第3話 ファーストキスは王子様
「会いに来た」
「は? でも後で面会が……」
「そうなんだけど、仕事が早く終わって暇だったから」
「はあ……」
すると今度はオーエンが質問をしてきた。
「ねえ、君のその髪色は自毛だよね?」
「そうですけど……」
エマは自分の髪を触りながら答える。キースといいオーエンも髪色を聞くということは、やはり城では明るい色は良くないのだろうか。
「あのー、やはりこの色は城では駄目なのでしょうか?」
駄目なのならば、すぐにでも染めなくてはいけない。
「いや、綺麗な色だなと思っただけだから、そのままでいいよ」
エマは顔をばっと赤くする。生まれて初めて男性に褒められ照れる。
真っ赤になったエマを見てオーエンは笑う。
「顔赤いよ。君すごく分かりやすいね」
「う…………」
恥ずかしくなり下をむく。
――わー、どうしよう。殿下に褒められてしまった。
だがそこでキースの顔が浮かぶ。
――そうだ! 殿下と話しちゃだめだった!
「で、殿下! すぐお部屋にお戻りください!」
まだ赤い顔をしながら焦って言うエマの態度にオーエンは首を傾げる。
「なんで?」
「な、なんでって! それは殿下と私では身分が違い過ぎるため、話すことは許されてないからです!」
まじめな顔で言うエマにオーエンは最初何を言われたか分からなかったが、すぐに気付いたようだ。
「あー、キースに言われたんだな」
「あ、えっと……」
面と向かって本当のことを言っていいのか
「はい。私は孤児院育ちの一般市民でも
「でも君は俺の補佐役兼世話係だろ?」
「あ、そのようですね。名前だけですが」
「でも職は職だ。だから俺と君は話していいんだよ」
「はあ……」
――そんなこと許されるのだろうか。あのキースさんが許すわけないと思うんだけど。
エマは怒ったキースの顔を想像し身ぶるいする。
「たしかにそろそろキースが来そうだな。部屋に戻るか」
オーエンは立ち上がると出口の扉に向かうわけでもなく、ベッドの横の壁へと向かい手を翳す。すると壁に扉が現れた。
「え! 扉?」
エマはベッドからおり食い入るように扉を覗き込む。
「あ、これ、俺の部屋と繋がってるから」
「は? ちょ、ちょっと待って! どういうこと? てか今勝手に扉が現れなかった?」
あまりにも奇想天外なことが起きてエマは体をのりだし敬語を使うのも忘れ叫ぶ。
「このことはキースも使用人も知らないから、誰にも口外しないようにね」
「い、いや、それよりどういうカラクリ? 魔法? なんかの術?」
頭に手をあて考えるが、軽いパニック状態でうまく頭が回らない。そんなエマを見てオーエンは笑う。
「すごい驚いているね」
「いや、普通驚くでしょ!」
つい突っ込みを入れて、相手が王子だという事に気付く。
「あ、いや、あの、えっと、す、すみません。これは違うの!」
もう何を言っているのか分からなくなり、余計にパニックになり頭を押さえる。
「あー! もうー! 何してるの私! 殿下に対してため口使ってしまった! あー! どうしよう!」
叫びながら天を仰いだその時、ふと影が落ちる。
――え?
視界が見えなくなったと思った瞬間、唇に柔らかい感触が伝わる。そして間近にオーエンの顔があり、その感触がオーエンの唇だと気づく。
「!」
反射的に後ろに退こうとするが、後頭部を押さえられていて身動きが取れない。数秒間口づけをされたままエマは思考が停止する。そしてやっと解放された時には放心状態になり、顔を真っ赤にし、ただオーエンの顔を凝視することしか出来なかった。
――今、殿下にキスされた? なんで?
「落ち着いた?」
「え?」
「パニックになって叫んでいたからね。あのままだと外まで声が聞こえて誰かがやってくるところだった」
エマの叫び声で誰かが部屋に入ってきたら、オーエンがいることも、扉のこともばれてしまう。それを防ぐための仕方ない口づけだったのだと気付き青くなる。
「す、すみません」
エマはあまりの失態に頭をさげる。
「謝らなくていいよ」
「い、いえ、私の不注意で殿下にご迷惑を掛けるところでした」
「堅いなー。さっきみたいに普通に話してくれていいよ」
「そ、そんな! さっきは、気が動転してて、つい……」
そう言いながらもエマは顔を上げることが出来ない。今も心臓がドキドキしていてどうにかなりそうなのだ。まだ唇には感触が残っている。相手が王子とかそういう問題ではない。初めてのキスにエマは動転していた。
「なんで顔上げないの?」
ずっと下を向いているエマを不思議に思ったオーエンが下から顔を覗き込む。驚きエマは頭を上げオーエンの反対へ顔を背ける。
「い、いえ。で、殿下の顔が見れないだけです」
真っ赤な顔をして応えるエマにオーエンははっとする。
「もしかして、キス初めてだった?」
「な!」
つい反論心からオーエンへと視線を向けるとまた目があった。オーエンは蔓延の笑顔でエマを見ている。またそれが恥ずかしくまた目をそらす。
「ほんと分かりやすいな」
「か、からかわないでください!」
ムッとして反論すると、またオーエンが一歩エマの前に歩み寄ったと思った瞬間、今度は額に口づけされた。
「で、殿下!」
額を抑えながら抗議をするように叫ぶと、
「リオ」
と言われた。
「え?」
「俺の名前ね」
「オーエンでは?」
「それはファーストネーム。ミドルネームはリオ。親しい者にはリオと呼ばせている」
「でも私はまだ今知り合ったばかりですが…………」
それもまだ話して数分しかたってない。するとオーエンは意地悪い顔をして言う。
「キスをした親しい仲じゃないか」
「殿――」
抗議しようと口を開いた瞬間、腰に手を回されまた唇で塞がれた。だがすぐに離れる。
「リオと言った」
「そ、そ、そんなの無理――」
また塞がれた。だがすぐにオーエンは離れる。
「な、な、なんでキスするんですか!」
あわあわしながら真っ赤になりエマは怒るが、どこ吹く風だとオーエンは笑う。
「だって言うこときかないから」
「だからってキスすることないじゃないですか!」
抗議をしながらどうにかオーエンから離れようともがくが、びくともしない。見かけよりも力が強い。
そんなエマを楽しむように笑顔を見せオーエンは言う。
「リオだ。エマ」
「離してください!」
キッと真っ赤な顔で睨むが、オーエンはまったく動じず笑顔で言う。
「リオと呼ぶまで離さない」
なんと強引だとエマは眉を潜める。王族という者は皆こう強引なのかと疑いたくなる。だがいつまでもこのままではこっちが恥ずかしさでどうにかなりそうだ。しかたなくエマは小さな声で言う。
「……リオ殿下」
「殿下はいらない。リオでいい」
「そんなの無理! キースさんとかに怒られちゃう!」
「2人の時だけだ。それなら問題ないだろ?」
確かに2人だけの時なら周りから怒られることはない。だが2人だけの時などあるのだろうか。それは後で考えることにする。
「わかりました。リオ」
「敬語はいらない」
もうだんだんと面倒くさくなってきた。はぁと大きくため息をしながらやけっぱちに言う。
「わかったわよ! リオ」
すると蔓延の笑みを見せリオはエマを解放した。そして壁の扉へと行くと、
「また後で。エマ」
と言って出ていったのだった。
残されたエマはその場に座り込む。そして真っ赤な顔のまま呆然とするのだった。
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