第25話⑦
施設の仕事を終えたミアは、自宅に戻ると一人分のお茶をいれて自分の部屋に戻った。
ついに、というか、ようやくともいえるのか、両親はこの家を売ると決めた。
売却費は、施設の立て直しのために使われるのだ。
しかし、それだけでは足りず、両親は多額の借金をした。しかも、悪魔相手に。
悪魔たちがその頭脳と知恵と機転で、貸金業をはじめとする人間のビジネス界で成功を収めているのは、ミアたち天使の間でも有名だった。
そして、彼らの仕事の仕方が、天使には思いつかないほど際どいことも。
ミアが事前に渡された計算書にあった金利も、ありえないほどの高さだった。
ミアは反対したし、両親と一緒に施設の運営に関わるハイド夫妻も反対した。
「でもね、他の人からは借りれなかったのよ」
「ジャスティンさんは、我々の話をじっくり聞いてくれた。そして、意義のある事業だといってお金を出してくれると言ったんだ」
ミアの両親は、穏やかだけれど揃って頑固だ。信念の人ともいえるかもしれない。
そして、契約の日。
青い空に、黒い大きな鳥が現れた。
ミアの前に現れたのは、いつかのミアが憧れた、夜空を斬って飛ぶ悪魔だった。
少年ではなく、すっかり大人だったけれど、ミアは一目で彼だとわかってしまった。
「よろしく、ミア。ぼくの名まえはジャスティンだ」
出された手を無視するわけにもいかず、ミアはジャスティンの大きな手と握手をした。
その日の夜、ミアは窓の外になにかがいると感じ、もしやの予感で窓を開けた。
「……」
「……」
ミアは、開けた窓をそのまま締めた。
「ミア、窓を開けてくれ」
名指しでお願いされたが、今は仕事の時間ではないので聞く筋合いはない。
そのまま窓から離れると、果たしてその人はミアの目の前に立っていた。
昼間会った悪魔のジャスティン。
両親にお金を貸した悪魔。
そして、かつてミアが羽を欲した人。
「不法侵入ですよ、ジャスティンさん」
「『さん』なんて付けなくていいよ、ミア」
「わたしは、『さん』を付けて欲しいです、ジャスティン」
ジャスティンが笑う。
「君が変わらず君でいてくれて、ぼくは嬉しいよ」
「あなたは、随分変わったわ」
「でも、君はぼくだとすぐにわかったね」
ミアたちのいる場所へ、彼は飛んでやってきた。
その姿を見た瞬間、ミアにはあれが彼だとわかった。
かつて、毎晩のように会いたいと願った、夜を斬りさく黒い鳥。
悪魔の少年。
青い空一面が黒くなってしまうんじゃないかと思うほど、その存在は大きく、圧倒的な迫力があった。
「悪魔にお金を借りるなんて」と難色を示していたミアだけでなく、ハイド夫妻も、これはもうどうにもならないことだと、理解した。
彼の姿そのものの強さに、負けたのだ。
ジャスティンの羽は、明るい日差しの下でも艶やかに光っていた。
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