えびふらいあんそろじー

第一話

 エビフライの規制条例が可決されてしまう。これが決まればこの地域には毎年六月二十一日のエビフライ祭に於いてのみでしか食することを許されない。

 著名人たちは、これは食への冒涜だ、そのうち人の好みいかんで条例が可決されていく暗黒時代の幕開けだと紛糾していた。しかし半ば強引ではあるが議会は可決に動いていた。

 町の声

 スーパーの惣菜担当者「アレルギー表示にエビをつけなくていいので作業的に楽になりました。以前は卵を書き忘れて大変なことになりましたが、そういうリスクとコストも減らすことができて助かりました」

 洋食店オーナー「エビフライという品が出せなくはなりましたが、別にエビフライ専門店ではないので、そのかわりハンバーグやコロッケを出していけばいいだけであって売り上げにはさほど影響はないですね」

 主婦の声「えっあっそうなの。別に知らなかったけど、どうでもいいわ。そんな毎日食べるものでもないし、だからなんなの」

 比較的好意的に受けいられている模様なので議会としても概ね胸をなで下ろしているところであった。

「じゃねえええよ。ふざっけんな。バッカヤロォォ。エビフライが食べられなくなるんだぞコラァ」

 声を荒立ててツバを飛ばしまくっているのはエビフライ隊長の蛯原だ。みんなからは蛯原リーダー、略してエビチリと呼ばれている(違う料理になってんじゃん)エビチリ率いるエビフライ規制を覆す会、略してエビセンはロビー活動を決起した(だからなんでいちいち違う食べ物のネーミングにする)

地下活動要員は全部で五人。議会やマスコミなどコネは一切ナシ。これで法案を覆そうとするのだ。どうするのエビセン。さらにネットなどで少し話題になったぐらいだ。少しかよってそうなのだ、ここは都会ではなくしかも限られた地域。エビフライにそんなに話題性がなかったのだ。これがハンバーグや唐揚げとかだったら一大論争になったかもしれなかったが、そうはならなかった。冒頭の著名人もバズりが期待できないからと、さっさと姿を消した。

 議会もあっさりしていた。

「エビフライがあっさりしてどうするんだよ。なにが一大論争じゃ」エビチリが叫ぶ。

「もっと世論に訴えかけをして署名活動や著名人を動かしていかないとどうにもなりませんよ」エビセンの参謀長エビータがメガネを光らせる(食べ物じゃないあだ名なのね)

「オレにステーキ食わせろ」叫ぶのは何かあったときのため肉弾戦を得意とする好物はステーキのその名もステーキ(もうエビですらなくなっちゃってる)

 紅一点、料理が得意なエビフライちゃん、その名もカニコロッケ、略してカニコ(カニでしかもどこにも由来がひっかかっていない)そして猿の着ぐるみを着て黙って席に着いている太郎、略してタロウ(なんで猿。そして略の概念とは)これがエビセンメンバーだ。以上で説明を終える(いやツッコミどころ)

「まずは一体誰がこの法案を持ち出したんだ」

「それは知事でしょう。それがこの特別区として認定されたとあります」エビータがため息をつく。エビータは有名大学を卒業しているということだが詳細は不明である。というかここにいるメンバーは誰ももとからの知り合いというわけではなく、なんとなくで集まったのである。お互いがお互いのことをまるで知らない。エビフライ規制に反対する同士としてツイッターで集まっただけにすぎない。ライン交換さえしていない。ツイッターのグループDMでやりとりしている。それが本アカなのかすらわからない。タロウに至っては来てもなにもしゃべらない。ツイート数も2しかない。ほとんどリツートしかしない。存在すら危ぶまれたが実際皆勤で集合している。もはや毎回同一人物なのかすら怪しくなってきた。よく他のメンバーも許しているな。

「腹減ったから今日は帰る」ステーキは飽きてくるとすぐこうやって途中で帰ってしまう。なんの思想も哲学も感じられない。ここにくればエビフライでも食べられるとでも思ってきているのか。あいにく規制中だ。(いやまだだった)

「饅頭くらいあげたらいいのに」

「ヤツは飢えたオオカミにしておく。そのほうが食い意地がさらにつく」

 どんな理論だよ。さておきこのままではジリ貧である。いうて不利な状況だ。それをここからスタートさせるってあまりにも無理がある。滅亡してしまった国を再興させてそれを天下統一までもっていこうみたいなムリゲーにも程がある。

