第11話 本当の兄妹になりたいんです
「……この、ばかちんがーー!!」
パチーンっ!
三歳の平手打ちがユリウスの頬に炸裂した。手のひらが小さい割になかなかの音が中庭に響いた。
「こうしゃくけはへーみんをようしにしたぐりゃいで、
わたちの…ほんとのあにになってほしいのでしゅ!!」
一気に捲し立てて喋ったので息が上がる。ユリウスは呆然とそんなレティシアを見ている。
右頬には、くっきりと小さな手のひらの跡が付いていた。
その顔を見たレティシアはハッと我に返った。
呆然とレティシアを見つめるユリウスに、どう何を言えばいいか分からなくなり、混乱したレティシアは居た堪れなくなって庭に逃げる様に走り出した。
庭は美しい花ばなが咲き誇っている。イングリッシュガーデンのような中を通り抜け、庭木の間を暫く走り続けると突然視界が開け、先には花畑の中央に大きな噴水が見えた。
レティシアは近づいて噴水の淵に両手を置くと、勢いよく顔を項垂れた。
(……やっちまった……!!)
仲良くする筈が引っ叩いた上にキレてしまった。何をやっているんだ自分は。
レティシアは自責の念に苛まれた。
「レティシア様」
その声に顔を上げると、シンリーが花畑を歩いてくるのが見えたが、再び下を向いた。
「……シンリー。どうちよ……わたちにいたま、たたいちゃた……」
「レティシア様」
「にいたま、わりゅくないのに。あーゆことゆうのしかたないことなのに、たたいちゃた……」
瞳からあっという間に涙が浮かんでくる。
「……確かに叩いたのは良くありませんでしたね。でも、あの時仰られた言葉は、全て間違っておりません」
その言葉に涙がポロポロと流れ出た。シンリーはレティシアの前に屈み込むと、優しい眼差しを向けた。
「悪かった事は後できちんと謝れば良いのです。そうすればきっとユリウス様は許してくれます。私はそう、思います」
「ごめん…なさい…!」
堪らずシンリーの胸に飛び込むと、勢いよく大声で泣き出した。
「レティシア様、謝る相手が違いますよ」
優しくレティシアを抱きしめると、その背中を優しくあやす様にポンポンとリズムよく叩いた。
「大丈夫、大丈夫」
懐かしいその響きを聴きながら、止まらない涙を流し続けた。
***
気が付いたら自分の寝室に寝かされていた。泣き疲れて眠ってしまっていた様だ。
ゆっくり上半身を起こすと、窓をぼんやりと眺めた。窓から漏れる日差しの明るさからそんなに時間は経っていないのが窺い知れた。
部屋を見回してみたがシンリーは見当たらない。レティシアは大きなため息を吐いた。
(……やってしまった事は仕方がない。シンリーが言ってくれた様にきちんと謝ろう。もし許してくれなくても、仲良くなる事をやっぱり諦めたくない……!)
失敗してもクヨクヨして逃げ出す事はもうしないって心に決めたのだ。
レティシアとして生まれてまだ三歳。これしきの事でへこたれている場合ではない。
気合を入れるように両手で両頬を軽く叩いた。
謝るとしたら全力で謝らなければ。
(だったらあれをやるしかない……!)
スライディング土下座だ。もうアレしかない。
どのタイミングでスライディングするか悩んでいると、遠慮がちな小さいノック音とともにシンリーが部屋に入ってきた。レティシアが起きているのに気がつくと笑顔を浮かべてベッドに近づいた。
「お目覚めでしたか、レティシア様。ご気分はいかがですか?」
「だいじよーぶ。めーわくかけてごめんね」
「謝られることではございませんよ。……そろそろご昼食の時間でございますがいかがなさいますか? こちらにご用意することも出来ますが……」
気を遣わせてしまっている様だ。しかしここで逃げる訳にはいかない。意を結したようにはっきりとした口調で答えた。
「だいじょーぶ。たべにいく。ユリリュシュ…ユ・リ・ウ・シュにいたまといっしょにたべりゅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます