んだらしい、その時の通知書は今でも私のお守り袋の中に入っている
母は私を産んだあと、産後の肥立ちが悪かったらしくそのまま死んだと聞いている
私は母の姉である叔母夫婦に引き取られ育てられた、育ててくれた叔母夫婦には感謝しているけど、私は叔母夫婦の家族と暮らすのが苦痛だった
叔母の旦那が酒に酔うと私に暴力を振るうからだ、周りはそれを止めようとはしなかった
お金がなく生活が苦しかったのも原因だろう、それでも私を育ててくれた叔母夫婦には感謝している
そしてもう二度と会う事は無いだろう
ーーーーーーーーーーーーーー
私は今、聞いたこともなく何処にあるかも分からない国
「コックローチ帝国」にいる・・・
半年前、仕事を探そうと町に向かう途中で目の前が急に白くなったと思ったら見知らぬ部屋にいた
部屋の中には全身を金色の鎧で覆った人達と、本で読んだ外国の王様みたいな人がいた、後に本物の王様だと聞かされた時はつい笑ってしまった
だって大きなお腹に薄くなった髪の毛、少し肌寒い気温なのに鼻息が荒く凄く汗をかいているのが、読んだ本に出てくる王様そっくりだったから
そして今この国は度々蛮族に攻められ、なんとか食い止めている状態なのだとか、
彼等は私を「勇者」と呼びこの国を助けて欲しいと言ってきたが全く意味が分からなかった
その後も色々な事を言われたがショックのあまりよく覚えていない
分かったのは彼等は私が拒否する事を許さない、逃げる事を許さない、戦わない事を許さない、それだけはハッキリと理解する事が出来た
その後忠誠を誓う儀式と称して私の身体に魔法で奇妙な紋様が刻まれた、この紋様からは嫌な感じしかしないが私に拒否する選択肢など最初からありはしない
幸いだったのは、彼等の言う事を聞いてさえいれば扱いは悪くなかった事だ
午前中は剣の稽古、午後から魔法を学びそれが終われば比較的自由だった
そんな日々を過ごしていたある日、私はバルゴ王国に行くよう命令を受けた、詳しいことは知らされていないが裏切り者を捕らえるのが任務だ
ーーーーーーーーーーーーーー
日暮れと同時に私と同じ任務を受けた「勇者」と呼ばれる者達とバルゴ王国のとある街にやって来た、ここに裏切り者がいるからだ
このあとバルゴ王国の騎士団が密かに街を封鎖
私たちは夜明け前に複数箇所を同時に襲撃、裏切り者と協力者を捕らえる作戦だ
作戦決行直前、私は所定の場所で待機する
、本命は別の場所で他の「勇者」達は全員そちらに行ってここには居ない
私は期待されてないらしいがその方が気が楽でいい、その時石壁の上に光が見えた、合図だ!
私は突入する建物に気配察知のスキルを発動する、、、どうやら私は本当に期待されてないらしい、中に人の気配は全く無かった
それでも慎重に中に入り、人が居ないのを確認すると建物を使えないように適当に壊していく、これで私の任務は完了したので集合地点に急ぐ
ほどなく他の「勇者」も戻ってきた、任務は無事完了したようだ
帝国に帰る馬車の中、私は昨日街の飲食店で買って収納に仕舞っておいた物を食べようとバスケットを取り出す
中を見ると、、、
ホットドックだ!!
しかもケチャップとマスタードまである!
こっちに来てから初めて見るまともな『料理』
しかもフルーツサンドまである!
どちらも日本に居た時には数えるほどしか食べたことが無かったけれど
ひと口食べたとたん美味しさと懐かしさのあまり涙が止まらなかった
もう戻れないのだと、ここで生きていくしかないのだと、、、
助けが来ないのは分かってる、それでも私は願わずにいられない
誰か助けて、、、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。