第21話 遥香の恋愛 ②
「そういえば、これ、理奈にお土産―〜―」
「えー?有難うー!どっか行ってきたのー〜?」
「鉄串先輩と山梨の温泉に行ってきたんだよー〜」
「へー、そうなんだぁ、また卓球同好会のメンバーで行ってきたのお?」
「いや、今回は他のメンバーの都合がつかなくて二人だったんだよね」
「は?二人で日帰り?」
「いや、日帰り温泉じゃ卓球台使えないから、一泊二日だったんだけどね」
「部屋は別々的な?」
「いや、それぞれ個室だと倍の値段になるから同室だよー〜」
「は?同室?イケメンと旅行で同室?」
「宿到着して卓球で、夕食食べて卓球で、朝起きて卓球で、ほぼほぼ卓球ばっかりしてて温泉の記憶がないほどだよ」
「ちょっ・・卓球以外に若い男と女なら他にやるコトだってあるでしょう?まさか宮脇ったら鉄串と!」
「宮脇はひたすら俺と卓球してたんだよなー〜」
「ご飯は美味しかったですよね〜―」
8階にある社員食堂で同期である横山理奈と私、宮脇咲良が昼食を食べていると、カツ丼を運んできた鉄串先輩が理奈の隣に座りながら、
「横山さんも卓球できるんなら、今度一緒に行くかーー?」
と、言い出した。
「私、卓球なんかしたコトないし、手取り足取り教えてくれるのなら・・・」
「俺が教えるわけないだろー〜」
「先輩が他人に教えているところ、生きてて一度も見たコトないですよー〜」
「だったら宮脇が教えてくれるとか?」
「そうすると人数があぶれないように他の卓球メンバーを加えなきゃですねー。そしたら、完全なるガチ合宿状態になるんだけど、理奈はそれでも大丈夫――?」
「オリンピック強化合宿に参加していた猛者もいるからなーー〜、それなりの覚悟が必要だと思うぞーー〜」
「私、やっぱりいいや。卓球絡みだったらお二人でどうぞ」
「楽しいのに〜」
「そうだよー、夜は飲んだくれたまま温泉に入って、布団に潜り込んでぐっすり眠るから、次の日の体調とか爽快そのものだよー」
「いや、私は爽快とか求めてないの、もっと激しいラブが欲しい!」
「激しいラブねー〜―」
ふと横を見ると、職員食堂で一緒に食事をしている同期の岡田遥香と、交際中の耳鼻科医師の重岡先生の姿が目に入る。
梅の花が咲く頃には激しいラブで頬を紅潮させていた遥香だけど、食堂の窓から色鮮やかな桜の花が咲き乱れるのを眺める頃には、薄桃色だった頬が血色悪く青ざめて、頬骨が出っ張って見えるまでに痩せて見えるのは何故だろう。
「ああーー〜、重岡医師って四月から本院の方へ移動だろー〜―」
カツ丼を頬張りながら二人の姿に目をやった鉄串先輩がとんでもない事を言い出した。
「教授の娘かなんかが婚約者なんだろ?確か八月に式を挙げるとかなんとかだったよな」
「はいーー〜―?婚約者がいたんですかーー〜?」
「経験を積ませるっていう事でうちの病院に来てるらしいけど、確実に本院に帰れる出世コースに乗った男って呼ばれているじゃん。知らなかった?」
「流石に耳鼻科の医者のことは知らないよ〜―」
理奈はハハハッと笑うと、
「あれ、一緒に居るの遥香じゃん?なんで一緒にランチなんかしているんだろう?」
と、疑問の声をあげる。
「いや、あの、あれ?理奈は知らなかった?」
「何を?」
「遥香、先月くらいから重岡先生と付き合い出したって」
「はあ?」
理奈はカレーを食べる重岡先生の方を見ると、
「婚約者居るんだよね?八月に挙式するんだよね?それで新人に手出しちゃうわけ?マジクソじゃない?」
怒りの声をあげると、鉄串先輩はため息を吐き出しながら言い出した。
「そういう奴に引っかかっちゃう方もまた、俺は悪いと思うよーー」
「ちょっ、それどういう意味ですか?」
「医者なんかろくな奴がいないってのは分かりきった事でしょうよ?それなのに、もしかしたら、私だけかも、万が一ってこともあるっていう想いに引きずられて、ズルズル繋がっちゃうわけでしょ?君らはうっかりダムに飛び込んで水死の死霊にならないように気をつけてね?」
「なんすか死霊って?」
「それ言わないでくださいよー〜、最近、ICUに行くのが苦痛で仕方がないんですから」
理奈は顔をくちゃくちゃにしながら、うどんをズルズルと吸い上げた。
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色々な病院で働いているので、色々な話を聞くわけなんですけれども、医者が婚約者・恋人・奥さん・・まあ、何でも良いんですけれども、パートナーが居るにも関わらず、もう一人をキープ(年取った先生方はそれを愛人と呼ぶ)するのは当たり前ってくらいに良くある話で、愛人枠にも入らずに遊ばれて捨てられる女(看護師多め)もまた、そりゃ山のようにいたわけです。
ちなみに鉄串と宮脇は完全に、先輩後輩という間柄なのです。この後、二人はどうなっていくのでしょうか・・最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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