「さっきからどこからかムリゲー、ムリゲー言っているのが聞こえてくるけど気のせいか」

「ただお疲れなだけでしょう。ここはお茶でも飲んで気を落ち着かせてください。ちょっと新聞社にコンタクトをとったら一社が興味をもってくれて僕らに取材を頼まれました。これから世論でもって動かしていきますよ」エビータがメガネを光らせる。根拠のない自信のある発言をしたときは必ずといっていいほどメガネが光るんだけどどういう構造になっているのだろうか。ライト内蔵なんだろうか。発言の度に。どんな自己顕示欲だよ。

「おお。読売や朝日などに取り上げられると影響力が違うからな。ネットだとよっぽどじゃないとすぐに埋もれてしまう」

「誰がそんな全国紙だっていいましたか。発行部数は一万くらいです。ちなみにさっき言った読売新聞は約八百五十万部ですね」

「おおおおおい。差がでかすぎるんじゃ。八百五十万分の一の部数の新聞て誰が読んでいるんだ、あ、」

 エビチリが言い終わる前に体は宙を飛んでいた。エビータ得意の背負い投げがここで炸裂した。エビータの得意技のひとつ居合い背負い投げだ。一瞬で懐に入り、どんな体勢からでもぶん投げることができる。彼は文武を極めた恐ろしい男であったのだ

「なんでそんなヤツがこんな田舎でエビフライのために戦っているの」カニコが薄ら笑いを浮かべている。なにおぅ秘密結社の精鋭はこうでなくちゃいかん。カニコはどんな能力があるんだ。

「え。ウチ。ウチは別になんもないし」

エビチリはため息をついた。

「ギャルの仲間とかいないのか。こうカリスマモデル的なインスタグラマーみたいなものとか」

「別にギャルじゃないし。そんな目で見んなし。だいたいなんかないとまずいわけ。そんなことないでしょ。あんまムカつくこと言わないでよねマジ」

 言い返されたエビチリはその迫力に押されてイスごとひっくり返ってしまった。

「マジウケんね。それ」カニコは乾いた笑いをけたたましく腹を抱えている。

 オッサンからするとカニコはギャル分類されなくて一体なんなのかさっぱりわからない。オルタナティブロックとヘヴィメタルとスラッシュメタルとパンクロックの違いくらいわからない。ギャルもギャルで種類があるのだろうか。ギャル界隈も複雑なのだろうか。じゃあカニコは何ギャルなのか。そもそもギャルじゃないっていっているからネオギャルなんだろう。ギャル発言から不機嫌になってしまったからきっとギャル地雷なんだろう。

「っていうかギャルの話もうすんなし」

 ヒィ。ギャル議題はとりあえず置いておかないと収集がつかなくなる。タロウは微動だにしない。寝ているのか、そもそも生きているのか。その着ぐるみ重くないのか、暑くないのか。夏は確実に死ぬだろ。

「タロウ、なにか意見はあるか」思い切って話を振ってみる。するとタロウは右手を上げて左右に二回振ると手を降ろした。あ、生きていて良かった。じゃない。ないんかい意見は。なにしに毎回ここに来ているんだ。ハッそうか。最終的にこのチームの切り札的最終兵器になる可能性があるわけだ。

「タロウ、君になにか特別自信あるような能力があるか。例えば力が強いとか実は語学が堪能とか。なにか自信あるやつは」

 タロウは顔の位置は動かさず右手を再び上げると二回振ってまた降ろした。

 ないんかい。

 というかもっと違うリアクションないのか。やる気あるのか。ええ。なんか言え。言えったら。わあわあわあああ。だめだ。ずっと同じ表情だ(ぬいぐるみです)

 明日は新聞記者が来るという。といってもなにも用意していないぞ。取材の質問とか。おいエビータ。エビータはソシャゲに夢中だ。ヤツは廃課金者でもある。シーズン変わるたんびに天井までガチャを回しまくる。はやめに目当てが当たってくれないと不機嫌マックスだ。今日はもうダメだ。こうなったら声かけたら殺されてしまう。もう明日はなるようになれだ。

 ここにはすぐ帰っちゃうヤツと無口と不機嫌しかいない。リーダーは孤独だ。

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