マーブルケーキで乾杯する日
ももいくれあ
第1話
1日中が、ほとんどぼんやりしていた。
そんな日々を過ごしていた。
あれから、何日経ったのか。
誰も教えてはくれなかった。
勿論、知りたくもなかった。
通り雨のような、嵐のような、そんな朝があったこと。
それが、幾つも度重なって、ワタシに重たくのしかかっていること。
窓の外の景色は、今日もすこぶる健やかで、
緑や水、青や、白。
そういった類の色とりどりで、ワタシのココロの隙間を埋めてくれた。
ようやく歩けるようになって、数日が経った気がしていた。
外の空気を吸い込むために、懸命に歩行に挑んだ。
テラスの椅子は木で出来ていて、ギシギシと小気味いい音を奏でた。
そんな朝を迎えていた。
今日は、何月何日か。なんて、
誰も気にしていない。
気にする余裕も、暇も、準備もなかった。
ただ、毎日が、夥しく重なっていった。
膨大な作業に追われる。
珈琲豆は、焙煎からすることになった。
いつの間にか。
それは、お豆の選り分けに始まり、
それは、途方もない時間を費やすこととなった。
かけ、痛み、ワレ、などなど見つけては、別にしていった。
カゴザルの中で、ザァーザァー、ザザンと心地よいリズム。
一粒ずつ丁寧に見極めていった。
慎重さと、粘り強さと、かすかなの鼻歌。
これが騒がしい朝を、唯一穏やかに誘ってくれる工程だった。
嬉しかった。
珈琲好きのカレ。
焙煎から挑むなんて、そんな日が来るとは夢にも思わなかった。
ワタシは、カノジョの傍らで、それとなく佇んでみては、
その香りのシアワセに包まれて、また眠りに落ちていった。
選分けられたお豆の焙煎作業は繊細で、
カノジョやワタシには未知の出来事だった。
ただ、少し焦げた香りと蒸した空気のようなカレの熱気、
滴る汗は美味しさへの標。
何日も日干ししたり、
とにかく手間暇がかかることでさらに美味しくなっていく様子だった。
一通りの手順を踏んで、整えられたお豆は、パッケージされた。
産地別に、ブレンドごとに、ラベルを貼って、仕分けされた。
まるで、出荷され、販売されるかのような仕業だった。
ワタシはその中から、
とりわけ深煎りで、酸味の少ない、バランスの良い逸品を選んで
ペーパードリップ用に挽いてほしい。とカノジョに頼んだ。
大きめのグラスに注がれた、深い焦茶色の液体は少し光って見えた。
ロック氷を3個入れて、牛乳を少々と少し。
やっぱり、マーブルケーキだった。
キレイに混ざり折り重なって、マーブルケーキの出来上がり。
ホッとした。瞬間。
目眩に襲われた。
一瞬の出来事に誰もが気づかなかった。
ただワタシだけが、ワタシの不在を確認した。
いつの間にか、油断していた。
カノジョがワタシを連れ去ってしまった。
マーブルケーキで乾杯する日 ももいくれあ @Kureamomoi
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