第26話 アルバート・ディスティニー公爵嫡子なんです
アルバートのエスコートによって連れて来られた薔薇園には、沢山の綺麗な薔薇が咲き誇っていた。
美しい薔薇のアーチがあり、見事綺麗に咲き誇っている。
綺麗だとは思うが、特に好きでも嫌いでも無いので取り敢えず褒めておくとする。
「まぁ……美しい薔薇達ですね」
「だろう? 私の母が薔薇好きなんだ。ここのアトランス宮殿の庭にも植えたいと、ディスティニーが管理している
「ふふ。お茶目なお母様でいらっしゃるのですね」
「まあな」
暫く薔薇園をたわいもない話をしながら散策する。
「あ、そうだ。レティシア嬢に、ここの薔薇をプレゼントしよう!」
そう言うと、真っ赤に咲き誇った薔薇の茎をいきなり素手で掴んだ。
(あ、駄目だって! 薔薇をそのまま掴んだら!)
「痛っ!」
「アルバート様!」
レティシアはアルバートに駆け寄って茎を掴んだ右手を見た。やはり棘を触ったのか、内側の指に少し血が流れていた。
アルバートはバツが悪そうに指の傷を舐めた。
「ちっ……。レティシア嬢にかっこ悪い所をみられた」
(あかん、後でアルバートの親にいちゃもん付けられたら困るし、心配する振りくらいしないと……!)
レティシアはすかさずドレスのポケットからハンカチを取り出すとアルバートの手を取り、傷口にハンカチを押し当てようとした。
「レ、レティシア嬢! 気にするな擦り傷だ! 舐めてたら治る……!」
「ダメです。雑菌が入ってしまっては大変です! 取り敢えずこちらのハンカチで押さえて下さい。そうだ、綺麗な水で洗い流した方が良いですね。……
綺麗な水で出来たボールを思い浮かべてると、ハンドボール位の水ボールが現れたので、それにアルバートの手を手首まで突っ込ませた。
傷口を綺麗洗えたのを確認して、魔法を解除する。すると水の球は形を崩して地面に流れ落ちた。
アルバートが呆然としている内に、傷口を覆う様にハンカチで巻き付けて、軽く先を縛った。
「……はい、これで大丈夫。血が止まるまで暫く押さえておいて下さいね」
「あ、ああ。ありがとう……」
ハンカチで包帯の様に巻かれた手を左手で押さえたアルバートはレティシアを見た。
「ここは魔法が使えない様に結界が張っている筈なのに、レティシア嬢は使えるのか。……凄い魔力を持っているんだな」
「!!」
(やばい、やってもーた!!)
何か上手い言い訳を考えようと冷や汗垂らして黙っていると、アルバートはレティシアの顔を覗き込んだ。
「大丈夫、誰にも言わない。だから……
(はい! 十歳ならではの『二人だけの秘密だ。あ、いっけね素が出ちゃった』的な美少年のあどけない笑顔頂きました! ご馳走様です!)
レティシアはルシータに貰った扇子を素早く広げると、赤くなった顔を隠した。
「ありがとうございます……」
勿論、鼻血が出ていないか確認する為である。
「なんだ。……もしかして照れているのか?」
「ち、違います…」
(……鼻血が出てないか確認してるだけです。……良かった出てない)
「レティシア嬢……。あ、あの良ければレティシア……と呼ばせてはもらえないだろうか……? その……折角仲良くなれたんだ。友好の証として……」
少し顔を赤らめながら、恥ずかしそうに聞いてくる。
美少年の恥じらいながらの懇願に、レティシアは「勿論ですっ」と元気に答えてしまっていた。
このやり取りをきっかけに、一気に仲良くなれた気がする。
そう思える位、アルバートは親しげに話しかけてきた。
レティシアも取り敢えず笑顔で応えていた。
「二人共、随分と仲良くなったんだね?」
一通り薔薇園を見て回った所で、突然後ろから声を掛けられた。
その声にレティシアとアルバートは振り返った。
相手を見たアルバートは不満げに眉を顰めた。
「なんだウィリアムか。母親に言われて、様子を見にでも来たのか?」
「ご名答。レオナルド様もレティシア嬢のお兄さんも、気が気じゃないご様子でね。……レティシア嬢はとても愛されておいでですね」
にこりと優しそうに笑った。アルバートは少し苛ついた様で、子供っぽい舌打ちをした。
「……交代しろってことか?」
「そうだね。私も母上にせっつかれてしまったしね。アルバートは早く戻ってレオナルド様達の機嫌をとって来なよ」
そう言われて、アルバートは溜息を吐くとレティシアを見た。
「名残惜しいが、今日は此処までだな。楽しかったよレティシア」
ハンカチに包まれた右手でレティシアの手を取ると、手の甲に口づけを落とした。
(ひゃぃ?!)
「今度は、是非オレの屋敷に遊びに来て欲しい。屋敷の薔薇園はもっと凄い。きっとレティシアも気に入ってくれるだろう。……ウィリアム、さっさと話終わらせて戻って来いよ」
そう言うとアルバートは踵を返して神殿に戻って行った。
「驚いた……。アルバートはこの短時間で、レティシア嬢のことを随分と気に入ったようですね」
「そ、そうなのでしょうか……?」
(特に何かした訳ではない筈なんだけど?! たっ多分大人ぶってみた挨拶、だよね……?)
いきなり手に口づけられた手を見つめて、レティシアは顔を赤らめながら答えた。
「……さて、では此処からは私、ウィリアムにお付き合い頂けますか?」
ウィリアムはレティシアに手を差し出した。レティシアは何とか落ち着きを取り戻して笑顔で手を添えた。
「はい、宜しくお願いします。ウィリアム様」
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