第2話 美人双子エルフ姉妹

 ゼルマ王国の王都ワーレンは、『ラスト・オブ・ファンタジア』のゲームスタート時の最初の街だ。



 人族国家最大の領土を誇るゼルマ王国の王都であるため、周辺の魔物は弱く、初心者でも安心して冒険者を始められる街でもあった。



 そして、王都でもあるため、冒険者ギルドでは、国難級とも言える最難関級のSランクの依頼が受けられる場所でもある。



 そのため、初心者から熟練の冒険者たちが集まっており、彼らが持ち込む魔物の素材や希少な薬草、鉱物、動物などがドラグニティ市場で売り買いされていた。



 その中でも俺が狙うのは『ジャンク品』。



 誰かが使った魔導具や壊れた品物。



【ジャンク屋】の俺が持つ、唯一の生産スキルとも言える【価値創造】は、そういった品物にしか発動しない。



 つまり、俺は新品の部品では魔導具を作り出せないポンコツ生産職である。



 ポンコツ生産職が、壊れた品や中古品から使える部品を選び出し、自由に再構築させられるのが【価値創造】スキルの力。



 苦行を課せられるわりに、地味に使えないスキルに思えるが、案外凝り性の俺にはこのスキルが合っていた気もする。



 だって、有り余る金を積んで、無駄に豪華な仕様の万能最新鋭魔導具を作るよりか、機能を絞って依頼人の問題を解決する魔導具を作り出す方が楽しいだろ。



 同意が得られそうにないが、俺はそれが楽しいので店もその方針を貫いて経営してる。



「柊斗さん!」



「柊斗、こっちだよ。こっち!」



 人が溢れ返るドラグニティ市場に着くと、入り口にいた二人の女性から声かけられた。



 両方とも金髪碧眼の美女エルフで、右目の下に黒子があって、青い服を着て、おっとりしてるのが姉のシェイニー。



 逆に右目の下に黒子があって、赤い服を着て、勝気なのが妹のレイニーだ。



 どっちも120歳の若いエルフで、男が10人いたら10人が目を奪われる美女エルフ姉妹。



 我が『ジャンカー魔導具店』が誇る看板娘たちだ。



「すまない。本当なら間に合う時間だったんだが、店を出る前に来客があって遅れた」



「本当に? また、寝坊してたんじゃないの? だから、あたしたちが一緒に住むってずっと前から言ってるじゃん。ほら、そうしたら柊斗が寝坊しなくなるわけだし」



 それはできればご辞退したい。



 美女と四六時中一緒に生活していたら、こっちの精神の休まる時間がないのだよ。



 それにシェイニーもレイニーもまだ未婚であるし、男と一緒に同棲しているなんて噂が立ったら嫁入りできなくなる。


 なので、今は店から歩いて10分ほどの場所にある買い取った邸宅を、従業員である二人の宿舎として与え、そこから店に通ってきてもらっているのだ。



 彼女らの保護者として、それだけは避けねばならないのだ。



 まぁ、28歳でしかない俺の方が、断然若い保護者なんだがな。



 彼女らは実年齢120歳だが、精神年齢は10代前半くらいで世間を知らなさすぎる。



 というのは嘘だ。



 彼女らは俺とともに冒険者をしていた5年間で、世間の人と交わり、人あしらいを覚え、金銭の管理もできるように成長している。



 店を持った今は、俺の方が保護されていると言わざるえない気がしていた。



「レイニー、柊斗さんが困ってるでしょ。わたしたちは、奴隷としてご主人である柊斗さんにお仕えしなければならない身の上。奴隷が主人と一緒の邸宅に住むなどということが許されるわけが――」



 シェイニーさん、貴方はいつまで奴隷のつもりでいるんですかね……。



 冒険者になった時、奴隷契約は破棄してたと思うんだが……。



 ことあるごとに奴隷ムーブを入れるのをやめてもらえませんかね。



 この王都だと、辺境と違って、コンプライアンス的に奴隷持ちって白い目で見られるんですよ。



「シェイニー。君とレイニーはもう奴隷じゃないって、いつも言ってるだろう。大事な従業員だ」



 強めの言葉をかけたことで、シェイニーがビクリと震える。



 叱られたと思ったんだろう。



 そういうわけじゃないが、一時的に俺の奴隷だったことは事実だが、二人に奴隷であり続けることを望んではいない。



 冒険者を廃業する時に、魔法が使えるようになった二人には、エルフの森に戻るよう諭したが、どうしても残りたいと言うので店の従業員をしてもらっている。



「も、申し訳ありません。柊斗さんの経営する商店の従業員であることを失念しておりました」



「分かってくれればいい。君らは自由にやりたいことを選択できる権利を持っているからね。忘れないように」



「じゃあ、じゃあ、あたしは柊斗のお店に住みたい! 住む! 住んでいいでしょ! あたしはそうしたい!」



「却下! レイニー双方の同意な場合は不成立だって教えたはずだ」



「ケチー!」



 舌を出して怒ってる姿も可愛いのは、さすが森の妖精と言われるエルフなだけのことはある。



 レイニーの姿に思わず頬が緩みそうだった。



 こんな感じで双子エルフを看板娘として雇い、魔導具の販売店を経営してるわけだが――



「柊斗さん、レイニーもう大売出しが始まってますから! 早く行かないと目当ての品を買い逃しますよ」



 奴隷ムーブさえしなければ、案外しっかりしたところがあるシェイニーが、本来の目的を思い出させてくれた。



「しまった! そうだった! ドラグニティ市場のガラクタ街に急ごう! シェイニー、レイニー置いてくぞ!」



「待ってください!」



「待ってー!」



 俺たち3人は、目的地であるドラグニティ市場のガラクタ街へ向け、月に一度の大売り出しに集まった人波をかき分け走った。

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