波打って、平静

ぽのむら

嫌いなもの

 目覚ましが鳴り、鳥がさえずり、ゴミ回収の車がゆっくりとしたリズムで辺りを走行する。

 一度ひとたび、幼児の送迎をするとそこでタイミング良く遭遇した幼児の保護者と近況情報の無駄話。ぺちゃくちゃと何十分、何時間。

 昼になれば、トラックの走行音は一層に増え、学校と名のつく機関から聞こえてくるのは甲高い子どもの騒ぐ声。

 夕方にかけて、それは公園へと広がり、帰路へ広がり、都市をむしばむ。

 夜になれば、酒所は賑わい、終電にかけて線路は音を響かせる。暴走族の様に騒音を振り撒いて道路を走り去る輩もいれば、窓全開で音楽を世界に靡かせるロマンチストだっている。



 ____そんな世界がだった。



 順風満帆に進む他人の人生を見せつけられている様で。

 誰も意識してはいないその生活音が、人を人たらしめているその音ひとつひとつが、悪意のない攻撃性を含んでいた。


 薄暗い部屋でそんな事ないよと自身の頭にいるもう一人の声が半濁する。

 嫌気がさして少しだけ開いていたカーテンを思い切り締め切り、ベッドに横になる。自分だけの暗闇に落ちてしまえばこんな世界より幾分もマシな世界へいける気がした。


 目が覚めて仕舞えば、足元から香る現実が鼻を突き抜ける。

 吸いたくないその香りを吸わなければ、死んでいるこの世界では死んでしまう。


 生きていたくもないのに、死ぬという決定には人間らしくも踏み込めなかった。

 散乱している参考書と教科書の山を睨む。無感情なそれにただただ嫌悪感。


 視界に入れたくもなくてまた目を瞑る。


 そこにインターフォンが無遠慮に鳴った。一階にいる自身の母が対応しているらしい声が聞こえ、その声のトーンに誰が来たのかを察する。


 重い体を動かし、自身の部屋の鍵を閉める。

そしてまた泥濘が手招く方へただただ向かう他なかった。

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