第18話 逸材認定されちゃったんです

「ちなみにお母様。確認だけさせて欲しいのだけど、魔法ってどうやって使うの? 何か呪文を唱えれば、その魔法を使えるの?」

「いいや! 決まった呪文など、本当は存在しないんだ! 魔術の話になるんだが、魔法とは、自然の摂理に基づいた現象を、魔力を使って再現することなんだ! 例えば風。誰でも、感じることが出来るだろう? そよ風なら、優しく撫ぜる様な風を想像する! 想像しながら魔力を放つ。その時にイメージに合う言葉を放つんだ! こんな風に! 『そよ風ブリーズ』」


 ルシータがレティシアに掌を向けて呪文を唱えると、ふわりと優しい風が、レティシアの髪を揺らした。


「え……って、お母様、風魔法使えるの?!」

「ハハハ! 得意属性でなくても、魔力が高ければ、簡単な魔法ならば誰だって出来る! まあ、得意属性でも、想像力が乏しい者であれば難しいだろうがね!! そういう者は、魔術書を読んだ通りに真似をするしかない!!」

「そっか! 力が豊かなら、もっと凄い魔法になるんだね!」

「ああ!! 想像力があり、魔力の高い者であれば、そうだな!! 得意属性なら尚更だ!!」


(おおおっ! つまり魔力の高い私なら、かなりリアルなイメージをさえ出来れば、凄い魔法が使えるということ! それは凄い!!)


「義母様。つまり魔術の勉強とは…僕なら風と水の、自然現象を学ぶという事ですか?」

「流石ユリウス! 大まかにはその通りだ!! かなり奥が深いからな! 得意属性を極める為にその属性だけ学ぶのも良いが、色んな属性についてある程度知っておく方が、何かと便利だ!! その分、かなりの年月は掛かるがな!!」

「成程……」

「属性を学ぶには、その得意属性を持つ者に教えを乞うのが良い! もし火の属性を学びたかったら、そこのランディにでも頼むが良い!!」


 いきなり白羽の矢が立ったランディは、慌ててかぶりを振った。


「無理無理無理ですって!! そんな畏れ多いっつうか、めんど……レオナルド様の側近だから、色々と忙しいんです!!」


(今、面倒臭いと言おうとしたな)


 三方向から睨まれたランディは、笑って誤魔化そうとした。


「それなら大丈夫だ。私の事なら、心配しなくても良いぞ」


 突然鍛錬場の入り口の方から、声が聞こえた。振り向くと、レオナルドがこちらに歩いて来るのが見えた。


「お父様!」

「少し様子を見に来た。……ランディ、お前は火の属性に特化しているからな。遠慮なく、教えてやると良い」

「ちょちょちょっ! お、俺は、人に何か教えるのって超苦手なんすよ! 勘弁してくださいレオナルド様〜!」

「「よろしくねランディ!」」

「二人まで、何言っちゃてるんですかーー!!」


 鍛錬場にはそぐわない、皆の笑い声が響いた。


「……さて! 魔力制御の説明も終わった事だし! 後は、自分の魔力に自然と慣れるまで待つだけだ! レオが来てくれたのに悪いが、もうここに居ても仕方がない! 帰ろうか!!」

「あ! 待って! 折角だし、お父様の魔法見てみたい! ここでなら丁度良いでしょう?!」

「私のか?」

「僕も、是非見たいです!」

「ハハハ!! それも良いな! レオ!! とっておきを見せてやればどうだ? 例えば風魔法を使った、浮遊魔法とかな!!」

「浮遊魔法?! お父様空飛べるの?!」


 咄嗟に、赤いマントを靡かせるスーパーヒーローを思い浮かべた。

 ……その姿のレオナルドを思い浮かべてはいけない。絶対に。


「いや、飛べると言うには語弊がある。宙に浮かぶ魔法、と言えばいいか。天井までの高さに問題は…ないか。……二人共、浮んでみるか?」

「うん!「はい!」」

「では二人こちらへ。……いくぞ、空中浮遊レビテーション


 レティシアとユリウスの真下の地面に、大きな緑色の光が輝くと、同時に強い風がそこから勢いよく噴き出してきた。

 その凄まじい風力で身体が浮かび上がると、子供の身体は、あっという間に空中に舞い上がり、鍛錬場の天井近くまで浮かび上がった。


「うわぁ!!」


 ユリウスは驚きの声を上げて、手足をバタつかせている。

 レティシアもいきなりの高さに、びっくりしたが、前世でも、こういうアクティビティがあるのを思い出した。


「あわわわわ……こ、これって……!」


(まんま、インドアスカイダイビングだー!! やったことないけどー!!)


 インドアだった前世だが、興味本位で色々調べたことがある。コツやテクニックも。

 一気にリラックスしたレティシアは、前世の知識をフル活用して動いてみた。

 上昇下降を繰り返し、慣れてきてさらに回転まで。クルクル回転しながら、レティシアは笑顔で叫んだ。


「これ楽しー!!」


 暫く空中浮遊を、大いに楽しんだ。


 風の勢いが次第に弱まり、二人はゆっくりと地面へと降り立った。ユリウスは少し青い顔で片膝を付いた。


「どうだった二人共!!」

「少し、怖かったです……」

「すっごく面白かった!!」

「……レティは凄く跳び回っていたな。私でさえ、あそこまで跳び回れる自信は無い」

「初めて見ましたよ、あんな動き! 流石お嬢!!……さま」

「えへへ、ありがとう。でも、風魔法じゃなくて重力魔法なら、もっと浮遊魔法って感じで良いのかもって、思った」

「レティ、重力魔法って?」

「兄様知らない? 確か土属性か闇属性になるんだったかな。重力を操って、自分の身体を浮かせるっていう魔法」


(……あれ、もしかして。……また調子こいて、存在ないお話しちゃった……?)


「……レティシア、何故、重力という概念を知っている? そんな事、教えた覚えは無いぞ」


 レオナルドが訝しげに聞いてくる。


(あわわわっ、ま、まずい!)


「え、えーとねー。物が落ちるの見て、何で下に落ちるのかなって、何でかなーって考えてたら、何か、見えないで引っ張られるからかなーって思った…から…です……」


 かなり無理がある説明を、してみる。

 黙って聞いていたルシータが、いきなりレティシアの両肩を掴んだ。


「……素晴らしい!! 凄いぞレティ!! 何という想像力! 何気ない疑問から、重力という力を導き出すなんて!! レティは、魔術の真髄を極めれるかもしれない逸材だ!!」

「へ」

「流石レティ。……僕も、負けてられないな」

「成程。レティは、やはり知の女神の生まれ変わりだったのか……流石シータの子だ」

「お嬢!! 何かよく分からないっすけど、凄いっす!! ……あ、様忘れた」


(……もう誰か助けて下さい!!)

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