第9話 噛み合う歯車

干し芋が無事に完売し黄昏ていたら、メリルに渡す肉串を買うのを忘れていた事に気付いた


なんてこった!


契約違反とか言って訴えられないよな?



とっ、とにかくだ


今から買いに行くのも面倒だし、肉串の代わりに銀貨を渡して許して貰おうとメリルに声を掛ける



「なあメリル今日の報酬だけど肉串買うの忘れちゃったんだ、だから銀貨でいいかな?」



そう言うとメリルはなんとも言えない表情をしてこちらを見てくる



「もしかして銀貨は使いにくいのかな?銅貨の方がいい?」


「そうじゃないんだけど、スラム暮らしはお店に行っても良い顔されないから」



ん?どういう事だろうと詳しく聞いてみる


要約するとスラム暮らしは人扱いされていないらしい、だからいくら働いても基本的に報酬はパン1個しか貰えないのだ


スラム暮らしってだけでどんだけ酷い扱いやねん!


そんな扱いだからお店に行っても売って貰えない事が多々あるらしい



「それじゃあ俺が作った物で良ければ一緒にご飯食べないか?」


「おにいちゃん料理出来るの?!」



おおっ、そっちに驚くのか



「たいした物は作れないけどな」




メリルと一緒に宿に帰り、裏庭を借りて料理することにした


料理と言っても今から作るのはサンドイッチなんだけどな、肉を焼いてレタスと一緒にパンに挟むだけのお手軽料理だ


ソースをどうするか迷ったけど、フライパンで焼いてる肉に焼肉のタレをかけて絡める事にした


タレが良い感じに煮詰まったらOK、食欲をそそる良い匂いがあたりに漂う



横を見るとメリルがフライパンの肉をガン見している(笑)


スキルの「店」で買ったバゲットにレタスと肉を挟み、ビーフサンドの完成♪


メリルに渡してあげるととても嬉しそうだ



「それじゃあ食べようか、いただきます」


「いただきます」



ひと口食べたメリルは一瞬驚いたような顔をしたが笑顔でサンドイッチ頬張っている


どうやら口に合ったみたいだ



そんなメリルを見てホッコリしていると、ふと視線を感じて振り返る


そこには宿の女将さんがニヤニヤしながら立っているではないか



「裏庭で料理するっていうからどんなの作るか気になって来てみたら、凄い良い匂いじゃあないか、それに可愛い彼女も一緒だし」


「レタスと肉をパンに挟んだだけですよ、それにこの子は仕事を手伝って貰ったお礼にご馳走してるだけですから」


「ふ~ん、それだけかねぇ、色々と」



女将さんはニヤニヤしながら俺の腕を掴み柔らかい胸を押し付けてくる


と言えば羨ましい状況のように聞こえるが、実際は獲物を見つけた鷹のような目をして俺を見つめている


はっきり言って怖いです!



「それで女将さんは俺に頼み事でもあるんですか?」


「おや、察しの良い男は好きだよ♪今夜からしばらく無料で2人部屋用意してあげるからそっちのお嬢ちゃんと泊まりな、その代わりあたしに料理を教えて欲しいんだよ」


「俺は簡単な料理しか出来ませんよ、それにメリルとは昨日会ったばかりで同じ部屋でなんか泊まれませんよ」


「その簡単な料理を教えて欲しいのさ、それにそっちのお嬢ちゃんは構わないんだろ?」



そう問われたメリルは勢いよく頷く、メリルにしてみれば寝る場所と食べ物に困らなくなるから否は無いのだろう



「分かりました、本当に簡単な料理でよければ教えますよ」


「本当かい!良い男は女の頼み事を断らないから好きだよ♪あたしは今から部屋を用意してくるから2人はゆっくりしといで」



そう言うと女将さんは上機嫌で宿に戻って行った


よく分からないけど女将さんからの好感度が上がったようだ


好感度が上がって損は無いから良いんだけど、なんとなく旗が建った気がするのは俺だけだろうか?







しばらく時間を潰してからメリルと一緒に用意された部屋に行く



「今さらだけど、メリルは俺と一緒の部屋で良かったのか?」


「うん、良いよ♪それにおにいちゃんは凄い商人みたいだけど、なんか頼りないからわたしが見てないと駄目だと思ったの」



あぁ~、そうなのね


頼りないって所は自覚があるから返す言葉が見つからないよ



「えぇーと、これから宜しくお願いします。」


「うん♪こちらこそよろしくおねがいします♪」




メリルさんあんた今、最高の笑顔をしてるよ!








異世界で


不安な日々を過ごすとも


出逢いに恵まれ 救われる


輝く彼女の笑顔に


かかる雲無し




長倉真八、心の詩






つづく。

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