ジャンカー魔導具店、始めました。

シンギョウ ガク

第1話 異世界人 佐井場柊斗


 俺が異世界人佐井場柊斗さいば しゅうとで間違いないかだって?



 ああ、そうさ。間違ってないぞ。



 異世界人である俺のことを聞きたいだって?



 王都じゃわりと知られてる話だと思ってたが、案外知られてないんだな。



 今ちょっと時間ないんで、色々と端折って説明するけど、それでいいか?



 おっけ、じゃあ俺の身の上話をなるはやで語らせてもらうぞ。



 俺はもともと日本ってところに住んでて、体感型VRMMOゲーム『ラスト・オブ・ファンタジア』ってゲームで最難関職と言われたジャンク屋のジョブスキルを極め、スキル【価値創造】をようやく手に入れたら瞬間、異世界に飛ばされちまったんだ。



 しかも、飛ばされたのは、VRMMOゲーム『ラスト・オブ・ファンタジア』に酷似した世界。



 え? 意味が分からない。大丈夫、俺も意味が分からないから。



 意味が分からないまま、飛ばされた異世界ではあったけど、空気もあるし、飯も美味い。



 言葉や文字もジャンク屋のジョブスキルにあった【言語マスター】のおかげで苦労したことはない。



 ただ、一つめちゃくちゃ困ったことがあった。



 それは、俺の持つジョブ【ジャンク屋】が戦闘系スキルを一切持たない、生産職だったからだ。



 つまり、この異世界に存在する魔物と戦うことが一切できない。



 ゴブリンくらいならなんとか倒せるかもしれないが、強い魔物に襲われればこの世界の住民よりも弱い存在でしかないのだ。



 まぁ、『ラスト・オブ・ファンタジア』で【ジャンク屋】が最難関職って言われるのは、戦闘系スキルがないため、他人に寄生しないと絶対に成長できない職種であり、ジョブスキルも交渉系や知識系に偏っており、唯一使えるスキルが【鑑定】くらいという非常に困ったジョブだからだ。



『ラスト・オブ・ファンタジア』のどのチームギルドも、戦えないうえ、生産物も作れない【ジャンク屋】を入れたがらないため、ぼっちプレイを強制され、誰もが途中で挫折するとまで言われてる。



 そんな【ジャンク屋】のまま、『ラスト・オブ・ファンタジア』に酷似した世界に飛ばされた俺はどうしたかって?



 まぁ、話すと長くなるので省略させてもらうが、【ジャンク屋】のLV100で開放された【価値創造】スキルがあったおかげで、異世界に飛ばされて5年経った今も無事に生活ができてるぜ。



 王都ワーレンに念願の店も構えて、従業員も雇い、困った人を助けている。



 え? 店の名前を教えろ? そこの看板に書いてあるだろ。ほら、そこ。『ジャンカー魔導具店』って言うんだ。



 店のキャッチコピーは『貴方のお困りごと、特殊な魔導具で解決いたします!』って感じでやらせてもらっているぜ。



 これでも、王都ワーレンじゃ、ちょいと名の知れた店になっているんだぞ。



 だから、あんたも俺に会いに来たんじゃないのか?



 まぁ、いいや。んなわけで、身の上話はこれくらいにして、今から仕入れに行かないといけないから、ここらで終わりでいいか?



 なんで、王都に店が開けたかだけを教えろって?



 そりゃあ、誰も討伐できずに困ってた炎竜フレアドラゴンの討伐に成功したからさ。



 冒険者ギルドに売ったフレアドラゴンの素材と、ゼルマ王国からもらった褒賞金を元手に、冒険者を引退し、王都の片隅にこの『ジャンカー魔導具店』を開いたのさ。



 戦闘系スキルがなく戦えない俺が、なんでドラゴン討伐を成功したかって? おいおい、もう時間がないんだが話さないといけないか?



 しょうがない。これはあんただけ特別に話してやるが、あんまり言いふらさないでくれよ。



 大事な従業員たちの秘密にも触れるからな。



『ジャンカー魔導具店』の看板娘、シェイニーとレイニーの双子エルフが、俺の代わりにフレアドラゴンと戦ってくれたんだよ。



 彼女たちは魔法に長けたエルフであるにも関わらず、魔法が発動させられない不完全な存在として、森から追放され、奴隷商に騙され、売られようとしていたんだ。



 変態貴族野郎に売られる寸前、俺が交渉術で彼女らを買い取った。



 そして買い取った二人が、エルフなのになんで魔法が使えないかを知ろうと、【鑑定】してみたってわけ。



 姉のシェイニーは、精霊魔法の威力を決める属性のステータスが全体的に高く、特に風属性がSSクラスと特化した数値だったが、魔法を発動させるために必要な魔力がGクラスで、魔力がなくて発動させらない状況だった。



 で、妹のレイニーは、魔法の威力を決める属性が全てGクラスだが、魔法を発動させるための必要な魔力がSSクラスとなってて、発動はしてるけど全く周囲に効果を及ぼさない状況だったんだ。



 つまり、どっちもいびつなステータス過ぎて魔法が使えないことが判明した時、俺はピンときたわけ。



 妹のレイニーを魔力の供給源として、姉のシェイニーに魔法を発動させれば、とんでもないレベルの魔法が発動するってね。



 ジャンク屋を極めし者だけが使える【価値創造】スキルのおかげで、ジャンク品から生産物が作れるようになってた俺は、彼女たちの持つ問題を解決するため、なけなしの金をはたいてジャンク品を買い集めたってわけ。



 基本的にジャンク品ってのは中古品で、ぶっ壊れてるとか、消耗度が分からない物が大半なんで、『ラスト・オブ・ファンタジア』でも金に困ったやつしか手を出さない品なんだが、ジャンク屋の俺は【鑑定】を持っているため、状態の良い掘り出し物が分かるんだ。



 で、【鑑定】を駆使して、買い集めたジャンク品を使い、シェイニーとレイニーの姉妹の問題を解決するため作ったのが、『試製風王の聖杖』さ。



 レイニーの持つ、膨大な魔力を貯め込める魔結晶と、シェイニーの持つ強力な魔法発動力をコントロールする魔石を埋め込んだ『試製風王の聖杖』は大成功。



 最高レベルと言われる精霊王級の風魔法が発動し、雑魚は一発で一層できた。



 二人も自分たちが持つ能力を認識してくれて、コンプレックスが解消された。



 俺たちは冒険者となって、魔物を狩りつつ金を貯めたってわけ。



 そして、Sランクの冒険者になったころ、さっき言った炎竜フレアドラゴンを討伐し、稼いだ金を元手に王都にジャンカー魔導具店を開いたってこと。



 これで全部話したぞ。そろそろ、マジで仕入れに行かないといけないんで、行っていいか?



 今日は月に一度のドラグニティ市場での大売り出しの日だ。



 出遅れると目当ての掘り出し物が見つけられなくなる。



 それにシェイニーとレイニーと、市場で待ち合わせしてるんだ。



 遅れたら、また怒られるんでな。



 依頼したかったって? すまないな。店は今日は休みだから、また明日で直してくれ。



 あんたの困りごとは、異世界人の俺と優秀な従業員たちで解決できると思うぜ。



 じゃあ、また明日!



 俺は店の前にいた老紳士に別れを告げると、双子エルフが待つドラグニティ市場へ向かった。

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