DEPTH006 沖野の過去

 イーウォン島、それは北方にある大和国(旧ニッポゥン国)と呼ばれている国がかつて保有していた火山島だ。


 しかし帝政暦856年に勃発した魔法と科学による初の魔科学大戦においてその島は、今の保有国であるアガサンカス帝国(ジーランディア大陸にある大国)の国土になった。


「――洋上に艦影無し、洋上ドッグに入港します」

「ああ」


 微速前進でゆっくりと入港し終わると、ドッグ内の艦固定装置が働き始めて船底から固定された。


「――ロックボルト、固定確認。 入港完了です、艦長」


「よし。 これより本艦は資材補充に入る、再出航は48時間後だ。それまでに[死に方準備]をしっかりと済ませておけよ? じゃ、解散!」


 そう。 今回のこの寄港で、イーウォン島に立ち寄るのは今回で最後なのだ。なぜ最後なのかって? この基地を建設したのは、大昔にあったニッポゥン国のカイジと呼ばれる軍隊が建設したらしい。この島は火山島だから石油やダイヤモンド、ボーキサイトなんかが大量に採掘されたが、それも年代と共に少なくなって行き、俺らの世代にもなるとそこをギリギリついたという訳だ。


「副長、暫く一人にしてくれ」


「(また、あの場所か・・・)わかりました」

「すまんな」


 俺はそう言うと、悲しげな表情をしている那珂野なかの史果あやかに背を向け、歩いて行った。


 そして、整備ドッグから歩いてほぼ対岸にある墓標だらけの高台に着くと、「来たよ、みんな・・・数年ぶりだね」と声をかけて【沖野家】と岩に掘られた字の前にその辺で摘み取って来た野花の花束を捧げた。


 俺の家族は魔科学大戦の時に、当時はまだ小国だったアレストニア王国によって殺された。


「――海斗、父さんたちは後で合流するから今はお姉ちゃんたちと一緒に逃げなさい。 良いね?」

「嫌だ! 僕も一緒にいる!」


「ダメだ、ダメだよ。良いから、一緒に行きなさい、良いね?」

「嫌だ、嫌だ!」


 駄々をこね続ける当時3歳の俺の頬を平手で父さんは叩きその時、最初で最後の叱責しっせきを受けた。


「言うことを聞きなさい!海斗!」

「・・・うぅ――」


 それでも聞き分けの無い俺を姉貴は抱き抱えて、実家から離れて走り始めたらしい。


 え?なんで、そんな話し方なのかって?


 だってその後に敵の攻撃が実家に直撃して、俺たちが見えなくなるまで男泣きしていた父さんと寝室で冷たくなって寝ていた・・・・・・・・・・母さんを殺したのだから。


「・・・。 チッ、嫌な思い出だ」


 軽く舌打ちして憎悪ぞうお軽蔑けいべつ対象のアレストニア王国方向の水平線を見て、大声で吠えるように「ぶっ殺してやる! クソ国家!!」と怒号を飛ばした。

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